第12話 ラピス部活(社会環境改善部)に入部

「初めましてじゃねーよっ!」


 思わず突っ込んでしまった。


「ええと……」


 困った様子で、瑠璃が俺の大声に困惑顔を見せる。


 思わず突っ込んでしまったが!

 どうすんだ、これ? と頭を抱えたくなってしまった。


 確かに以前の対決の会話で、ラピスが女子高生で、どこかの高校に通っているとは聞いていた。がまさか、同じ彩雲学園だとは思いもしなかったのだ。


 往来での対決シーンで気付くべきだった。行動パターンとか、街中に現れる時間帯だとか。同じ学園に通って、たぶん同じ街に住んでいるから合っていたのだと、今更ながらに想像がつく。


 どうすんだよ、これっ!

 再び脳内で毒づいて見やる。


 とても清楚で上品な面立ち。どこかの深窓のお嬢様だと言っても通用するだろう。ワンポイントの右目下の泣きぼくろも健在だ。背の高さも百六十を超えたくらいで、長いサラサラロングの黒髪といい凹凸の形良い体型といい、全く、まごうことなく、悪の魔法少女ラピスラズリその人だった。


「ようこそ。社会環境改善部へ。歓迎いたします。にこっ」


 瑠璃が純真無垢そうな表情を綻ばせる。


『にこっ』じゃねーよ。


 この女、俺が正義の変身ヒーローホワイトスーツマスクだとは露程も想像していない。当たり前だ。白い変態スーツを身に纏って、アイマスクで顔を隠しているのだからわかるわけがない。沙夜は俺の事を見破ったが。


「社会環境改善部は、部長である三年の私がいるだけです。私が卒業したら、いいえ、卒業しなくても新入部員が入らなければ廃部になってしまいます」


 自分のヘンタイ性癖をおくびにも出さずに、深窓のお嬢様を演じてくる瑠璃、もといラピス。俺は騙されねーからな。


 お前、水着レオタードで往来を闊歩して、女王様のムチを振り回して俺を嬲ってきた事を忘れてはいない! 


 俺を猫の様にじゃらして『興奮する』とか赤ら顔で言っていたのはどこのどいつだ? 

 俺はお前の正体、隠している本性を知っているのだ。


「もし、貴方が部に入ってくれるのなら、私はこの部を作った甲斐があったと信じられます」


 自分の両手で、俺の手を包んできた。俺の指にはめてある変身リングと同じ様な指輪を、こいつもはめていた。


 ラピスの掌が温かくて、思わず顔を見てしまった。

 感謝が滲み出ている。

 マジか、こいつ。嘘偽りには到底見えない。


 最初は猫を被っているだけだと思っていたのだが、ちょっと違う様でもある。二重人格という訳でもないんだろう。ラピスと対峙している際にも、ヘンタイ痴女の露出狂ではあったが、その育ちの良さ的なものは見え隠れしていた。


 こいつにも色々あるのだろう。密かな欲求とか、密かな欲望とか。隠されて隠してきたからこそ悪の魔法少女になった時には全開放されてしまう秘密の性癖とかが。多分。それ程外れてはいないと思う。


 目の前の少し潤んで輝いている瞳を見ながら、なんとなくそう思う。


 しかし、こいつがヘンタイ痴女の悪の魔法少女であることには変わりがなくて。


 ちらちらと、ラピスであるときの卑猥なエロい真っ白レオタードが脳裏に浮かぶ。


 今はベージュのカーディガンにミニスカートで制服に身を包んでいるが、その豊満な胸はブレザーを着ていないせいでかなり目立っていて、スカートから出ている形の良い足とかが、あのヘンタイコスチュームの女性のイヤラシイ部分を彷彿とさせてしまって。正常な思春期の男子としてはどうしても意識してしまい、俺はかぶりを振る。


 いや? 意識してしまうのは仕方がないのか。あの身体そのままのラインに白を纏っただけのお年頃の痴女と交流しているのだからやむを得ないのか。あの格好で頬を染めて『興奮します』とか言われたら、俺も昂ぶってしまうのは考えてみればごく正常だ。


 俺は正常なのか?

 当たり前なのか?

 思考がぐるぐると巡って止まらない。

 俺は一体どうすればいいんだーーーーーー!

 声にならない叫びを上げたが、


「お前たち、初対面だよな?」


 今まで黙っていた吉野先生の一言で我に返る。吉野先生はいつになく本気の顔をしていた。この部活に入りたくないと断れる雰囲気が全然ない。


 いかんいかんと、自分をたしなめる。この部活で、俺の正体をこの女にバラす訳にはいかんのだ。


 生活が懸かっている。何食わぬ顔をして、何食わぬ素振りをして、こいつと適当に付き合っていればいいのだ。


 お互いの正体とか、関係ない。とりあえず同じ学園の同じ部活動として適当に合わせて、彼女が悪のヘンタイ痴女の時は変身ヒーローとして対峙していればいいのだ。


 無問題。

 問題解決。


「これからよろしくお願いいたします」


 両手を揃えて丁寧なお辞儀をしてきた瑠璃を後目に。

 方針は決まったと思う一方、これからどうなるんだと少しだけ不安がよぎるのを抑えられなくもあるのだった。

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