第7話 ラピスとの対決 Ver3.2

「取り込み中、すいません」


 腰元を両腕と一緒に荒縄で縛られている制服少女が声を挟んできたのだ。

 ラピスとの掛け合いで夢中になっていて放置してしまってすまない、と心の中であやまった。


 見える状況から想像して、街中を歩いている時にこの変態のラピスに捕まって連れてこられたのだろう。

 ほんわかした面持ちで、誰にでも引っかかってしまいそうな雰囲気の女子生徒だった。


「私は……これからどうすればいいんですか? お二人共会話に夢中で、どうすればいいのかわかりません」


 すると、ラピスが勝ち誇った笑みを浮かべる。


「そうです! 今日は人質がいるのです! 私の仲間になってください、ホワイトスーツマスクさん!」


 ふふんと、鼻息荒く命令してくる。


「この何も悪くない少女がどうなってもいいのですか、ホワイトスーツマスクさん! とりあえず私の前に座ってください!」


 ラピスが背を軽く押して、JKが一歩前に出る。


「お前……」


「なんですかっ! 悪いですかっ! 悪が悪を行うことは当然の事です。全然、誰にも、迷惑なんてかけていません!」


「いや……」


 突っ込もうと思ったが、また会話が混乱するといけないので、やめておく。それより話を先に進めようと思った。


「お前、俺が座らなかったら、その少女をどうにかするのか?」


 それを聞いて、ラピスはぐっと表情を固めてたじろいだ。


「なんですかっ! あどけない少女が人質になっているんだから、正義の変身ヒーローとしては私に逆らえないでしょう! 少女の身の安全を脅かして逆らうんですか! この可哀そうな少女がどうなってもいいっていうんですか! それでも正義のヒーローのつもりなんですか!」


 興奮した赤ら顔で、ラピスが俺にセリフをぶつけてくる。


「あの……」


 少女がのんびりした声を挟む。


「私、どうにかされちゃうんですか?」


「ちょっと黙っててくれ(ください)!」


 ラピスと俺が同時にハモった。少女が、ごめんなさいと素直に引っ込む。


「俺がお前に跪かなかったら、お前はその少女をどうにかするのか?」


 再びの俺の問いかけにラピスがぐっと息を呑む。やけっぱちの様子で言葉を継いできた。


「色んな事、しますっ! こんなに初心な女の子なのに、あんなことやこんなことを、正義のヒーローが見捨てた事を後悔して泣いてやめてくださいって言って私にすがるまで、虐めぬいてあげます!」


「できるのか?」


 ぐっと、ラピスが言葉に詰まった。


 まあ、できないわな、この調子だと。俺は脳裏で考えをまとめようとする。


 今までこのラピスと何度か対峙してきたが、ヘンタイで痴女っぽい女ではあるが、それほどの悪事はしていない。往来でエロい恰好を見せつける程度で、交通妨害と、ぎり軽犯罪? 程度だろう。どこの悪の組織だとも思ってしまう。クロぼうが前に言っていた通り、悪の組織は今となっては正義の組織とのテリトリー争いが目的で、悪など行っていないのだろう。この女が自分と同じ年齢程度の女生徒を嬲る光景が浮かばない。


 しかし放っておくわけにもいかないのでラピスの前に正座した。

 貴重な現金収入をもたらしてくれる相手でもある。言動に惑ったラピスに救いの手を差し伸べるという感謝の意味もある。


 するとラピスがふふんとした勝利の笑みを浮かべた。

 どこから取り出したのか、もう一本のしめ縄で、成すがままになっている俺をぐるぐる巻きにする。

 俺は路上でラピスの前に拘束される形になってしまった。

 まあしばらくこいつの自分勝手な説法に付き合ってやれば、無罪放免にしてくれるだろうと言う計算はある。


 そのラピス。

 少女の緊縛をといた。そこまではいい。いいのだが、なんとどこからか取り出した一万円札を女の子に手渡したのだ。


「ありがとうございました。助かりました」


 ラピスの丁寧なお礼の言葉は、想像していなかった光景。


「いえ。こんな程度の事ならいつでもいってください。道端で声をかけられた時は正直戸惑いましたけど、楽なバイトでした。連絡先、いりますか?」


「いえ、いりません。ゲームの悪役から学んだこの手は一度しか使えないので」


 言い終わったラピスにお礼をいいながら、いいバイトだと言った人質の女の子は去っていった。


「イカサマかよっ! 俺の純情、返せよっ!」


 俺は声を荒げる。だがラピスは勝ち誇った笑みで、地べたに正座している俺にゆらりと近づいてきた。

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