第3話 新しい学校と新しい友達
新しい学校と新い友達
また自分のホームタウンはどこなんだという思いが湧いた。
学校では日本人ばかりだ。
あたしだって、見た目は完全に日本人だし、ここにいても何の違和感もないはずなのに、あたし自身が違和感を感じている。だって、日本人ばかり。中学、高校とあたしの周りは外国人ばかりだった。小さい頃、補習校に通っていた頃は日本人の友達もいたけれど、その後は外国人ばかりだ、そもそも現地校はウイークデーに通うから、確実に長いのは現地校だ。一応全員カナダ人なんだけど、みんなフランス系だアフリカ系だインド系だと入り乱れ、まあそんなことを言えばあたしだって、日系カナダ人ということになる。
でもしばらくして一つ気づいたことがある。ここには人種のヒエラルキーが存在しない。世界はどこだって階層社会だ。それがお金だったり、職業だったり、当然カナダだってあるから。
あたしの住んでいたところは、インド系の人が多かった。限られたテリトリーの中では、居心地はいい、というか、接触も少ないのでその世界が全てと錯覚してしまう。地域に守られているということだ。だからあたしはある程度大きくなるまで、人種の差別の存在さえ知らなかった。大きくなってもリアルに自分が経験するということはあまりなく、誰かから聞いたり、噂で聞く程度だった。
でも確実に存在する。
学校は府中の家から30分。
途中なんてことのない路地や庭先に桜が咲いている。
この時期に日本に来ることはなかったので、一番驚いたのはこれだった。カナダでも桜はあるけれど、こんなに、あちらこちらには咲いていない。大抵は大きな公園とかで、友好何々市から送られたとかそう言う桜なので、普通に歩いているくらいでこれほど桜は見ない。そして学校の中にも結構咲いている。
新入生はオリエンテーションの教室にいるとまずは隣の人と会話をする。
「どちらから」
「あっ、東京なんです」とか
「長野」とか
そしてあたしも話しかけられる。
「どちらから」
「あっトロントです」
「トロント?」と頭のう上に❓マークが見えた、
「あっカナダなんです」
「帰国子女ですか」
「ええ、まあ」帰国ではない。どちらかといえば留学に近い、それに一つ嘘をついた。実はトロントではない、その郊外の街だ。埼玉に住んでいるのに、旅行先でどちらからと、聞かれて東京からと言ってしまうのに似ている。
「山本美代子です」
「莉奈、斎藤莉奈です」あたしはナカノと言いかけて斎藤と言い直した。中野はママの苗字だ。カナダでは夫婦別姓が認められているので、なぜかカナダではあたしはリナナカノだった。
日本ではパパの苗字を名乗ることになった。ママは不満だったようだけど。
「よろしく」と言って山本さんは手を出した。握手という意味だったんだろう。
あたしも手を出し握手をするような形になった。
「莉奈ちゃんは英語とか喋れるの」
「うん喋れるよ、というか日本語より話すことにストレスはないかな」
「すごいね」
「いや別に、カナダではみんな英語だから」
「それはそうか」と山本さんは笑った。とりあえず、山本さんは日本で出来たはじめての友達になった。
山本さんはひどくクールな娘だった。
言動がサッパリしていて小気味がいい。
人によっては冷たく感じて、とっつきにくいかもしれないけれど、あたしはとても付き合いやすかった。
だからあたしは影で山本さんのことをハンサムガールと呼んだ。
お爺ちゃん、お婆ちゃん
「あっ、おじいちゃん、莉奈」あたしはお爺ちゃんに電話をした
「ああ、莉奈ちゃんかい。ごめんね入学式に行かれなくて」
「全然大丈夫だよ。というか入学式に祖父母が来る人はほとんどいないと思うけど」
「だって日本ではお爺ちゃんが、お父さんだよ」
「そうか、って違うよ」とあたしは、ノリとツッコミをして笑った。
「そうか違うか」と言ってお爺ちゃんも嬉しそうに笑った。
「あっ、おばあちゃんの様子はどお」
「すっかり、出不精になってね」
「そうなの」
「ああ、あっ替わるかい」
「うん」後ろの方で莉奈ちゃんだぞ、という声が聞こえて、茨城のお婆ちゃんに替わった。
「莉奈ちゃんかい」
「うん、おばあちゃんどうなの」
「あんまり良くないね、なんかね、すっかり外に出るのが億劫で、本当はお爺ちゃんと、府中に遊びに行きたいんだけどね、府中のお母さんにもお線香をあげたいし」
「無理しないでね、休みの時は莉奈が行くから」
「莉奈ちゃんは優しいね」
「そんなことないよ」と言ってあたしは意を決しておばあちゃんに言ってみようという気になった。
「ねえおばあちゃん」
「何」
「莉奈はずっと日本にいた方がいい」
「なあに、来たばかりで」お婆ちゃんがあたしが何を意として言っているのか図りかねているのが分かる。仕方なくあたしは本心を言ってみる。
「あたしは、日本にいた方がいいのか、カナダにいた方がいいのか」
「おばあちゃんは、莉奈ちゃんが日本にいてくれた方が嬉しいよ、パパやママもそう思っていると思うよ」
「うん、それは感じる」あたしは聞くまでもないと思った。でも不思議と答えが分かっていても聞きたくなることはある。そしてあたり触りのないことを話して、もう一度お爺ちゃんに替わってもらって、電話を切った。
パパとママは自分でカナダに移住したくせに、どこかで日本に帰りたがっているふしがある。たしかに移住した時より物価が上がったり、住みにくくはなっているらしい。でもあたしはパパとママがカナダに移住してから生まれているから、やはりカナダが自分の国という感じがある。友達と街へ遊びに行くといえば、当然トロントだし、大好きなお店もトロント、行きつけの本屋さんや図書館、市民センターや習い事をした公民館も、初恋の男の子と出会ったプールもみんなトロントとうちの間に点在している、風の噂で誰々は、トロントのここで働いているだの、オタワの大学に行っただのと聞くけどまあそんなに遠くはない。カナダ国内。たしかにインド系だ、何系だの友達の中には、自分の親の国に帰った子もいるけど、というかあたしだって危ないかもしれない。パパとママ、いずれ日本に帰るつもりで、布石の一つとして、あたしを日本の大学に入れたのかもしれない、
いやまさかね。
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