第15話  冬  あたしは公君のことをどう思っているの?

           冬

あたしは公君のことをどう思っているの?




日本の冬なんて大したことない。

なんてパパは言っていたけれど、そうでもない、府中の家は隙間だらけだ。

これが意外と効く。

トロント郊外はマイナス二十度とか三十度、これは少しおオーバーか、でも三十度行っちゃうの、と思う時はよくある。

府中は行ってもマイナス一度か二度というところ。

でもカナダでは完全に密封され暖房が効いた家に住んでいたから、家の中では結構薄着だった。

ところが府中の家は、隙間だらけだから暖気は逃げるし、寒気は入ってくるし、特にお風呂は厳しい。

体感的にはカナダより府中の方が寒い。

例えば朝起きたときだ、カナダの家は家の中はあたたかいので起きて寒いと感じる事はないけれど、府中では寒くて目が醒めることがあるし、布団から顔をだして息を吐くと白くなるし、所詮寒さは気温ではなく、環境なんだなと思う。

寒いといえばもう一つ、最近公君から連絡がない。

そんなことを思いながら学校に行くと相変わらずメイや山本さんが茶化してくる。

「あんまりもったいつけるから愛想尽かされたんじゃないの」これは山本さん。

「やっぱり男は脈のない女より、脈のある女に走る生き物よね」これはメイ。

全く人ごとだと思って好き勝手なことをと思う反面、あたしは焦った。

これで公君とフェードアウトしてしまうのか、そしてあまりに上から目線で、やな女になって、公君にひどいことをしているのではないか、そもそもあたしが、公君とどこまで望んでいるのかよくっわかっていないんっだけれど、まあこれはあたし自身が日本に残るのか、カナダに帰るのか、決めかねているくらいだから、公君とのこれからなんて分かるわけがないんだけれど、まあとにかく、公君とのことがこのまま続くにしろ、終わるにしろ、公君に謝り、きちんとしなければと思った。


かくして、今度はあたしが公君の学校の前で待ち伏せをした。

なんだ連絡すればいいじゃんと言われそうだが、この待ち伏せ、案外悪くない。

待っている間はその人のことを考える、そして自分の気持ちを見つめ直すことが出来る。

そういうあたしの気持ちを、わかっているのか、分からないのか、メイも山本さんもあたしの奇行を咎めなかった。

あたしは公君を待ち伏せしながらさまざまなことを考えた。

そもそも公君の事をどう思っているのか。

小学生で毎年夏に日本に帰ってくるとき、たしかに公君に会う事は楽しみだった。

夏が近づき、日本に行く日が近くなると指折り数えた。

莉奈は公君のことが好きなのよね、なんてママに言われると、そうよ莉奈、公君のこと大好きだよと答えた。

高校の時公君がカナダに遊びに来た時だってとても楽しかった。

でもそれは恋愛感情では無いような気がしている。

子供が友達の事を好きだと言っているに過ぎない、ライクであって、ラヴではない。

警察ではないので、四六時中みはいるわけではないので、なかなか公君には会えなかった学校帰りに一時間くらい、公君の学校の校門に立っているだけなので、それはそうかと思ったが、それでも待ち伏せ三日目、その日も学校が終わって、のこのこ公君の学校の前にきた。

そして見てしまった、公君が可愛い女の子と楽しそうに出てきた。

あたしはとっさに物陰に隠れてしまった。ちょっと想定外だった。

公君に彼女ができた。

想定外だったけれど、あたしはその事にショックはうけなかった。

むしろ公君よかったね、心配しなくても良かったと思った。

どれだけ上から目線なんだと思った。

だからそこに嫉妬のような感情が全く入らなかった。むしろ可愛い彼女ができて良かったねというまるで家族のような感情が生まれていた。

かくしてあたしのストーキングは三日で終わった。


たしかに公君からの連絡は途切れていた。

あたし自身はそんなつもりはさらさら無かったんだけれど、あたしがもったいつけたから、公君はあたしに愛想をつかしてあたしに連絡をしてこない?

いやそんな事は公君は思っていないだろう。

とはいえ公君とどうにかなりたいと言うことではないけれど、公君はそんな人ではない。と思いながらあたしは悶々と過ごしていた。

ということはやはりあたしうは公君に彼女ができたことに、嫉妬を込めたショックを受けていたのか。




女三人のクリスマスは楽しいのか、悲しのか?




気づくと世間はクリスマスだった。

失恋したあたしを慰めるために、女三人でダラダラと過ごすことになる、それもうちで。


待ち合わせは府中だった


始めあたしたちはブラブラと様々なお店を見て、そのあと食材も調達に入る。

ある程度これが食べたい、これを買おう、三人で歩いていて、あることに気づいた、食材がない、全て出来合いのものだ。

今の状態だと、何一つ自分で作った物はない。

でも数があるので彩りだけは豪華ということになりかねない。

サダコおばちゃんがいたら何か作れと言われそうだけれだけれど。

「ねえあたし今気づいたんだけれど」

「何。莉奈」

「食材がないよね。クリスマスケーキやチキンはいいとしても、このままだと、全て出来合いのものになるけれど」

「何か問題が」と山本さん。

「嫌だって少しぐらいは」

「莉奈ちゃん、保守的。たまには贅沢しようよ」それは贅沢なのかと思いつつ、そこはあたしもゲンキンなものでまあいいかと言う気になる、かくしてさらに出来合の物を買い足して行く。

飲みものはノンアルコールのワインといえば聞こえがいいが、子供用のノンアルコールのシャンパンだ。

一応あたしたちはこういう節度は守っている。

しばらくしてあたしは気づいたのだ。

この二人、何を話しても公君のことを言ってこない。

すっかりメイと山本さんの中ではあたしと公君は終わったことになっているようで、そのうちに、ちょっと気を許すとあたしを慰めようという言動が溢れてくる。

そもそもあたしと公君は付き合っていたのか、客観的には付き合っていたかのしれないけれど、そういう関係ではなかった。

だいたい高校の時にカナダに遊びに来たのだって、なんでもなければ、わざわざカナダまで来ないだろうと人は言うだろうけど、そういうことでは無い。

そういう関係ではないのだ、そして、多分それは公君も同じだと思う。

そう、公君も同じだ。


三人で荷物が持ちきれなくなって、やっとあたしたちは、あたしの家に帰ることなった。

やっと見つけた百円バスに乗り帰る。

途中競馬場に前を通る。

「すごく大きくて、綺麗だね。とても博打場には思えない」と山本さんが言うと。

「なんか人相の悪いおじさんが、タバコの煙にまみれて、カードや、麻雀をしている感じ、マカオの裏路地みたいな」とメイ、

「いやメイ今はマカオだってラスベガスみたいになってるんだよ」

「へー莉奈ちゃん物知り」

「なんでメイに褒められても全然嬉しくないんだろう」

「嘘くさい、って言うことよね」とクール山本。

「ちょっと二人ともどうしてそうなるのよ」

「でも本当に、今ここはカップルとかがデートしたりするみたいよ」とあたしがサダコおばちゃん談を披露する。

「そうなんだ、じゃ今度来てみたいね」

「私たち大金持ちになったりしてね」

「そう言う事を言っていると全財産無くして路頭に迷うんだよ」

「その時は助けてね」

「やだ」

あたしはこんなくだらない事を言い合いながら笑いあえる関係がなんだかとても嬉しくなった。

こんな友達を持ち続けられるなら、ここにいてもいいかなと思う。

そして。その日あたしたちは府中の家でダラダラと女三人で聖夜を過ごした。

テレビではみてもいないのに、クリスマス特集番組が垂れ流されて行く。

全く男っけがないからあたしたちは散々飲み食いを繰り返した。

そしてさっき以上にくだらない話を延々と繰り返して行く。

これはこれで楽しい。

こんな友達をもちつづけ先の話だけれど、お互いの結婚式に呼び合い、残り二人でおめでとうなんて連呼して、みんなの前で、歌かなんか歌う、子供ができたらたまに会って、育児と旦那の愚痴かなんか言い合う。

「莉奈、何ニヤニヤしているのよ」

「うん、別に、今度静岡に遊びに行こうかなって」

「ああ、是非来て。駿府城くらいしかないけど」

「じゃあ千葉にも来てよ」

「やだ、千葉近いもの。観光地あるの」

「いっぱいあるよ。鴨川とか、館山とか、鋸山とか」

「それ、メイの家の近くじゃないよね、メイの家千葉市の上の方だよね」山本さんがチャチャを入れる。

「ディズニーランドとかあるよね」

「ディズニーランド、千葉の観光地じゃなくて、関東だよね。それに名称だって東京ディズニーランドだし」

「でも住所は千葉だもん」とメイが必死の抵抗をする。そんな会話をして夜は更けて行った。

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