第9話   夏   悩みは尽きないのよね。

悩みは尽きないのよね。




「メイはさ。これからずっと暮らして行くなら、アメリカと日本とどっちがいい」

昼時の教室の一番後ろで、お昼ご飯を食べている時に、あたしは唐突にメイに尋ねた。

学食は混んでいる上に、あちらこちらに変なグループが陣取っていて、あまり環境がいいとは言えない。

早いものである。季節はすでに夏だった。

山本さんは扇子、メイは電池式の手に平サイズの扇風機、そしてあたしは、今時珍しいい、竹の団扇、各々涼をとる。

メイはさ、と言ったのに真っ先に反応したのは山本さんだ。

「どうしたの、何かあった」山本さんは扇子の速度を上げながら言う。

「いや別に深い意味はないんだけれど」と今度はあたしが団扇の速度を上げる。

「浅い意味ならあるの」

「姐さん、絡まないでくださいよ」と言ってあたしは、今度は団扇を山本さんに向けて扇ぐ。

「アメリカ。と言いたいところだけど」小型の扇風機を顔を上げるといつお間にかメイは顔をあげていた、そしていつになくまじめにメイが答える

「言いたいところ、というと」これまた山本姐さんだ。

「二人だから言うけれど、やはり、私は日本人なのよ、どこかでアメリカに憧れているだけなんだわ。ほんとうに住み続けるには覚悟がいる」

「人種差別みたいな物はあるの」

「あるでしょう、私は父が駐在で行ったからそんなには感じなかったけれど、本当にアメリカ人の中で暮らして行けばね」

「そうなの莉奈」

「あたしも、うちの周りは、インド系が多くて、学校もそういう子が多かったからよくはわからないんだけれど、あると思う」

「そうよね、人種差別という言葉があること自体がその存在の証明だよね」

あたしはメイも少しは分かっているんだなと感心した。

でも、だからこそコミニティーが出来る、そしてそのコミニティーの中でみんな生活して行こうとする。

メイはそういう中での生活が大変だと感じている、でもあたしはそういう生き方に慣れている。

そこから出なければ、みんな幸せに暮らして行ける、これは差別されているということでも、蔑まれているということでもなくて、逆にこちらからもめんどくさいので接触しないのだ。

「日本は平和なのかな」と山本さんが感慨深げに言うと、メイがそのキャラとは裏腹な口調で言う。

「そうではなくて私たちがマジョリテイだからよ、日本にだってマイノリテーはいるからそう言う人から見れば日本は住みにくいとろかもよ」

「確かに」とあたしと山本さんは声を揃えた。

そしてあたしはあることに気付いた。そしてその言葉は口を出る。

「今日のメイは変だ」

「何が」とメイはいつもに調子に戻り、聞き返す。

「だってまともなことを、頭良さそうに言っている」

「何よそれ」

「まあまあメイ、莉奈は褒めてくれているんだから。いいじゃない」

「全然褒めてない」山本さんに肩をだかれたメイが言う。


学校から帰ろうと校門の外に出たら、一人の男の子が近寄って来た。

待ち伏せをしていたのはなんと公君だった。

一緒にいた山本さんとメイが、慌てふためいたように、「あっ忘れ物をしたから、先に帰って」と言って離れていった。あからさま過ぎてかえって何のことかわからず、あっけにとられているうちの、あたしは公君と二人きりで、校門の前に取り残された。

なぜと思ってすぐにわかった。

お爺ちゃんだ、うちの孫が東京の大学に入るためにカナダから帰って来てね、なんてどこかで言ったんだと思う。田舎のことだから、その話が巡り巡って公君の耳に入ったと言うことだろう。

仕方なくあたしは「久しぶり」と言って手を振った。

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