新天地は雪原

 家の方へ戻ってみると、家の真横に魔法陣ができていた。

 不思議がっていたペファーたちが見ていた中、わたしたちに振り向いた。

「もしかして、マスター、なにかやった?」

「なんか、ひどい物言いじゃない?」

 わたしとマルナは森様と出会ったことは省いて説明した。

 これから来る脅威、そして王国の現状、魔法陣の先も。

 魔法陣についてはわたしが起こしたってことにした。マルナが。

「そうね。一旦姿を隠した方がよさそうね」

「ワタシも賛成です。下見も兼ねて見に行った方がよろしいかと」

「我も賛成です。しかし、その地点に魔族がいるかはわからないんですよね?」

 全員が賛成する中、プリエが敵がいる懸念を抱いた。

「ごめん、そこまでは……」

 わたしが俯くと、マルナが前に出てくれた。

「プリエ、お前の危惧も理解できるが、わたしもノルンの意見に賛同だ。ここ一点では、いずれバレる可能性もあるだろう」

 マルナの説得を受け、プリエは頭を下げた。

「マルナがそう言うならわかった。なら、心の隅に置きます」

「ありがとう、みんな」

 マルナが全員に頭を下げた。

 マルナの背を叩いて、魔法陣に乗り出そうと決めた。

「よし、行こうッ!」

『おーッ!』

 ダイゴロウたちをお留守番にして、わたしたちは転移魔方陣に乗り出した。


 しかし、転移した先で予期せぬ事態が起こる。

「こ、こ、ここ、ここは……ッ!」

「こ、こ、これじゃあ……ッ!」

「じょじょじょじょじょじょじょ冗談んんんんんんでしょしょしょしょしょしょしょッ!」

 わたしとマルナとペファーが寒さでかじかんだ。

「ノルン様、マルナ様、ペファーさん、大丈夫ですか、皆さん?」

「我とブランは大丈夫のようですね」

 犬神のブランと吸血鬼のプリエは平気でよかった。だけど……」

 森様、聞いていませんよぉ……。

 こんな極寒の大雪原だなんてッ!

 見渡す限りの雪、氷山、凍った湖、太陽を見せない雲から雪がパラパラ。

「みんな、離脱ッ!」

「「了解ッ!」」

 わたしの号令に合わせてマルナとペファーが魔法陣に乗っかる。

「悪いけど、ブランとプリエでどうにかしてッ!」

「「待ってください、この者と残れと言われてもッ!」」

 わたしたち三人はブランとプリエを雪原に残して撤退をした。


 結局、イグナイト王国に戻ってきてしまった。

「……折角の新天地だが、準備を整えてからだな……」

「そうだね……。ペファーが風邪を――」

「へっくしッ!」

 マルナと話し合っていると、ペファーがくしゃみをして鼻水を垂らした。

「もう引いたか……。家の中で暖を――ッ!」

 家の方へ向いたマルナが言葉を失った。

 家が襲われたのか、と思い振り返ると――。

「なに、これ?」

 わたしたちの家が大きくなっていった。

 かなり増築されている。

「どうなってんのッ!?」

「家に上がろうッ!」

「でも、鍵が合うかな、あ、合ったわ」

 わたしの家で間違いありませんッ!


 わたしは誰かの手によって、増築された家を物色した。

 いや、物色って、わたしの家なんだから。

 見た感じ、書斎やわたしの部屋などはそのままに、部屋が一気に増えた気がする。

「悪くないな」

 しかも増えた部屋一つ一つにベッドが付いていた。

 もしかして、森様がやってくれたのかな?

「ごめん……。横になりたい……」

 ペファーにそんな余裕はなかった。

 どうやら、本格的に風邪をひいたみたい。

「折角だから、ここで寝てて」

「……うん」

 ペファーは言うことを聞き、ベッドで横になった。

 ペファーの腕は翼だ。布団を掴むことができない。

 なので、代わりに布団を首の位置までかけてあげることにした。

「ありがと……。マスター……」

「ゆっくりするんだよ。あとはマルナと一緒に打開策を練るから」

「うん……。おやすみ……」

 わたしとマルナはペファーの寝る部屋から出た。

 

 家を一通り見てきたわたしたちは広くなったリビングで温かいお茶を飲むことにした。

 ソファーも大きくなっているし。

 なんかゆとりが持てるよ……。

 しばらくしてインターホンが鳴った。

 一応画面を確認してみたが、ブランとプリエが殴り合いのケンカになっていた。

「誰だ?」

「ブランとプリエ。戻って早々、ケンカしちゃってるッ!」

 わたしは玄関まで

「どう? なんか勝手に増築されたけど」

「いいと思います。ワタシとプリエでなんとか改善しようとしましたが」

「我の作業をブランが邪魔してどうにもなりませんでした」

「あなたでしょうッ! ワタシの邪魔をしてきたのはッ!」

「違うッ! 我が造った防寒のバリケードをお前が破壊しただろッ!」

「なんですってッ!」

「なんだとッ!」

 ブランとプリエが取っ組み合いのケンカに発展していった。

 わたしはテーブルを強く叩いて、二人に怒鳴った。

「二人とも、ケンカしないのッ! 状況報告は以上でいいからッ!」

 二人はシュン、と落ち込みながら謝る。

「「ごめんなさい……」」

 マルナが腕組みをする。

「しかし参ったな。この二人に雪原を探索させるのも心乏しい、いやそれ以前に……」

 あの寒さが問題だ、と言いたいのだろう。

「プリエが邪魔しなければ、多少の防寒はできたものの……」

「それはこっちの台詞だッ! 神獣の視点でしかものが見えんとはッ!」

「二人とも、その辺にしとかないと、怒るよ?」

 わたしは二人を見つめながら、再度叱った。

「「はひッ!」」

 あれ? ビビってる? そんな怖い顔した、わたし?

「流石、神獣も魔族も黙らせるとは」

 感心しながら、ビビらないで、マルナ。

「ケンカ止めた程度だよ?」

 ブランが恐る恐る手を挙げる。

 いやいや、怖がらないでって。

「ノルン様、ペファーさんは?」

「風邪ひいちゃってる……。増設された部屋に寝かしてあるから」

「我らはともかく、ご主人とマルナより寒がってましたね」

 プリエも心配しながら言った。

「うん。悪くならなきゃいいけど……」

 あの雪原は露出の多いハーピィには厳しいかもしれない。

「フォレストウルフは大丈夫なのかな?」

 マルナはダイゴロウたちのことを訊いてきた。

「途中で出入りしたのを確認しましたが、どうやら平気みたいです」

「そういえば、ブランだけじゃなく、あの狼たちも邪魔してたような」

「ワタシも、同じことを思いました」

 フォレストウルフって、寒冷地に強いのかな?

 邪魔する気はおそらくなかったんだろうけど、はしゃいでいたんだろうね。

「とにかく、防寒具が必要なわけね。明日、街まで行ってくるよ」

「そうだな。ブランとプリエが無事なら、わたしとノルンの分だけでいいだろう」

「うん、ペファーは、ダメそうだからね……」

 それに、ハーピィ用の防寒具なんて作れそうにないからね……。

「ノルン、あの雪原に拠点を立てることを目標にしないか?」

「そうだね。防寒具があっても、完全に寒さを凌げられないからね」

 わたしたちに目標ができた。

 雪原に拠点を立てる。

 それが新しい土地に踏み出すための第一歩だ。

「ですが、魔法陣があれば、ここに戻ってこれるのでは?」

「我ら以外、通れないようにするのですよね?」

「「あッ」」

 ……確かにそうだ。

 寧ろ、拠点を立ててしまったら不審に思われないか?

 というより、簡易的に拠点を立てたところで誰かに利用される可能性もあるわけだし……。

 わたしが馬鹿だ。間違いない。

「ごめん、張り切り過ぎちゃった……」

「地形の把握が先だな……」

 わたしとマルナは落ち込んだ。

 とりあえずは、ペファーの看病と防寒具の確保だね……。

 その日は各自、各々個室に入って寝ることになった。

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