第8話 ラピスとの対決 Ver3.3

 煌めく瞳。綺麗な唇からの呼吸が荒い。


 こいつ、確かに同年代の少女を嬲ることはしないのだろうが、俺の事を嬲るのは大好きそうな女だった! 改めて気付いて口内で舌打ちする。俺、大丈夫か? ちょっと不安になってきた。今までのこいつとの対決から想像するに、拷問とかあまり乱暴なことはされないと思うが……


「さて。どうしましょうか? 覚悟は出来ていますか? ホワイトスーツマスクさん」


 ラピスは顔を近づけてきた。これから自由にできる獲物に興奮している様子。頬を染め、形良い胸をその昂ぶった呼吸で上下させている。


 ゆっくりと。ゆっくりとその動作を楽しむ所作で腕を俺の方に伸ばしてきて、その指を俺の喉に当てる。そのまま俺がまるで飼い猫であるかのように顎をじゃらじゃらしてきた。


 こそばゆくて、恥ずかしくてちょっとみっともなくて、同時に悶える様な感覚。ラピスはそこから人差し指だけを上に這わせて俺の唇に触れる。噛みついてやろうかと思ったが、その後に待ち受ける罰が怖いので、やめておく。


 ラピスが座っている俺の目の前に顔を置く。むうとした様子で不満を向けている俺に、その俺を存分に楽しんでいるという笑みを広げた。


「ああ……。殿方を辱めてしまいました。どうですか? 敵である私に好き勝手にされている気分は? 貴方、変態っぽい格好をしてるんですから、私に嬲られて興奮しているのでしょう? どう? 図星ですか?」


「図星な訳あるかっ! 俺の事弄んで顔を紅潮させてんじゃねーよっ、痴女っ! お前が興奮してんじゃねーかっ! こっちが恥ずかしくなるわ!」


 むっと、ラピスがペットに逆らわれたご主人様の様に顔に不平の色を浮かた。しかしすぐに気分を取り戻した様子を見せる。


「そんなことを言ってる場合ですか? これからそのアイマスクを外してあなたの正体を暴露してから、存分に嬲りつくしてあげます。ごめんなさいもうしません悪の仲間にしてくださいって泣いて縋る事になるんです。想像するだけで……すごく……」


「すごく、なんだ?」


「すごく……興奮します……はぁはぁ」


 こいつ、マジ、欲情してやがる。マジモンの痴女だ。まあ、わかってはいたが。


「俺の事、嬲るのか?」


「悪に宗旨替えするまで、存分に嬲りつくしてあげます」


「具体的に、どうすんだ?」


「そうですね? まずはそのカッコいい……もとい、変質者のコスチュームを剥いで、私がその姿を視線で楽しみます。どうですか? これからその生まれたままの姿を私に見られるんです。どんな気持ちですか! どんな気持ちですか!」


 ワクワクドキドキと俺の感想を求めてくる様子は、完全に我を忘れてやがる。俺を拘束することに成功して、もう俺を自由に出来て悪に改宗させられると勘違いしているようだ。こちらも生活がかかっている。そう簡単に正義の変身ヒーローを辞める訳にはいかないのだ。


「俺の正体をバラシたら、お前の事、夜のオカズにするからな」


 俺は言葉で出来る反撃を放った。

 瞬間、ラピスの表情と動きが固まった。


「ちょ、そ、それは、いったい……」


 沸騰して混乱した様子のラピスだが、俺は容赦しない。


「わかってるだろ。俺だって年頃の男だ。こんなにエロい、出るとこ出てて引っ込んでるとこ引っ込んでる身体の少女とそれなりに『交流』したら夜くらいハッスルしたくもなる。我慢きかん」


「ちょ、そんなことっ、わ、わたしが許すわけっ」


「お前の同意など無視する。お前も俺の事、オカズにしていいから。お前だって年頃の少女なんだから、少しくらいエッチな事にも興味あるだろ?」


「な、ないですっ、そんなことっ! 私は確かに少し成長がよくて、殿方の前での解放感に魅かれていたところはあるけれど、ふ、普通の家庭の、ただの真面目な少女なんですから!!」


 パニくっているラピス。俺は一言。


「……素顔だけは清純な美少女なのに。変態の痴女。残念だ」


 本当に気落ちしているという顔付きで呟いた。

 ラピスは、ぷしゅーと頭の天辺から蒸気を飛ばした。


「な、なんですかっ! 私、そんな変態で痴女じゃないんですからっ! ほんとですっ! ほんとに学園じゃいつも一人ですけど、真面目で純情な女生徒なんですからっ!」


「嘘つけ」


 俺がさらに一言呟くと、ラピスの脳内で何かがプツリと切れた様子。どかっと感情に任せて俺の股間にブーツでキックを入れてきた。急所に直撃して目から火花が散った。一瞬気が遠くなった後、悶絶がやってきた。


「うえええーん、覚えていてくださいっ!」という音と、涙を残して走り去ってゆく気配があったが、俺はそれどころではない。


 しばらくのたうちまわっていると、段々と苦痛が和らいできた。思考が回る程度に回復する。さらに少々休んでから落ち着きを取り戻した。


 周囲を確認する。

 俺は独り、だだっ広い駐車場に残されている。

 ふぅと、大きな吐息を吐いた。


 あの女! 男の大事な部分にケリを入れやがって! この恨み、晴らさずにおくものか! いつかの機会に絶対復讐する。思ってから、二三度深呼吸をして気を落ち着けた。


 終わった終わった。取り合えずピンチは脱して、今日のバイトは終わりを告げた。あとはこの拘束を脱出して、元の姿に戻ればいいだけだ。ちょっとみっともないが、駐車場を訪れた人に頼めばなんとかなるだろうと考える。この後、週一の、たからやセールには間に合いそうだと立ち上がって安堵の吐息をついた――とき、


「お兄ちゃん」


 背後から、よく聞きなれた綺麗な旋律。背筋に別の漢字の戦慄が走った。

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