第8話 茨城のお家
茨城のお家
茨城の家は府中よりよほど馴染みがある。
ここ最近は来ていなかったけれど、中学に入るまでは毎年、夏は一ヶ月ほどこの家で暮らした。
府中は その夏の間三、四日いるだけで、そのタイミングで、サダ子おばちゃんが旦那さんと帰って着て、あたしたちに付き合ってくれる。
だからそのくらいが限界といことだったらしい。
でもあたしは府中の方が好きだった。
三、四日なので毎日どこかに連れて行ってもらった。
茨城では旅行や遊びに連れていってもらう事もあったけれど、一ヶ月なので、家にいる時の方が圧倒的に多かった。
夏休みに田舎のおじいちゃんお婆ちゃんの家に居る、そんな感じだった。
大きい家だ。
「ただ今」とあたしは、まるで自分の家のように言って上がって行く、周りは知り合いばかりと言う事で閉じまりというものをしない。
居間にお婆ちゃんが座ってテレビを見ていた。
「ただいま、お婆ちゃん」
「ああ、莉奈ちゃん、お帰り」お婆ちゃんは、そのままの姿勢で頭だけあたしの方に向ける。
「大丈夫、どこか痛い」
「じっとしていれば痛くないから」
「それって、動かしたら痛いっていうこと」
「最近どうしてもね」
「莉奈。ここにいた方がいい、そうすればおばあちゃんの事も出来るし」
「それは莉奈ちゃんがいてくれた方が嬉しいけど。学校遠いいんだろ」
「うん、確かにね」そう、お婆ちゃんが言うことはもっともだ。
あたしがアパートを借りたりしているなら、家賃が発生してしまう。
でも府中の家は家賃はただ、おまけに交通費もほとんどかからない。
「お爺ちゃんは」
「ちょっと出ているけどすぐに戻るよ」
「そお、でもなんか懐かしいな」と言って床の間にあるものや、タンスの上の小物とかを触る。懐かしいのは確かだ、少なくとも府中の家よりも馴染みはある、府中の家は今だ探検をしている感じだ。ここは全て懐かしいいと言う感覚だ。
「おお、莉奈ちゃんお帰り」
「アッお爺ちゃんただいま」おじいちゃんの嬉しそうな声が聞こえる。その声だけでもここにきてよかったという思いと同時に、ここから学校には通った方がいいのかなという気にさせられる。
夕飯はお寿司をとってくれた。
最初はどこかに食べに行こうとしていたんだけれど、お婆ちゃんが出かけたがらないので、うちでご飯を食べることになった。
やはり日本のおすしは最高だ。
あたしは、日本に来た時からの話を二人にして行く、お爺ちゃんもお婆ちゃんもひさしぶりに孫が遊びに着て嬉しいのか、楽しく話しが弾んでいた。
「ねえ、お爺ちゃん」とあたしは缶ビール片手にテレビを見ているお爺ちゃんに話しかけた。
お婆ちゃんはもう布団に入っている。
「何だい」
「お婆ちゃん、大丈夫なの」
「大丈夫って」
「なんかすごく老け込んじゃって、なんかもう家の外にも出たくないって感じだったし、どこか悪いんじゃないの」あたしの声には自分でも驚くほど、心配だという想いが込められていた。
お爺ちゃんは少しため息混じりに息を吐くと持っていた缶ビールをとんと置いた。
「お爺ちゃんも、心配して病院に連れて行ったりしてはいるんだけれど、どこが悪言うわけじゃない。どうも加齢によるものらしいいんだ」
「そう、でも無理にでも連れ出した方が良いんじゃないかな」
「莉奈ちゃんもそう思うかい」
「うん」
「お爺ちゃんだってその方がいいとは思っているんだ、でもお婆ちゃんが断固として出たがらない。それを無理にと言うわけには行かないだろう」
「そうね。出来るだけ、顔を出すようにするけれど、府中に慣れたら、招待しようか。こんなところに住んでいますって」
「府中の家には行ったことあるよ」
「えっ、いつ」
「お葬式で」
「あっ。東京バーバのお葬式か。でも莉奈が住み始めてからはないでしょう。こんなところに住んでいますって、見に来てよって言えばお婆ちゃんだって来てくれないかな」
「そうだね、でも莉奈ちゃんが日本に戻って来て。お婆ちゃんもハリが出たのか、少し元気になったんだ」
「そうなの」
「ああ」
「それならいいけど」とは言ったけれど、全然元気には見えなかったからもっと元気がなかったということ。
茨城の朝は清々しいい。
府中だって、東京の中心から見れば郊外だけれど、茨城は郊外というより田舎だ、トロントの家も似たようなものだけど。トロントと言っているけれど、実はトロントではない。トロントの郊外の住宅地だ。
ここには毎年の夏には一ヶ月間いた、ここ最近は来ていなかったけど、懐かしい感じはそのままだ。
同じ祖母とはいえお婆ちゃんと、東京バーバとでは感じ方が全然違う、いや正確には、あたしは東京バーバのことを何も知らない。
小さい頃夏の数日一緒にいただけだし、スカイプで会話をしたといっても圧倒的に茨城のお爺ちゃんお婆ちゃんだ。
亡くなる数ヶ月前にサダコおばちゃんとその旦那さんで、東京バーバをトロントに連れてきた、その頃は分からなかったけれど、つまりは癌になった東京バーバを最後にあたしたちに会わせようとしたといことらしい。
それまでのあたしは小さかったから東京バーバの印象はないんだけれど、なんか怒ってばかりいるそんな印象だった。
でも最後にトロントに来た時はしきりに褒められたと言う覚えがある、病気になって、気弱になったからか、最後くらいはいいお婆ちゃんでいたかったのかは今となっては分からない。
小川に出た。懐かしさで胸が苦しい。
小学校の頃ここでひとりの男の子と出会った。
公君。
浜野公平君をあたしは公君と呼んでいた。今にしてみれは、あの頃のあたしは公君のことが好きだったのかもしれない。
公君は高校一年の時、トロントに遊びに来た。
今頃何をしているのかなと思って、その思いをあたしは打ち消した。
今更なんだという感じだ。
あたしは公君のことがきっと好きだった。
だから高一のとき、公君がトロントに来た時あたしはとても嬉しくて、パパに頼んで色々なところに連れて行ってもらった。
公君は二週間うちに泊まっていたから、観光地ばかりではなく、あたしの高校とかにも連れて行って友達に紹介したりした。
でも段々と公君は口数が少なくなり、沈むようになった。
何か気に障ることでもあったのかなと思ったけれど、それを確かめる前に、公君は日本に帰っていった。
それからまた公君とは連絡がなくなった。
そういえばなんだったんだろう。
気に触ることや、やなことがあったのなら、言ってくれればいいのにと思った。
もっともそうならなくても日本とトロントは遠いいから、付き合うとかそういうことは無かっただろうけど。
だから公君に会いたいとは思うけれど、変に蒸し返すのもどうかなという思いもある。
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