第16話 やっぱ正月は茨城だね!!

やっぱ正月は茨城だね!!




「お爺ちゃん、庭の掃除終わったよ」と洗車をしているお爺ちゃんにあたしは声をかけた。今日は茨城で大掃除の日だ。

年末は茨城にいる、流石に府中で一人はね、お婆ちゃんもだいぶ回復したけれどまだ本調子ではない、今年はあたしが大掃除の一翼を担っている。

「後はいいからお婆ちゃん手伝ってやってくれ」

「はーい」

お婆ちゃんは台所にいる。

お正月用の食器の整理なのか、使う食器を棚から出しているのかわからないけれど、なんだか大ごとになっている。

「お婆ちゃん手伝うよ」

「ありがとう、じゃあ一番うえの重箱を取ってくれる、あたしはダイニングの椅子に乗ってビニールに包まれた重箱を取った、随分使われていない印象だ。

「これ久しぶりに使うの」

「十年ぶりかな、今年は莉ちゃんがいるからね」そうなのだあたしがいることでお爺ちゃんのお婆ちゃんはなんか張り切っている。

ここ何日か楽しそうだし、そんな二人の姿を見ていると、府中ではなくここから学校に通おうかななんて気にもなってくる。

「オオい、莉奈ちゃん、公平君が来たよ」とお爺ちゃんが庭で叫んだ。


あたしが出て行くと公君はいつもの笑顔で立っていた。

「公君なんか久しぶりだね」これはあたしの最大限の嫌味だ。

「やっぱり帰ってきていた」嬉しそうにいう公君の顔を見ていると今の嫌味もかるーく流されて行くようだ。

「うん」

「莉奈ちゃん、もういいから、公平君と遊んでおいで、あんまり遅くなるんじゃないよ」

声のかけ方が小学生の孫に言うようだし、それこそ小学生じゃないんだから、何して遊べって言うのよと言う言葉を飲み込んで、あたしと公君は、家を出た。

一面の田園風景だから、散歩くらいしかできない。

「横浜以来かな」と仕方なくあたしから話しかける。

「そうだね」

「元気だった」

「うん、まあ」

「クリスマスどうしていたの」

「どうしてもないよ、何もなく、いつも通り」

「え~ご飯とか行かなかったの」

「誰と」

「えっ、なんか彼女とか居なかったっけ」

「いないよ、そんなの」

「だって、女の子と歩いているの、見たことあるよ」

「いつ」公君の学校の前とは言えない、だってストーカーみたいだし、いや事実ストーカーか。

「いつだったかな」とあたしはとぼけた。

いつ見たんだと言うことを詮索せずに公君は何事もなかったように。

「それは、僕だって女の子と話しくらいするよ」それはそうだ。

「そうか」

「だいたいが話をして彼女なんてなっていたら、彼女、何人になるの」

「それはそうだ」

「もしかして、それを目撃して、僕と距離を置いた」距離を置いたつもりはなかったけれど。

いや、おいたか。

「やだな、距離を置いたなんて」と言ってあたしはとぼけた。

「じゃ。初詣一緒に行こうよ」

「うん」その時、あたしに断るという、選択肢は存在しなかった。



その夜公君はあたしを見るなり、息を飲むようなそぶりで、頭の先から足の先まで見た。

あたしは、ママの晴れ着を着て、初詣に出かけたのだ。

意外と周りが晴れ着が少なかったので、目立つ目立つ。

無論晴れ着なんて着るのは初めてだった。

公君と初詣に行くと言ったらお婆ちゃんがママの晴れ着を出してきた。

そんなことしたら、力が入っているのがバレバレじゃないかと思ったけれど、まあ、それはそれでいいか。

初詣は十二時前に行って一番で初詣をしようと言うことで。早めに出て神社の門の前で二人で並んでいる。


「莉ちゃん、似合っているよ。」

「そうお」と言ってあたしは、クルッと回って見せた。


実は年末と、年始でお参りができるのかと思っていたいたら、神社はやはり、年末はお参りができない、二年参りは良くないらしい、だから二人して入り口で待たされている。

年末だと長蛇の列で待たされて初詣なのかわからなくなっちゃうからね。

こんな町の神社でも、そこそこの人数が並ぶ。

新年までまだ三十分あった。

間が持たない。

何を話していいかわからない時間が流れた。


公君この間はごめんね。

公君の希望を満たしてあげられなくて、でも拒否したわけではないのよ。

そういうことに気づかなかったの。

なんてことが言えるわけもなく、不思議な沈黙が流れた。

関係修復が目的で初詣に誘ったんなら、責任もって何か話してよと、自分を棚に上げた、逆ギレ思考を横に置いて、公君にあたしははうったえかける。

「なんかこの沈黙の時間が、、、、、公君何かは話してよ」

「何を」

「なんでも」

「そういうのが一番難しいんだよな」

そして再び会話は途切れる。

あたし達の間ではハッキリさせてはいけないことがある。

はっきりさせてはならないことが、今のあたし達の間では大きな比重を占めている、だから

会話が途切れるのだ。

そしてそんなことをしている間に、年が変わった。

あたし達はお互いに明けましておめでとうございますと言い合った。

挨拶というのはなんて良い言葉だろう、どんな状況でも交わすことに大義がある。

どんなに言葉に詰まろうと、重苦しい空気が流れようと、挨拶だけは単独で交わすことができる。

そしてあたし達は流れ始めた人の動きに乗って神社の中に入っていった。

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