第6話 ラピスとの対決 Ver3.1
三回目の対決は翌日の放課後だった。
クロぼうからのSNSメッセージだ。
六時間目の授業が終わったあと、ゆるゆると校舎から出て国道沿いに中央公園に向かって進む。
慌てる事もない。まあ、このあと俺と対峙するあの悪の魔法少女は待たせておけばいいだろう。なんとなく放っておくと、「なにやってるんですか正義の変身ヒーローさんはっ!」とか言ってぷんすか怒りながら、いつまでも殊勝に待っていてくれる様な気がする。
途中でアイスの缶コーヒーで一息ついてから、呼び出されていた港南中央駅北口のだだっ広い大規模駐車場にやってきた。
サッカー場程もある敷地。周囲に人がいない事を確認して『トランスフォーム』。ホワイトスーツマククに変身する。ポケットに何故だかいつも入っているアイマスクを付けて完成だ!
駐車場に人気はなく、乗用車がちらほらと止まっている。見渡すには少しだけ車が邪魔になる程度。
どこにいるのか……あの女、思いながら敷地を進んでゆく。すると、エロい白のレオタード姿――プリンセスラピスラズリ――が前方に見えてきた。
「おそいです! なにをしてたのですか! 殿方には優しさを期待しているのに!」
頬を膨らませて案の定ぷんすかと怒っていた。
いつもの通りの魔女っ娘姿。アイマスクで素顔は見えない。見てしまったけどな。
が、今日はちょっとだけ様子が違う。
往来ではないので周囲に観客がいないということが一つ。
もう一つは、ラピスラズリの横に、縄でぐるぐる巻きに捕縛された大人しそうな制服女子が一人立っている事だ。
悪の少女の前にまでのんびりと達すると、
「遅いです! こんな場所に女性を一人待たせて、狼藉男にでも襲われたらどうするつもりなんですか! 責任とってください!」
いつもながらのアットホームな調子で、わけわからん事を口走って来た。
「私は襲ったり襲われたりするのは……ちょっとだけ興味がありますが……」
言葉にするのが恥ずかしいという、もじもじと身悶えをする態度を見せてから。
「初めては優しいのが好みです!」
俺にねだる様な目線で自己主張をしてきた。
そののち、ラピスは何かにはっと気付いたという様子を見せる。
「そうなのですね、わかりました! 貴方、このような人気のない場所に私を誘い出して、仲間の殿方と私を襲うつもりですね! 嫌がる私の前で変な物を出して、『いいか? これからお前を可愛がってやる。身体は正直だぜぇ。嫌がるのも最初の内だけだ。げへへ』とか言って、抵抗する私にあんなことやこんなことを――ゲームのヒロインみたいに液体まみれにするつもりですね!」
「ちょっと待て!!」
思わず叫んでしまった。
「ここに呼び出したのはお前だろ! 何で俺が仲間の男と謀っていることになってるんだ! いい加減にしてくれ!」
「だって、貴方、今日遅いんですもの。待っている間、期待を通り越してストレスがたまりました」
「俺だって暇じゃないんだよ。学校行ってるんだよ。毎回放課後に付き合わされる身にもなってみろ」
「奇遇です。私も学園に通っているので、放課後じゃないと都合がつきません。あと、日によっては部活があるので、空いている時間でないと悪の組織の活動もできないというか……」
「お前の部活の話なんて聞いてねーよ。あともう一つ突っ込みたい」
「あら……」
ラピスが少しはにかんで頬を染める。
「殿方が女性の私に、そのっ、突っ込みたい、だなんて……正義のヒーローにしては大胆な方」
「そういう意味じゃねーんだよっ! 俺をお前と同列のヘンタイに混ぜるなっ!」
節操を欠いたあまりな言い草に俺は怒り散らす。
「いえ、いまのは冗談です。あまり本気にしないでください」
落ち着いた涼しい顔でラピスは返してきた。
「冗談に女性としての節操を感じないんだよ!」
思うがままに欠点を突いてみる。が、ラピスはどこ吹く風。
「……それで?」
俺にごく普通に質問を投げかけてきた。
「なんだ?」
「何を突っ込みたいのですか?」
ちょっと興味があるという煌めいた瞳で聞いてきたラピスに、俺はジト目を送る。
「ゲームとか言っていたよな?」
「そうですね。私が密かに趣味にしているゲームでは、ヒロインの清楚系黒髪ロング美少女が殿方たちにあれやこれやされて、液体まみれになってしまったりします」
「そんなゲーム、あるかよっ!」
「あら。パッケージングされているPCゲームとか、最近ではブラウザゲームとかでは、一般的です」
俺は更に目を細める。
「…………なんていうジャンルのゲームだ?」
「十八才になると立派にプレイできます」
「エロゲかよっ! お前、JKじゃないのかよっ! 十九才か?」
「失礼です。立派に十八才、高校三年生です。立派にアダルトの仲間入りです!」
「エロゲは十八才でも高校生は出来ないんだよ。どうなんだ、そこんとこ?」
「それはそれ。これはこれということです。悪なんですから、そのくらい別にかまわないでしょう。私は小学生の時から立派なゲーマーでした」
「小学生からエロゲかよっ! 酷いビッチだなっ! 幻滅だ!」
「何ですかっ!」
ラピスがむっとして、不平不満があるという表情を向けてきた。アイマスクをしていても、顔の筋肉の動きとか、鼻筋、唇の動きから、思っている事が丸わかりだ。
「ビッチって酷い言い草ですねっ! 私、乙女で処女なんですからっ! 前に相手にしていた変身ヒーローさんは女性だったので殿方と触れ合うのは貴方が初めてです! 初めての殿方なので私に優しくしてください!」
「自分で乙女とか初めての男とか言うなよ。まあ俺も敵とは言え、こんなに女性と会話するのは妹以外いないから……信じるけど」
「ありがとう」
ラピスがそのアイマスク越しの顔に、素直に嬉しいという面持ちを見せる。
「あと、俺の前任者って女性だったのか? 興味もなかったから、俺にこの仕事を紹介したヤツには聞いてもないんだが?」
「私の事、いつも上から目線で可哀そうな人を見る視線でした。ろくに相手もしてくれなくて配置換えになっていきました。思い出しても腹が立ちます」
そうか……と言いかけたところで、横やりが入った。
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