スライムの洞窟

スライムの洞窟

 翌日、わたしの思った通り、消臭の効果が薄れ始めてきた。

 再度肥溜めに消臭してダイゴロウに乗り、ペファーが上空から誘導する形での出発となった。

 街とは反対方向で、人の姿が見られなかった。

 それから十分ほどで山脈地帯の大きな洞窟があった。

「ここよ」

「案内ご苦労様。じゃ、入ろうか」

 するとダイゴロウが入り口でお座りしだした。

「あれ、ダイゴロウ? お留守番?」

 ワン。

「なんて言ったの?」

「「匂いがきつくなりそうですから、俺はここで待たせていただきます。ご武運を」だってさ」

 言われてみて、鼻の感覚を研ぎ澄ませてみた。確かに少し匂う。

「そういうことなら、わたしたちが戻ってくるまでここで待っててね」

 ワン。

 ダイゴロウは洞窟の出入口で待っている。

 某アクションゲームの亀族を思い出す。ここぞという、塔や城、お化け屋敷のステージに限って外で待機しているドラゴンじゃなかった緑の。

 とりあえず、わたしとペファーで洞窟に入ろうか。

 一応、右手にベオウルフ一挺、左手にカミホを持って万事に備える。

「しかし、大丈夫なの?」

「なによ、いきなり?」

「飛びながらだと鼻を覆えないでしょ?」

 中に進むにつれて匂いがどんどん強くなってくる。

「そりゃ、臭いのは嫌だけど……。あんたにとんぼ返りされて帰ってこられても困るし」

「それはそれで考えたのに」

「確実な方法があるならちゃんとしたいの」

 そりゃ、ペファーたちに関わる事態だし。

「それでも来てくれるだけでありがたいよ」

「な、何よッ!?」

「ふふふ、なんでもないよ」

 それにペファーって案外面倒見いいじゃない。

 それを言葉にすると帰ってしまいそうなので黙っておく。

 しかし、匂いがきつーくなってきたな。

 ペファーも我慢してくれているけど……。

 防臭の魔法をかけてみるか。生物に対してじゃないと効かない魔法だが今なら――。

「アンチオダ―」

 匂いが徐々に感じなくなった。昨日夜更かしして魔導書を読んでよかった。

「これって……」

 ペファーの顔が明るくなる。効果が出たようだ。

「無属性魔法だよ。昨日読んだ本に防臭の効果があるのが載ってたから」

「無属性? あんた、そんなの使ってるの?」

「ペファーは習わなかったの?」

「いやいや、あたしはそんな素質あっても使わないわよ。役に立ちそうにないもん」

「現に、役立っているけど?」

「それは、そうだけど……」

 口をもごもごし始めて返事をしなかった。

 どうやら無属性魔法は魔物にとっては役に立たないものらしいね。

「ま、匂いがきつくなっても大丈夫でしょ」

 そう言っていると、前からぽよん、ぽよんという音が聞こえてきた。

 前から緑色の球体のスライムが近づいてきた。跳びはねて移動している。

「お、やっと発見ね」

 ペファーが喜んで近づいていく。

 これでトイレ問題は解決かなー―。

 そう思った瞬間、スライムが近づいてきたペファーへと溶解液を放ってきた。

 ペファーは寸前で躱した。

 あれ? 岩が湯気を立てて溶けているんですが?

「あぶなッ! なに、こいつッ!?」

「いや、ペファーッ!? このスライムじゃないのッ!?」

「いや、スライムの形からしてどこも同じもんじゃないのッ!?」

「まさか、一種類しか知らないってことないッ!?」

 しばらくの沈黙があり、ようやく重い口が開く。

「そういや、わたしが知っているの、青かったかも……」

「それを先に言ってッ!?」

 わたしはカミホで緑色のスライムへカメラを向ける。


グリーンスライム

『動物を溶解液で溶かし、溶かした液体を食糧にする。肉食動物からは天敵にされる』


 わぁー。ヤバい奴だぁー。思っていた十倍以上にぃー。

 すぐにベオウルフでグリーンスライムを弾けさせ、蒸散させた。

 そうだ。間違いがあるといけないからちゃんと訊かなきゃね。

「ペファー。ちょっといいかなぁー?」

「は、はい……。なんでしょう……?」

 わたしの顔を見て怯えている。今後のために訊いてるだけなんだけどね。

「あなたが知っているう○こを処理するスライムは青色で間違いないよね?」

「はい」

「形状は? 球体? 泡型? 金属型? 匂いは? 大きさは? 他に特徴は?」

「あたしが知っているのは、球状のもので、匂いは少し臭いぐらいで、マスターの手のひらサイズで、そうだ、跳びはねて移動しませんッ!」

「ご苦労、以後気をつけるように」

「はい、マスター……」

 ペファーがしょんぼりしている。だが、必要なことだとは思った。

 ペファーをわたしの後ろにつかせ、術で援護してもらう。

 まぁ、銃で撃ち抜くからわたしも距離を取るけどね。

 今度は燃えるような音が聞こえてきた。ペファーの言う青いスライムではないのは確かだ。


レッドスライム

『対象を燃やし、燃え尽きた後に残る灰を好んで喰らう。それが植物でも動物でも関係ない』


 環境破壊の申し子じゃないか。

 当然、わたしはそれを撃ち抜く。

 追い打ちに水魔法も掛けて残り火を鎮火する。

 さて、そろそろ出てきてもいいんじゃないかな……。


ブラックスライム

『動物に取りつき、肉を食い荒らす。しかし、日光に弱く、灰になってしまう』


グレースライム

「死体を食べ、灰にするスライム。餌を求めるため、殺害も行う。なので危険」


ピンクスライム

『男を取り込み、精気を死ぬまで吸いつくす。女の場合、妊娠させ破裂させる』


メタルスライム

『攻撃が通ることはあまりない。逃げ足は速い。金属物を食べる』


 出会ったスライムたち、メタルスライム以外、ロクなのがいないッ!

 ほとんど殺人スライムじゃないかッ!

 確かに銃で一発撃つだけで四散していったけどもッ!

 こんなところ、ゲームの初心者のような人が入ったら確実にどれかで死ぬでしょッ!

 ってか、早いとここんな洞窟出たい。

 念のため、ペファーの言うスライムが安全かどうか検索するか。

 『青い スライム』で検索、と。

 すぐに検索結果が出た。


ブルースライム

『動物の排泄物を好んで食べ、植物に栄養を送る。動物に害を与えない』


 よかった、安全なスライムだ。

 ペファーの知っているのはこれなんだよね、きっと。

 そう言えば気になったことがある。

「ペファーって、どうしてスライムのこと知っているの?」

「一族から出ていく前に集落のトイレに青いスライムが住んでいたのよ。あいつらう○こを喰って暮らしているし、トイレは綺麗になるしで便利だったの」

 一族に住んでいた時にか……うん?

「そういや、気になったんだけど……」

「ん? なに?」

「あなたの種族、ハーピィって男もいるの?」

「いないわよ」

「じゃ、どうやって繁殖するの?」

「適当な男を見つけて、かっさらってできるまで夜を過ごすだけよ」

 人攫いじゃんかッ!

「……くれぐれも、さらったりしないでよ」

「しないって。マスターに撃たれたくないし……」

 ハーピィに恋愛感情なんてあるのだろうか?

 なくても、昔の人の営みと同じ感じようだし、攫われた男もどちらにしろ生涯付き添うのだろうか。

 いやいやいや、何考えてんだ、わたしはッ!

 ブルースライムを探すことに集中しようッ!

「あ」

 突然、ペファーの口が大きく開く。

 耳を澄ますと、ぴちゃぴちゃ、と音が聞こえる。

「もしかして、ペファー?」

「ええ。あたしの知ってるスライムの足音よ」

「間違いない?」

「うん、聞き覚えがある」

 よし、なら確保だッ!

 ……息まいたのは良いものの、どうやって連れ帰ろう?

「どうやって連れ帰ったらいい?」

「確か、水の中に入れていけばいいはずよ」

 なるほど。

「じゃ、ブルースライムかどうか確認して連れ帰りますか」

「でもさ、マスター。バケツなんて持ってきてないでしょ?」

「そりゃ、今ここで捕まえ方訊いたからね。でも大丈夫」

「本当に? ならいいけどさ」

 音を頼りに前へと慎重に進んでいく。

 目の前に青いスライムが十何匹もいた。どれも球状、大きさはわたしの手のひらサイズ、匂いは今シャットアウトしているからわからないけど、跳びはねたりしない。

 カミホのカメラで確認を取る。


ブルースライム


 よし、目標を見つけたッ!

 あとは捕まえるだけッ!

「アクアボール」

 わたしは両手いっぱいの水球を作り上げた。

「よし、あとは入れるだけだね」

 わたしは作った水球にブルースライムを入れて、捕獲していく。

「そんなやり方があったなんて……」

 ペファーが驚いたのは無理もない。

 本来、アクアボールは水の攻撃魔法だからだ。

 こんなスライム専用の鳥籠みたいなのを作るのはわたしだけなのだろう。

 いや、ペファーは水魔法つかえないけども。

 わたしはペファーにスライムが十何匹全てを捕まえた水球を渡してみる。

「ペファー、これ持ってみて」

「いいの? あたし、水魔法は――」

「大丈夫、固定してあるから。潰したり魔法を使わない限り、壊れないよ」

 そう言って彼女の足に手渡しする。

 無事割れることなく彼女の足に握られた。

「そういうことだから、帰りはそれを持ってってね」

「了解、マスターッ!」

 あとは来た道を戻るだけ――。

 ドシン、ドシン。

 あれ? なにこの鳴り響いている音は……?

 しかもわたしたちが来た方から……。

 カミホでカメラを向けてみる。


ヘビースライム

『洞窟内に棲息する。スライムたちを案じ、他の動植物たちへ攻撃する』


「ペファー、気をつけてッ!」

 そう叫ぶと同時に、透明な触手がわたしたちへ伸ばしてくる。

 壁や天井を削り取った辺り、当たったらただじゃすまないのは間違いない。

「どうするのよッ!? マスターッ!」

 帰り道はヘビースライムが封じてきている。

「どうしよう……?」

 奥へ進むか、ヘビースライムを倒すか。

 どちらにしろ、ヘビースライムからの攻撃を躱しつつ二はなるが……。

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