第14話 公君と通学

公君と通学




茨城の家からだと公君と出発点と到達点がほぼ一緒なので、一緒に学校に行くことが多くなった。

必然的に様々な話をして、気持ち悪く、いや陳腐な言い方をすれば、心の距離が縮まった。お陰で公君に今度映画でも見に行こうよ。

なんて言われるとなんの警戒もなく、良いよと返事をしてしまう。

後になってその話を山本さんとメイにすると。

「それは付き合っているな」と言われた。

まあだからと言って、公君のことを特別意識することもなく、秋も深まってきた。

おばあちゃんの状態も小康状態から、改善に向かい始めたので、あたしは府中に帰ることにした。

本当はもう少しいてもいいんだけれど、明らかにおじいちゃんとおばあちゃんは、あたしが居ることが嬉しいらしく、このままい続けると府中にどんどん帰りにくくなりそうだったし、何より公君だ。

このままここに居ると、公君とのっぴきならない状態になりそうで、まあそれはそれでいいんだけれど、どこかあたしの腰が引けた状態が自分でもなぜなのか分からなかった。

これまた、そんな話を山本さんと、メイにすると、メイは両手を頬に当てて、キャーと小さく叫ぶし、山本さんは、「それは愛だね」したり顔で言う、絶対お前ら面白がって居るだろうと思いつつも仕方がないので、「どこが愛なのよ」と言って見る。

「意識しているって言うことよ、愛しているから、意識して、意識しているから、素直に喜べないし、さりとて、突き放すこともできない。愛だわー」といって山本さんは頬づえをつくような感んじで空を見つめた。

聞いたあたしがバカだった。

でも、おそらくそんなんではないのではと思っていた。

あたしはまだ迷っているんだ。

このまま日本人になるのか、カナダ人になるのか、カナダに帰れば結局のところ公君とは終わる。

例えば公君とのっぴきならない関係になったとして、あたしがカナダに帰る決断をした時どうしたらいいのか、いやそんな先のことはどうでもよく、今を楽しめばいいと、人は言うかもしれない。

そののっぴきならない関係だって深く考え過ぎだと言われるだろう、でもあたしは深く考えてしまう。

これはもうどうしょうもないことで、頭で分かっていてもどうしょうもない。


寒さが秋ではなく、冬という感じの横浜をあたしと公君は歩いていた。

確かにこれはデートだろうと今日のあたしは冷静に考えられるようになった。

「莉ちゃんを横浜に連れて行きたいなんて言ったけれど実は大嘘で自分が来てみたかったんだ」

「まあそんなこったろなことだろう思っていたよ」

「バレていた」

「公君の考えそうなことはすぐわかるよ」いい感じで打ち解けてきたのであたしは長年の疑問をぶつけてみた。

「前から聞きたかったんだけど」

「なに」

「公君高校生の時、カナダに来た後、なんか素っ気なくなったけど、何か気に触ることでもあった」

「ああ、そんな古いこと」

「いやあたしにとっては大問題だった、だって公君がわざわざカナダまで来たのに、不快な思いをさせたとあっては」

「全然気にしなくていいんだよ。僕の嫉妬みたいなものだから」

「嫉妬って」

「僕は莉ちゃんと深い友達と思ってた。ところがカナダに行くと、莉ちゃんには仲の良い友達がたくさんいて。莉ちゃんはそこで輝いていた」

そんなオオバーなと思ったけれど、そういう風に思われていたなら、ちょっと失敗した。

あたしは日本からわざわざ来てくれた幼馴染を自慢したくてカナダの友達の紹介したんだ。

「それで気分を害したの」

「害してないよ。自分の思い上がりが恥ずかしくなっただけだよ」

「思い上がりって」

「僕が莉っちゃんと近しい仲だと思っていたのが、実は大勢いる友達の一人に過ぎないという現実を知ったってところかな」

公君。その思考はかなりめんどくさい思考回路だぞと思ったけれど、まあなんとかフォローをしなければとあたしは焦った。

「でも、今はこうして二人で横浜に遊びに来ているし」

「いやごめん、今はそんなこと思っていないよ、我ながら青臭いというか、自分で自分の思い込みを恥ずかしいと思っている今日この頃です」と公君は心底恥ずかしそうに下を向いた。

するとあたしは、公君に忘れたい過去を思い出させてしまったのか。

悪いのはあたしか。

と思ってあたしはフリーズした。すると今度は公君がヤバイと思ったのか。

畳みかけてくる。

「今は全然そんなこと思っていないよ、莉ちゃんが、日本に帰って来た事はとても嬉しかったし、じゃなければ莉ちゃんの学校の前で待ち伏せなんてしないよ」

ああ。公君待ち伏せという言葉を使ってしまったか。

「ねえねえ、メイ、やっぱり公君あたしのこと待ち伏せしていたみたいよ」なんて事は口が裂けても言わないぞとあたしは心に誓った。

それからのあたしたちは、淡々とデート?を進めていった。ランドマークタワーに登り、横浜の夜景を眺めて、夕食は食べ放題だ。

でもホテルのビッフェなので、ちょっとお洒落なところだった。

並んでいるものも、ステーキやローストビーフと言った高級なものだった。

あたしと公君はデートとは思えないくらい、バクバク食べた。

「莉ちゃんの食べっぷりは惚れ惚れするな」と公君は自分の事を棚に上げて失礼な事をいう、これでもうら若き乙女だぞ。

「だってご飯は、カナダより美味しからね」

「やっぱり違うの」

「全然違うよ。カナダの食パンは、食パンだけれど、日本の食パンはスイーツだよ」

「へー、そうなんだ」

「パスタだって、日本お方がモチモチしていて美味しいし、魚だってこっちの方が新鮮だし」

「そうなんだ」

食事はデザートに移っていた。

「例えばこのちっちゃいケーキだってこちの方が10倍美味しいよ」

「そうか良かった、あっ、そういえば、この後はどうする」

「このあとは帰るだけだよね、今日は本当にたのしかったよ」

「僕もたのしかった」と言って、あたしたちは笑いあった。




あたしは男の敵?



「そこから先はまさか本当に帰ったの」と次の日メイに聞かれた。

あたしはなんのことかわからず、二人で帰ったというと、メイは頭を抱えた。

「え、何」とうろたえたあたしはすがるように、横にいた山本さんを見た。

「かわいそうに」と山本さんが腕を組んで、伏し目がちに首を振った。

「かわいそうに」メイが手を組んで、祈るような仕草で、言う。

「えっ、誰が、あたし」

「違う、公君に決まっているでしょう」

「えっ、どういうこと」

「姐さん。この男の敵に言ってやってくださいよ」

「莉奈ね、公君は決死の覚悟で、あんたをデートに誘ったんだと思うよ」

「決死って」

「それはその、最後までを目論んでよ」

「いや、そんな事はないと思うけど」

「どうしてそんなことが言える」

「だって公君とはまだ子供で愛だ恋だなんて知らない時からの友達だよ」

「じゃどこでご飯、食べた」

「お洒落なレストラン」

「どんな」

「ホテルのビッフェ」

「で最後になんて言われた」

「この後はって」

「それで後は帰るだけっていったんでしょ」

「うん」

「莉奈、よーく考えてね、あたし達は莉奈のこと知っているから、このすとこどっこいで済むけれど。普通ならランドマークタワーで横浜の夜景を眺めて。ホテルで夕食。これで何もしませんでした。これはもったいつけた嫌な女になるよ」

「じゃあたしはどうしたら良いの、公君に謝れば良い」

「それはそれで、公君を傷付けるし。まあなんとかなるよ」

「え~」

と二人には言われたけれど、公君にそこまでの思いはなかったと思う、でも取りつく島が無い態度はとってしまったかもしれない。

ここであたしは考える

これで良かったのか、悪かったのか。そう思って、当分答えは出ないんだようなとあたしは思った。


あたしはすでに府中に帰っているので、公君と通学はしていない、と言うことで、積極的にアプローチをしないと会えない。

さてどうする。

もしかして、また公君はあたしに対して距離を置いてしまうかもしれない。

そうなってしまえばまた公君と疎遠になってしまう。

それはそれで寂しい。

と思ったところであたしは考えた。

それは少なからず公君の事を意識していると言うことなのか、であるなら、関係の修復はあたしの方からだ。

とは言えではどうする。

そもそも公君とあたしはどうなりたいんだ。付き合いたいのか。

いや付き合うと言うならすでに付き合っている。

今一つステージに上がっていないと言うことだけだ。

ではそのステージに上がりたいのか。

またそれは別として、あたしはこのまま日本に居続けるのか、そもそもそれが分からなくて、公君と本気で付き合うことがいいことなのか、悪いことなのか。

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