第11話  ママは鋭いなあ

ママは鋭いなあ



それから、山本さんとメイはは三日ばかり府中にいて、競馬場や府中の駅や、立川のデパートに行ったりした。

そして山本さんは実家の静岡、メイは千葉に帰って行った。

あたしも明日には茨城のおじいちゃん、おばあちゃんのところに行く。

いつものようにあたしは縁側に向かって、ジョウバに乗っていた。

縁側にいつもの猫がやってきて、ジョウバに乗っているあたしを見つめた。いつもは視線を外すあたしが、思わずその猫に話しかける。

「ねえバーバどうしたらいい」あたしはなんで野良猫をバーバ呼ばわりしているんだろうと思った瞬間、バーバ呼ばわりされた猫はぷいと顔を背けて行ってしまった。


茨城の家で自堕落な生活をしていると、案の定ママから電話がかかってきた。

茨城にいることは言っていないから誰かが言いつけた。

まあおじいちゃんしかいないんだけど。

「莉奈、自堕落な生活はしていないでしょうね」

「何のこと」

「どうせおじいちゃんに甘やかされているんじゃないの」

「そんなことないよ、厳しく躾けられているから、安心して」

「嘘おっしゃい」

「本当だよ、今は爺ちゃんとお婆ちゃんがいるから、ちょっとだけ甘えているけど、いつもはビシッと生活しているよ。」

「信用できない」

「証明ができないから、信じてもらうしかないんだけれど。信じてよ」

「全くあんたって子は」と呆れるママに、ヘラヘラ笑って、ごまかした。

「山本さんとメイちゃんは、もう実家に帰ったの」

「うん。三日ばかりの合宿生活は楽しかったよ」

「そう、良かった。あんたに友達ができなかったらどうしょうって心配していたから、そのことについては一安心ね」

「そんなにあたしは日本に馴染めないと思っていたの」

「そこまで心配はしていなかったけれど。まあね」

「ねえママ」

「何」

「ママは、あたしにどうなって欲しいの」

「何それ」

「だから。このまま日本の大学を卒業して、日本で就職してこっちで結婚して欲しいいのか、カナダに戻って、以下同文」

ママは明らかに戸惑い、口ごもった。まあ当然だ、そして答えは明らかだった。だってでなければ高いお金を出して、日本の大学なんて行かせるわけはない。

「莉奈は、どうしたいの」

「わからない。来た時はやはりあたしのホームはカナダと思ったけれど、友達も出来たし、こっちの生活も慣れれば、まあこれはこれでという感じ」

「莉奈はどう思っているかわからないけれど。ママは莉奈がいい方にすればいいと思っている。これはパパも一緒よ、四年間で本当に自分はどちらが良いのか決めてくれれば良いのよ」

「うん」


しばらくしてパパが、夏休みで、日本に来た。子供のころはあたしや、お兄ちゃんがいたからか、子供の面倒をみるのも交代制ということだったのか、パパとママがいっしょに日本に帰ってくることは珍しかったけど、今なら別に二人で帰ってきてもいいのではと、あたしは思ったけれど、相変わらず、パパとママは別行動で日本に帰ってくる。

ここ茨城の家ではパパは我がもの顔ですごす。まるでおじいちゃんとおばあちゃんが実の親のようだ。

そんなパパと朝の散歩に出かける。

「どうだ、府中は、」

「一人暮らしを満喫しているよ」

「そうかー、寂しくないか」

「うん。でも友達も出来たしサダコおばちゃんが結構顔出してくれるから」

「そうか、ならよかった、、莉奈が寂しいようならママが言うように、茨城でもいいんだぞ、ここならおじいちゃんとおばあちゃんが居るからな」

「大丈夫だって、それに学校遠くなるし」

「そうか」

「パパこそどうなの、日本に帰りたい」

「なんでそんなこときくんだ」

「あたしさ、日本に来て、思った、あたしは何人だって」

「それはお前が二十歳にどちらかの国籍を選べば」

「そう言うことじゃないの、ホームの問題、気持ち悪くいえば、心の故郷」

「なんでそれが気持ちが悪いんだよ」

「なんか使い古された言い方だなって」

「そう言う場合はせめて、陳腐とか言いなさい」

「ああなるほど、ってパパ質問に答えてよ。」

「お前流の気持ち悪い言い方をすれば、心の故郷は日本かな」

「やっぱり、帰国子女の友達がいて、頭も体もザユーエスエーなんだけど、心の故郷は千葉なのよね」

「で莉奈の心の故郷はどこなんだ」

「それが分からなくなっているのよね」

「昔から、住めば都って言葉がある。最初はこんな所と思っても、住んでいるうちにいい所になるって意味。四年間の東京生活でどちらが自分にあっているか判断するんだな、それでカナダが良ければ帰って来ればいい」

「うん」

いつからパパはこんなに物分かりが良くなったんだっけと思った。

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