自警団長との出会い

 わたしは青年の誘導のままに、自警団本部まで着いた。そこでは、多くの自警団員が剣や槍の稽古をしていた。に、しても……。

「思ったより人が多いですね」

「ええ、ここにいる者は王都で騎士になれず、流れ着いた者が多いですから」

「そうなんですね。騎士との違いって何ですか?」

「主に、収入源が違いますね。騎士たちは国から支給されるのですが、自警団は領主様から支給されるのです」

「門兵も同じなんですか?」

「ええ。基本的には同じですが、役割は異なっています」

「自警団が街の巡回、門兵は入国検査とそれぞれ専門になっているのですね」

「正解。そのようにして成り立っています」

 役割分担していたんだな。同じ区分だと思っていたのだけれど。

 やがて、自警団の執務室に入らせてもらった。

 そこで青年は机の引き出しからお金が入っている袋と、水晶を取り出した。

「あの、これって?」

「今回の謝礼金と、身分証を作りだすプルーフオーブです。オーブに手を翳してみてください」

 お金をくれるのか、ありがたい。

 この水晶で身分証が作れるのか、今後も来るのなら好都合だな。

「わかりました。やってみますね」

 何の力も入れずに、ポンと水晶に手を置いた。

 すると水晶が虹色の光を照らしだし、執務室全体を染めていく。

「な、なんだッ!? これは、神クラスの輝きッ!?」

「えッ!? 今、なんてッ!?」

 光がやがて収まると、水晶の横に青色のクレジットカードみたいな物が置いてあった。

「これが、あなたの身分証……ノルン=ブルット。それがあなたの名前なんですね」

 青年がカードを見つつ、わたしに渡された。光の屈折によってきらきら光るウエハースチョコのレアなホログラム加工してあるカードみたいな仕様になっている。身分証がこんなのでいいの?

「ありがとうございます。ところで、オーブが虹色に光ったのは何ですか?」

「あれはですね。普通の者でしたら黄色に光るだけなんです。僕の時の銀色でさえ、珍しいくらいなんです」

「それって、身分の差別に繋がるんじゃないんですか?」

「いえ、貴族や王族でも黄色が出たりと、変わりはないんです」

「なるほど、それによる差別はない、と」

「ですが、虹色となると歴史上の英雄クラスになります」

「でも、それによる恩恵ってないんですよね?」

「いえ、これが巷に広まれば、きっと大騒ぎになるかと思われます。それこそ、あなたを英雄に担ぎ上げて、国家を起ち上げるくらいの――」

「いやいや待て待てッ!」

 流石にそんな気はないッ! こちとら異世界の監視を命じられているんだからッ! 窮屈な玉座なんかに座る気なんてないよッ! 何より、狼たちとゆったり暮らすことが今の幸せなんだからッ! 色々と問題になる前に断らないとッ!

「わたし、そんな気は微塵もありませんッ!」

「ええ。あなたがそう言うとは思っていました。ですが、その身分証を呈示しないといけない場面が多々あります」

 どの道、足が付くってことか……。

「じゃあ、もう一回作り直すってのは?」

「残念ですが、再発行しても同じになります」

 まさかのリセマラ不可ッ!

「どの道、僕ができることは兵たちに緘口令を促すことしかできません」

 そっか。一部に黙ってもらうしか手はないんだよね。

 うん? 緘口令を促せるってことは?

「あの、今更ですが、あなたの職業って……」

「失礼しました。僕は自警団長、キッジ=エンザンと申します」

 キッジ。それがわたしにとって初めて心を許せる人間だった。

「キッジさんはどうして、自警団に入られたんですか?」

「僕がですか? そうですね、僕は王都の騎士を目指したのですが、試験に落ちてしまって、今はこの街の自警団に入っています。そしたら、実力で僕の方が上だって、前団長から就任されました」

「若いですよね? すごいじゃないですか」

「いえ、僕なんて前団長と比べてまだまだ。ノルンさんこそ、瞬時に泥棒を逃走阻止したのはすごいじゃないですか」

 キッジが照れ隠しのためにわたしを褒め始めた。

「わたしのことはノルンでかまいません。敬語も不要です」

「わかった、ノルン。その代わり、僕のことも対等にしてくれないかな?」

「うん、いいよ。キッジ」

 わたしとキッジは対等の人間として接し始めた。

「ありがとう。君みたいな人は久しぶりでね」

「久しぶり?」

「うん、幼い頃からの腐れ縁の同志がいてね。彼も銀色の光を放っていたんだ」

「ってことはキッジと同じ?」

 ううん、とキッジは首を振った。

「彼は騎士の素質があってね、今じゃ一個小隊を率いる隊長さ」

 わたしは懐かしげに語る彼の目を見逃さなかった。

「彼とは親しかったの?」

「まさか、彼がぶっきらぼうなおかげで、僕を巻き込んでばかりだったよ」

「その割には楽しそうに話すよね?」

「そうかい? ノルンにもそういった人がいるんじゃないのか?」

 あ、やばいな。転生してまだ12日目だ。どう誤魔化そう……。

「えっとね。わたしにはそういう人がいなかったから……。小さい頃に両親が死んじゃって……」

 つい、とんでもない嘘を吐いてしまった。でも、流石に転生してきました、なんて言えないし……。

「そうか。気分を害する質問をしてごめん」

「い、いいよッ! 今は狼たちがいるしッ!」

「狼? あのフォレストウルフ以外にもいるのか?」

「フォレストウルフはね、門の近くにいるのを含めると、15匹はいるよッ!」

「じゅ、15匹ッ!?」

 キッジは目を丸くした。そう言えば魔物を手懐けているのを聞いたことがないと言っていたな。

「そんなに珍しいことかな?」

「珍しいなんてレベルじゃないッ! そんなの、生前の歴史でも魔族しかありえないぞッ!」

「やっぱ、珍しいんだ……」

 じゃ、どの道広まりそうだな。わたしのこと。

 そんなことを話していると、陽が高く昇っていることに気づいた。もうお昼ぐらいかな。

「あ、そうだ。わたし、この街のこと全然知らないや。色々買い物しようと思ってたんだけど」

「なら、僕の行きつけの店に来ないか?」

 おっと、自警団長から誘ってくれた。折角なのでご厚意に甘えよう。

「いいよ。よろしくね」

 キッジは顔を赤くして、わたしの目から逸らした。

 わたしと呼んで忘れかけていたが、美少女なんだよなぁ。ノルンって。


 そんなわけで、自警団長であるキッジの誘いで昼食を一緒に摂ることとなった。

 案内されたのは、夜は酒場をやっている食堂だ。男女問わずに賑わっている。

 どうやら彼の馴染みの店らしく、女将さんが元気よく挨拶してくる。

「いらっしゃい。自警団長さん、そちらは彼女さんかい?」

「ぼ、僕たちはそういった間柄ではありません。他所から来た人なので……」

 キッジがたじたじになって女将に説明する。

「なんだい。まいいや、座りな」

 つまらなそうな反応を見せると女将は調理場へと戻っていった。

 わたしとキッジはテーブル席に座った。

 そっか、お冷は頼まないと出ないんだっけ。ドリンクでも頼んでおこう。

 メニューは料理の写真がないものの、懐かしい料理の名前が載ってある。

 だが、日本食や中華など東洋の料理はない。西洋の料理ばかりだ。

 まぁ、好きだけど、米が恋しくなるなぁ。

「すみません。わたしはナポリタンを一つ。あと、オレンジジュースを一つ」

「僕はシュニッツェルを二枚と、リンゴジュースを一つ」

 あいよ、と女将さんが返事をすると調理を始めた。

 すごいな。他にも多くの客がいるっていうのに。

「楽しみにしててね。ここの料理はおいしいから」

「うん。いつもこんなに賑わっているの?」

 笑顔だったキッジの顔が次第に曇った。

「いや、今日は少ない方さ」

「どうして?」

 わたしは首を傾げた。もしかして、わたしが狼に乗ってきたからかな?

「最近、街の郊外の田畑を荒らされててね。みんな対策を練って喉が通らないんだ」

「そうなんだ……」

「幸い、その前に収穫していた分があるからよかったものの、明日収穫する分もやられやしないかと……」

 害獣か……。だったら、あの子たち以外の魔物の仕業なのかな?

「手掛かりはあるんですか?」

「手掛かりは大きな赤い羽が何枚か。荒らした痕跡に大きな爪痕があるだけだ。だから皆、警備に出たがらないんだ」

 厄介だな。確かに怪鳥の類だ。

「ってことは誰も姿は……」

「見ていない。どんな姿なのか、僕たちにはわからないんだ」

「うーん」

 参ったな。完全に心当たりがないぞ。

 そりゃ、転生して二週間も経ってない上、森林から出たのは今日が初めてだし……。

「だから、今日の晩から朝にかけて僕が見張りをすることになったんだ」

「そうなんですね。大変でしょうに」

「ああ。でも、やるしかないんだ……」

 彼が顎に手を当てて悩んでいると、女将さんが頼んだ料理を持って来てくれた。

「はい、ナポリタンとシュニッツェルだよ」

 ナポリタンとシュニッツェルをテーブルに置くと、ついでに頼んだドリンクも置いてくれた。

 しかし、シュニッツェル、日本で言うカツレツが三枚ある。

「あの、僕が頼んだのは二枚ですが……」

「いいんだよ。これから大仕事が控えてるんだろ?」

「……ありがとうございます」

 女将さん、いい人だな。労ってくれるんだ。

「よかったね。キッジ」

「こういうのを求めてないけど、やっぱり……」

「自警団に入ってよかったね」

「そうだね」

 わたしはナポリタンをフォークでぐるぐる巻きにして口にした。懐かしい。子供の頃から好きな味だ。転生してからずっと獣の肉しか食べてなかったから新鮮だ。

「おいしいッ! これに粉チーズとタバスコがあればなぁ」

「粉のチーズ? タバスコ?」

「あ、うん。こっちの話」

 うっかり前世の調味料を欲しがってしまった。でも、キッジの反応を見た感じ、チーズはあるっぽい。あとで、市場で探しに行こう。

「シュニッツェルを一切れ食べる?」

 キッジがカツレツを差し出してきた。

「えッ? いいの?」

「うん、流石に三枚は多いから」

「ありがとう」

 うまそうなカツレツだとは思ってたんだよね。どれどれ……。

 うまい。肉の味付けもいいし、歯ごたえのある衣だ。

「気に入ったならもう一切れ食べるかい?」

「うん。ありがと」

 もう一切れ頂いた。やっぱりおいしい。これに米があったらなぁ。

「気に入ってくれたみたいだね」

「うん。お返しにナポリタン一口どうかな?」

「遠慮させてもらうよ。シュニッツェルでお腹いっぱいになりそうだ」

「そっか」

 なんなら遠慮はしないで食べよう。

 食べる物を食べて、キッジに奢ってもらった。ごちそうさまです。おいしかった。

「ご飯の代金まで支払ってもらっちゃって、ありがとね」

「いいよ。これぐらいは安いから」

 その後、キッジには街の案内をしてもらった。

 その中で魔導書を売っている本屋へと入ると、無属性の魔法が載っている魔導書をあるだけ買おうとした。しかし、キッジが待ったをかけた。

「ノルン、君、本当にこの本を買うつもりかい?」

「えッ? なんで?」

「無属性魔法は、今じゃ扱える者がいないんだ」

「あれ? 希少だって聞いたけど?」

 森様から聞いた話と違うなぁ。

「いや、人間の身だと効力が微々たるものしか習得できないんだ」

「ふんふん」

 適当に本を開いて、気になった魔法があった。空中を移動するといったものだ。

「このアンチグラビティってのも?」

「今の人間で使えた者はいないよ。昔はいたらしいけどね」

「ふうん、じゃ、アンチグラビティ」

 試しに唱えてみた。すると足が床から離れだした。身体全体にかかっている重力から解き離れたようだ。

「えッ? 嘘、だろ……?」

「でも、できちゃったものはできちゃったし……」

 でも、このアンチグラビティは空を飛ぶ魔法ではないようだ。わたしにかけられた重力を消すだけの能力らしい。

「お客さん? 一体何を……」

 やば、店主に見つかった。いかにも頑固親父って感じだ。わたしは浮かび続けたまま、頭が天井に着いた。

「ごめんなさいッ! すぐに降りますのでッ!」

 わたしは魔法を解除して重力に従って落ちていった。尻もちをついた。痛い。

 ただそれ以上に、店主さんの顔が険しくなっているのがわかった。

「……ちょっと待っとれ、嬢ちゃん」

「はい……」

 どうしよう。殴られるのかな。

 そう思っていたら、店主が店の奥へと姿を消した。

 少し怯えながら待つと、店主さんが別の本を持ってきた。

「あの、これは?」

「これは無属性魔法の本だ。あげるよ」

「えッ?」

 いいのか? 背表紙とかが豪華な作りになっているんだけど?

「なんでわたしに本をくれるんですか?」

「お前が無属性を扱えるからだよ。俺が持っていても宝の持ち腐れだし」

 険しかった店主の顔が緩んできた。

「でも、たったそんなことで、頂いちゃっても……」

「無属性を扱うお前さんはいつか大物になるだろう。だから、そのために役立ててやってくれ」

「はいッ! ありがとうございますッ!」

 そんなに珍しいことなの? 希少とは聞いたんだけど……。

 あ、そうだ。持っている本は買い取らないと……。

「あの、これらの本を買いますッ!」

「いいっていいって。どうせ誰も手にしないんだからやるよ」

「でも……」

「言ったろ? 俺が持ってても宝の持ち腐れって」

「ありがとうございますッ!」

 わたしはタダで本を数冊手に入れることができた。

 ホクホク顔のわたしに、キッジがやっぱり、と呟いた。

「君はやはり常人離れしているね。無属性を扱えるなんて」

「これ、隠した方がいいかな?」

「その前に君の噂ができると思うよ」

 うーん。確かにそうなんだよね。

「他に買い物していくかい?」

「そうだね。狼たちに首輪を付けたいし、あと、お土産にお肉とか買っておきたいかなぁ」

「わかった。付き合うよ」

「ごめんね。忙しくなるってのに」

「いいよ。警備の一環だからさ」

 その後もキッジには案内をしてもらい、お目当ての首輪を様々な色を数十個買ったり、肉を数種類多めに買った。なんでこんなに買うのかって? そりゃ、狼たちの好みもわからないし、狼が増える可能性があるからだよ。ほら、パートナーを見つけたりさ……。

 必要なものは済んだかな。門で待ってる狼の元へと戻ってきた。じゃれついてきた。お腹も鳴っている、わたしのこと待っててくれたんだ。

「ごめんね、お腹空かせて待たせちゃって」

 そう言ってわたしは狼に買ってきたお肉を渡した。本能て豚肉に食らいついた。とてもうまそうに食べている。

「すごいね。このフォレストウルフは」

 キッジが撫でようと試みた時、明らかに警戒そうに睨みつけた。

 グルルルル……。

「ダメッ! 人を威嚇しようとしないッ!」

 わたしはそう言って狼に叱りつけた。すると、キッジに対しての威嚇がなくなり、従順になった。

「いいんだ、ノルン。僕が不用心に近づいたからだよ。この子の行動は正しいよ」

「でも……」

 こんな調子で人に威嚇してたら街まで買いに行けなくなっちゃう。

「門兵さん、この子、御者さんたちを威嚇してきませんでした?」

「そんなことなかったよ。むしろいてくれて楽できた」

「俺もだ。近づかなければ待っている飼い犬と同じだ」

「そうですか……」

「それに、いかにも、な奴らを牽制できたしな」

「ああ、奴隷商とかはビビッて馬車を降りやがったしな」

 防犯に役立ったのか。ならよかった。

 って、奴隷……。この世界にもいるんだ……。

「奴隷たちの保護は?」

「ちゃんとしてるよ。自警団に預ければこの街で暮らせるようにするさ」

「やっぱり犯罪なんだね」

「ああ。この国ではれっきとした重犯罪だ。だけど、全部は検挙できていないんだ」

 キッジが自身の力の不甲斐なさを噛みしめるように手を握っている。

 そうだよね。日本でもブラック企業の業務が犯罪だとしても全てを検挙できていないもんね。

 叱ったおかげか、キッジを励ましているのか、狼がキッジにすり寄ってきた。

「ノルン? これは?」

「あなたのこと、敵とは思わなくなったみたい」

「そう……なのか。ありがとう……」

 キッジの言葉が途切れた。別に魔物だから、ということを再認識したわけじゃないと思う。

「この子、名前はあるのか?」

 やっぱりか。聞かれたよ。

 正直言ってネーミングセンスないんだよね……。

 ここで名前つけよう。ちょうどいいタイミングだし。

 一番好きな群青色の首輪を狼に付けながら考え、名前を決めた。

「この子の名前はダイゴロウ。ダイゴロウだよ」

 名付けてみたのはいいけど、なんか、犬みたいになっちゃった。

「そういうわけで、よろしくね。ダイゴロウ」

 ワンッ!

 街の中まで轟くように吠えて、返事をしてくれた。名付けた甲斐はあったもんだね。

「そうか。ダイゴロウというのか」

「うん。変、じゃないかな?」

「別に、変だとは思ってないよ」

「ありがと」

 ちょっと自信がついた。ダイゴロウもいやそうじゃないし、これで決定だね。

「改めてよろしくね。ダイゴロウ」

 ワンッ!

 またも大きく吠えた。よろしく、と言っているのかな。

 しかし、問題が発覚した。それはダイゴロウを見て気づいた。

 この荷物、どうやって持って帰ろう……。ダイゴロウに乗せて、荷物を持たせてはできないよね。どうしよう……。

「それにしても、どうやって持って帰るんだい?」

「それを今、考えてるとこ……」

 キッジも気づいていた。むしろ気づいていたのならその時点で教えて欲しかった。

「そういう時こそストレージの魔法があればな」

 門兵さんが割って入ってきた。

「ストレージ?」

「ええ。無属性の魔法で古くの魔法使いが多くの荷物を持つ時に使っていたと」

「……」

 キッジの視線が門兵からわたしに向けられた。もしや、と思っているよね。

 でも、そんな簡単にいくかな? ま、やってみるか。

「ストレージ」

 わたしが唱えると、ゲームのウィンドウみたいなものが出た。所持している物の一覧、ストレージ内の空覧が見えていた。所持している物をストレージへとタッチ操作で移動させると、その所持物が消えていった。

「あの、自警団長? この少女は?」

「あ、ああ。彼女は無属性魔法が使えるんだ」

 門兵たちが目を丸くしていた。キッジはさっき見た影響で慣れていたから驚きが少なかった。

 でも、おかげで荷物をダイゴロウに持たせずに済む。

「ありがとうございます、これで帰れそうです」

「あ、いいよ。俺、半分冗談で言ったし」

 そういやこの門兵さんの発言のおかげで街に入れたんだよね。

「もう行くのかい?」

 わたしがダイゴロウに乗ると、キッジが名残惜しそうにする。

 たった数時間程度だったけど、楽しむことができた友人と言っても差し支えがない。

「うん、他の子も待ってるだろうし、それにこれ以上キッジを振り回せないよ」

「僕はそれでもかまわないけど」

「夜、畑の警備をするんでしょ? なら、少しでも寝といた方がいいでしょ?」

 高く昇った陽が下がり始めている。ここで別れた方がキッジのためになると思う。

「わたしの買い物に付き合ってくれてありがとね」

「またこの街に来たら声をかけてくれ。まだ案内してあげたいところがあるから」

「わかったよ。また声をかけるからね」

 そう言い終えると、わたしを乗せたダイゴロウが帰路へと駆けて行った。キッジが見えなくなるまで手を振ってくれている。わたしも手を振った。


 家に帰ってみると狼たちが群がってきた。寂しい思いさせてごめんね。

「ただいま。はは、くすぐったいよぉ」

 しかし、違和感があった。なんかいつもより多いような……。

「ちょっと待ったッ! 全員整列ッ!」

 わたしの号令に狼全員が整列しだした。

 そして遅れる3匹を見て、違和感の正体に気づいた。

「増えてるッ!」

 いつの間にか3匹増えていた。これで総勢18匹となった。

「もしかして、あなたたち……」

 新しく入ってきた狼たちを眺めていると、どうやら新しく入ってきた3匹は居残った狼たちのどれらかとカップルになったようだ。来るべき時が来たとしか言いようがないけど、今日だとは思わなんだ。

 どうしよう。ダイゴロウ以外の名付けは今度にして、ストレージ内から土産の肉でも渡しておこう。すると狼たちが肉にがっつく。それぞれ好みがあるのだろうか、種類が少なかったからか、みんな我先にと喰らいついていた。

 とりあえずわたしは、狼たちが食事している間に自分の取り分の肉を冷蔵庫にしまい、無属性の魔導書を読み進めた。非常に読みやすかった。なんというべきか童話を読んでいる感じに近い。何個か試してみて全部使えることがわかった。魔法が使えるだろうとは言われたけどここまでとは……。

 ……。

 やっぱり、気になるな。

 今日の晩、キッジの言っていた鳥らしき怪物を退治するために、警備につくと言っていた。

 なんだか胸騒ぎがする。キッジの腕前を見ていないのもあるが、その鳥獣がただの化物だったら……。

 わたしに何ができるのかわからない。でも、家から出ずにはいられなかった。

 家の鍵を閉めると、ダイゴロウが家の前で待ってくれた。

 ワン。

 ダイゴロウだけじゃない、他の狼たちもついてきた。

 わたしだけで行こうとしたのに、この子たちは――。

「一緒に来てくれるの?」

 ワンワンッ!

 全員が吠えてきた。そんなことしなくてもいいのに。

「いいの? 人間の問題に突っ込んでいくんだよ?」

 それでもわたしに近づいてきてくれる。これ以上引き止めても聞かないかな。

「わかった。じゃ、早速だけど……」

 出発前に狼たち全員に首輪を付けた。他人から見ても人の手が関わっていると教えさせるためだ。

 行こう。折角の第二の人生をお節介に生きてもいいよね。キッジ、手を貸すからね。

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