第17話 瑠璃とプールで対決! その2
「それに……」
ラピスが周囲を見回す仕草。
五メートル程先。プール淵に座って俺達の様子をなんだかな~と眺めている男子連中と目が合ってから、再びこっちに視線を戻す。
「学徒達に若いうちから社会の本質的な事実を教え学ばせるというのは、大切な事です」
経験豊富な社会の教師がいう様な事をノタマワってきた。
「誰にも相手にされてないようだがな……」
こちらに視線を向けている男子連中を見ながら感想をつぶやくと、むうっという膨れっ面を返してきた。
「そんなことありません! 皆さん私達に注目しています!」
「そりゃあ、水パン一枚の男子ばかりがいる場所にそんな格好をした女子が一人いたら、健全な男子なら注目もするだろうよ」
すぅ~とラピスの頬が薄っすら桜色に染まる。
「それは……まあ、そういうこともあるとは思います。私も恥ずかしくてすごくドキドキしているし。でも男子の人達は私のこういう姿を見ているだけじゃなくて、さっきまでの演説もちゃんと聞いてくれていたって信じてます」
並んで座っている男子生徒に聞いてみた。
「こいつの演説、どうだったか教えてもらえるか? こいつ本人の前で言いにくいとは思うが」
先輩に悪気はない。というか、悪の魔法少女ではあるが悪を行っているかと言うとそうでもないので、少し心苦しくもある。返事が耳に次々に届いた。
「演説ってさっき何か喚いてたアレですかー?」
「つまんなかった」
「意味不明」
皆々様、不平不満をこぼし上げる。その中に、俺に向けた質問が入っていた。
「お前、暑苦しい格好してるけど、あの痴女の知り合いか?」
俺は返答に困る。良く知っているんだけどな。
「あの痴女有名だよな。この街の『悪の魔法少女』。たまに街中で見かけるよな。こんなとこも活動範囲なのか?」
続けて。
「エロいコスチュームだけど、水着男子の中に乱入してくるのは……」
「ちょっと過激過ぎて、たじろいじゃう」
「ドン引き」
「まあ目の保養にはなるんだけど、授業中に突撃するわけにもなー」
「なんか違うんだよなー。スクール水着の清楚系女子にチェンジでお願いします」
男子連中が互いに意見を交わしながらわいわい騒ぎ立てる。
こいつらと会話して、何でエロコスチュームの先輩が男子の食い入る様な直視や凝視を浴びてなかったのかわかった気がした。
再び瑠璃を見る。
不満たらたらの様子。
両手でステッキを掴みながら、少し震えている。
「まあ、こんなところだわな。お前の気持ちも分らんではないんだが、なんというかあまり現実的じゃないというか……」
「そんなことありません! 私は真剣です!」
瑠璃が生徒達を睨みつけた。
「でもなー」
「女子に対する憧れが台無しなんだよ」
「肉食系はちょっと……」
くうっと歯噛みして呻く瑠璃。懊悩に身悶えしている。あれがさっきまで部室で頬を染めていた清楚な高城先輩なんだから、世の中どうかしている。
すると、一人立ち上がって自己主張をする奴がいた。
「俺はこいつ、嫌いじゃないぜ。女はエロいのが正義」
続けてびしっと瑠璃に指をさす。
「そこまでの格好が出来るんだ。揉ませろ。揉ませたらお前の演説にも付き合ってやる」
言い放って、「揉ませろっ、揉ませろっ」と手を叩き始めた。
一人それに加わり。また一人囃子に加わる。
やがて大きなシュプレヒコールとなって瑠璃を責め立ててきた。
瑠璃は男子達に睨みを返しながらも涙目。感情が高ぶって我慢が効かなくなったのか、
「なんですかっ!!」
大声で咆哮一閃。
「いくら私がそういう嗜好の女性だからっていっても理性だってあるんですからっ!」
言葉をぶつけて返す。
「初めては如月さんに喜んでもらうんですっ! 私には如月さんがいますっ! 貴方達に相手にしてもらえなくっても全然平気なんですからっ!」
一気にまくし立てる。
『初めて』というセリフを聞いて俺の方が恥ずかしくなった。
いや、俺も正直男だから、ラピス、というか瑠璃先輩にそういう事を言ってもらえると嬉しくて物凄く興奮する。
だけど、戸惑いというかたじろいでしまう部分が多々あることも否定できない。
近づきたいんだけれど、今の関係で近づくのはなぁ~、というのが率直な所だ。
ラピスはそのまま腕で涙を拭いながら「うぇーんもうこねーよー」と走り去って逃げてゆくのだった。
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