第4話 ラピスの素顔が俺にバレる
それから三日後の夜の繁華街で、悪の魔法少女と初めての第一種接近遭遇を果たし。
更に三日後の夕暮れ時。
クロぼうのSNSアラート(いったいどうやってメッセージを送っているのかは不明)により学園から商業地区に直行。
複合商業施設、港南シティガーテンのイベント広場で、真っ白レオタード姿の悪の魔法少女と二度目の対峙をしている所だった。
周囲は野次馬とおぼしき人々、家族連れなどが多くて、母親が小さい女の子に「ダメです。見ちゃいけません」とか注意していたりする。
悪の魔法少女が手に持っているステッキをこちらに突き出して、唇を不敵に丸める。
「まっていました。ホワイトスーツマスクさん!」
相変わらずのナイスエロボディ。福眼ではある。レオタードの下から自己主張している胸が男である俺の視界に眩しい。
俺も身構えるが、思わず言葉が口を突いて出てしまった。
「なあ?」
「なんですかっ! 緊迫した場面が台無しになるじゃないですかっ!」
悪の魔法少女、ラピスラズリが不満そうに答えてくる。
「前にも聞いたが、お前、その格好を晒して恥ずかしくないのか? いやまあ、立派で綺麗なラインだとは思うんだが……」
再び聞いてみてしまった。少しだけ最初に流れた緊張感はもはや台無しになっている。
「別に変な服装じゃないと思います。体操選手のようなものでしょう。方々に見られて……」
ラピスが少し口ごもったのち、顔を赤らめながらも堂々と、
「興奮します!」
立派な胸を張って言い放ってきた。
「ダメだ、こいつ。早く正義に取り込んでなんとか矯正しなくちゃならんとは思うが、悪の魔法少女をやっているくらいだから、更生不能でも俺のせいではないな。うん。そうだな」
俺がうんうんと一人頷いていると、
「なんですかっ!」
少女が腕を組んでぷんすかと言葉をぶつけてきた。
「貴方だって似たようなものじゃないですか! その真っ白なスーツ姿。結婚式じゃないのだし、街中だとただの変態にしか見えません! 私のこと言えた義理ではないでしょう!」
「自分がヘンタイだという自覚はあるようだな、ラピスラズリ」
「確かに……私はこの格好だと自分の心に正直になってしまいがちではありますが」
ラピスはちょっと口ごもる。
「それでも何一つ問題のない、立派な悪の魔法少女です!」
言い切ってきた。
「そうだな。変態ヒーローの俺とヘンタイ魔法少女のお前。対決するのはお似合いかもしれん、な」
カッコよさげに俺が締めた。
魔法少女は睨み目はそのままに、黙って鼻の上を赤らめる。
ややあって、少女はその火照りを振り払うかのようにかぶりを振る。
「見てください!」
持っていたステッキを横なぎに一閃すると、ステッキは流体で出来ているかのように、競走馬を叩く様なムチに変わった。
「いきますっ!」
ラピスがムチを振りかざしてこちらに向かってきた。
ただの人間の速度、動き。ホワイトスーツマスクに変身している俺ならば、有に圧倒できる程度の挙動だった。
「戦闘はなしで討論で決着を付けるんじゃなかったのか?」
別に逃げる必要も危険も感じなかったので、言葉で応対する。
「私の演説をあなたの耳に入れる為に、今日はまずはその自由を奪います!」
「手段と目的が逆だろ?」
「問答無用です。反撃されると私が負けてしまいます。逆らわないでください。えいっ!」
ぴしっと、ムチが俺の頬を捕らえた。
「いてっ」
正直、痛くはなかったのだが、条件反射で口に出た。
――と。
魔法少女が動きを止めていた。
確認するように、もう一度、俺の反対側の頬をムチでシバく。
「いてーぞ、こら」
俺の反応を無視して、ラピスは何かに目覚めたという様子で両頬に手を当てる。
「なんか……すごく……興奮します。身体の奥が……熱いです。なんでしょうか、この感覚。男の方を叩く事なんて今までしたこともなかったんですが……」
表情がとろけている。
「すごいです……これ……」
何か物凄く恍惚を感じているかの様子を見せたのち、
「もっと味わいたいです。えいっ。えいっ」
むちゃくちゃムチを振るってきた。
「ちょっとまて。やめろ。みんな見て笑ってるぞ。別に痛くはないが、そういうのは金を払ってどっかの個室でやってくれ」
えいっ、えいっと、夢中になって俺を叩いてくるラピス。と、慣れない所作で足元のバランスを崩したようで、ラピスは足をもつれさせて俺に向けて倒れ込んできた。
二人してこんがらがって、地面に倒れ込む。
変身して身体能力が向上している俺は、ラピスが怪我をしないようにクッションの役割を果たす。
丁度、俺の上にラピスが乗りかかるような姿勢になった。
二人共、思わずの接触に言動が止まる。
ラピスのアイマスクが、ほろりと床に落ちた。
あ……と、ラピスが呆ける表情で顔に手を当てる。
悪の魔法少女の素顔が、今、俺の目の前にあった。
二重の瞼。綺麗な瞳と、その下のワンポイントのなきぼくろ。鼻筋が通っていて、唇はほのかにピンク色をしている。肌がとてもきめ細やかで、思ったよりもおとなしく清楚な感じの、とても面立ちの整った極めつけの美少女だった。
しばらく、俺は見とれて。
それから、ゆっくりと言葉にする。
「お前……」
そのつぶやきに、ラピスがはっと我に返った様子で叫ぶ。
「な、なんですかっ!」
俺は自分の上に馬乗りになっているラピスに対して更に言葉を継いだ。
「美人だな……」
率直な感想だった。
こんな少女が、アレな格好をして悪の魔法少女をやっているんだからこの世の中はどうかしている。というか、とても残念な少女だ。俺は、うんうん、残念だと脳裏で繰り返す。
反応は一目瞭然だった。
ラピスが顔を真っ赤に紅潮させる。
自分を綺麗だと言った男の上に馬乗りになっている事に混乱を極めているようで、沸騰したヤカンの様になっている。
「み、みていてくださいっ! 絶対に私の仲間に引き入れてあげるんですからっ!」
言葉を吐いて立ち上がる。
「お、覚えておいてくださいっ! こ、この借りは、絶対に返しますっ!」
赤く染まった顔のまま、うぇーんと涙ながらに逃げ去ってゆくのであった。
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