No.22『ファーマタイル・クラップ』

 ゴォォと、

 ボォォと、

 中華鍋が空に飛んでいきます。

「ミス・ファーマタイル」

「……わわ」

「ファーマタイルさん」

「あー……、あー、うわ」

 聞いてないんかこの人。

「頭砕くぞ腐り骸骨」

「ひゃいっ」

「まず魔力放出を止めましょう。はやく」

「その」

 はい。

「止め方わかんないです」

「なんで魔法学の権威言われてるのこの人」

「言ったのわたしじゃないので」

「そもそもなんであんな魔法で料理を?」

 どう考えても火力高過ぎでは。

「いやでもあれ、生活用の魔法でして」

「生活用」

「その人の今までの暮らしと同等の環境を再現するっていう、それで」

 スペースシャトルのブースターみたいな音、まだ聞こえるんですけど、ねぇ。

 つまりは、

「生活破綻者が使えば酷いことになる、なった、と」

「まあ、はい」

「何故料理出来ると?」

「炒飯は火力だと聞いたので」

 火力だけで料理出来るわけないだろ馬鹿。

「あれ、なんで鍋のちょうど下から火が上がってるんですかね」

「フライパンとか鍋に火を当てなきゃ料理出来ないじゃないですか。変なあるじ様」

「変はおめーだよ」

 あおらないと焦げる。たぶんもう焦げてる。

 もしくは全部こぼれたか。

「確実にこぼれるので、シールド張ってますよ。ポップコーンも作れます」

「空を飛ぶ中華鍋で?」

「…………中華鍋で、です」

「あー、うん。で、そもそもなんで接続切れてないのあれ。ここまで離れたら魔力のライン切れて止まるでしょ」

 音は遠くなったけど、まだしますし、

 小さいけど、鍋も見える。

「止まりませんよ」

「なんで」

「自己マナもったいないので、音声入力で止めるまで外部マナ使って燃えます。止まりませんし、こうなると止めれません」

「なにやってんのこの腐り骸骨」



ナハイト市広域広報誌より抜粋

今年もキブパハット彗星が観測されました。

くり抜かれた半球と、内部を動き回る黒い細かい粒が紅式観測術帯を使用した観測によれば、例年と変わらぬ姿と発表されたとのことです。

そもそもキブパハット彗星は1732年前にはすでに知られてお————

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