第4話 もう一人の友達
もう一人の友達
英語の授業で、あたしがカナダから来たということが早々とバレてしまった。
英語の先生が英語で話しかけて来る。
こういうことはよくあることなんだろうかと思いながら、受け答える。
上手な英語だと思った。
アナウンサーみたい。
まさにアメリカ英語だ。
「あなたの言葉独特ね」と先生は、アナウンサーのようなアメリカ英語で話しかけて来る。
「イギリスっぽいでしょう」あたしはわざといつも話していた感じの英語で、話した。
「ごめんなさい、悪い意味で言ってるんじゃないのよ、なんか生きた英語というか」
「ありがとうございます」と言っておいた。
英語と一口に言って、全然違う。
前に家族でアメリカ本土に旅行に行った時、全然言葉が通じなかったことがある。そんなものだ。
そんなことがあった後、山本さんとお昼を食べている時、一人の女の子が寄って来た。
彼女はいかにも、お嬢様という感じで、着飾って学校に来ている感じの子だった。
「斎藤さんて、帰国子女なんでしょ」違う、と思ったけど、説明がめんどくさいのでうなずいた。
「私もなんです。どちらへ」いや厳密にいえばどちらへではなく、どちらからなんだけど、と思いながら、
「カナダの、トロント」
「あら、そうなの、私はロサンゼルス、私、初めてよ、この大学で帰国子女に会うの。仲良くしてね」と言って握手を求めて来た。なんと名前が思い出せない、同じクラスというのは分かったんだけれど。
「藤井さんよね」山本ナイスフォローとあたしは心の中で叫んだ。
「藤井五月です。メイって呼んでね」と言って小首を傾げて、微笑んだ。いまどきニックネームを要求して来るか。
その反応にあたしは引きつった顔で、微笑み返した。
「大変、次の英語で先生のお手伝いすることになっているの。ごめんなさいね、また今度ゆっくりお話ししましょう。カナダの話も聞きたいし」
「ええ、私もロスの話を聞きたい」とリップサービスをした。そして藤井五月は小走りであたしたちの前から消えた。
「海外にいるとあんなノリになるの」と山本さんが言う
「まさか、あっでもナイスフォローだったよ」
「だって莉奈、絶対あの子の名前忘れていたでしょ」山本さんは早々とあたしのことを莉奈と呼んだ。
カナダではそういうものなので違和感はなかったけれど、ママからは馴れ馴れしいと思われるからちゃんと「さん」をつけないとだめよと言われてきた。だからあたしは今だ「山本さん」と呼んだ。
きっと彼女がハンサムガールだからだろうと思う。
「忘れると言うより、知らなかった」
「だからそんなことないから、はじめにみんなで自己紹介したでしょう」
「そうだっけ」
「これだから」と呆れたように言う。
たしかにあたしは上の空だった。クラスで自己紹介をしたのは思い出した。でも記憶に何も残ってない。
「ねえ、あたしたちって藤井五月さんと友達になったってことなのかな」
「向こうはそう思っているんじゃないの」と山本さんはいつもの冷静な山本さんに戻っていた。
「じゃあメイって呼ばないとね」とあたしが言うと山本さんが楽しそうに笑った。
山本さんと別れて一人で家に帰る。桜は花吹雪へと変わっていた、この間咲いたばかりなのに、このわずかに間しか咲けない桜の切なさに日本人は心を動かされ、桜を愛でる。桜が年がら年中咲いていたら、これほど桜は尊ばれないだろうと思った。
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