第6話 東京バーバ
東京バーバ
「東京バーバってどんな人だった」
「あれ、覚えていない」
「うん、小さかったし」
「そうか、まあもう亡くなっているから、別にいいか」
「おばちゃん、なんかもったいぶるね」
「一口で言うと。怖い、めんどくさい、思ったことをすぐに口に出す。だからイラってくることは日常茶飯事、毎日口喧嘩をしていた。でも親子だから、心底嫌いになることはない」
「ママは東京バーバのことどう思っていたのかな」
「それはよくは思わないでしょう、実の娘だって、怖いとか、めんどくさいとか、思うんだから。だからサトミさんはここに寄り付かないしね」
「そんなにめんどくさかったの」
「うん、だってあんたのパパなんて年がら年中、口ゲンカをしていたし、まあおばちゃんもだけど」
「何か気に入らないことでもあったの」
「そこは分からないところなんだよね。何か気に入らないことがあったのか、何かの妬み嫉みがあったのか、そう言うことを感じている自分が嫌だったのか。いずれにしろ今となっては分からない。気になるんなら。東京バーバの人物研究でもしたら」
「なにそれ」
「研究しておばちゃんにもレクチャーしてよ」
「だからなにそれ。実の娘でしょう」
「実の娘だから分からないこともあるのよ」
「そんなものですか」
「そんなものですよ。あっ家中家捜ししていいからね」
「ママには余計な物には触るなって言われた」
「あんたももう大人なんだから、そう言うことは自分で判断すればいいのよ、あっなんかお宝見つけても、独り占めしないでね」
「お宝って」
「金塊とか、宝島の地図とか」
「そういうものが見つかったら独り占めしちゃうかも」
「おい」
「大丈夫よ。ダイヤの指輪とか、現金だったら、ちゃんと協議に入ります」
「よろしい」
とそんなことを言って、サダコおばちゃんはおじちゃんのところに帰って行った。そしてあたしはまた一人暮らしになった。
この家はそれほど大きい家ということではないけれど、物が多すぎる。例えばダイニングキッチンでは天井スレスレの壁にロイヤルコペンハーゲンのイヤープレートが並んで、ダイニングを一周している。ずいぶん前にサダコおばちゃんに、
「何年の物からあるの」と聞いたことがある。サダコおばちゃんは、
「飾っていないお皿がまだあるから、何年からあるのかなんて分からない」とのこと。一体この家にはどれだけのものがあるんだろう。手始めにあたしは、二階の部屋から探検することにした。
二階の、サダコおばちゃんが「北側の部屋」と呼んでいる部屋に入ってみる。
そこは完全に衣装部屋のようになっていた。
窓と押入れを除く壁には箪笥が並んでいて、真ん中に自立型の衣装ハンガーが置いてあり、そこにも服がかかっている。プラスチックの衣裳ケースやサダコおばちゃんが若いころ使っていただろうロングブーツの型崩れ防止のぬいぐるみのようなやつとか、お菓子の空き缶に無造作に入れられた写真。さらにはサダコおばちゃんの成人式の写真まで見つかった。
写真は多いかも知れない。いや多いわけではない。飾ってある物が多いだけか、とにかくこの家は額の類が多い。
でも空き家の割にその物の多さがわからない。綺麗に整理されているからだということはわかる。相当に綺麗好きだったといことか、だから綺麗に片付けられているから、お宝探しは困難を極める。
だって引っ張り出してこないといけないからね。
ここでタイムオーバー。
あたしは部屋の中を元に戻した。
今日はここまで。
あたしはご飯を食べて、お風呂に入る、パジャマでテレビをつけた。
なにがいいと言って、日本の番組がリアルタイムで見ることができるのがいい。カナダだと録画か、週遅れで有線の専門チャンネルで見るだけ。
だからサダコおばちゃんの韓流ドラマなんて見るわけがない。
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