諭す

「もう、覚悟決め」


そう僕に告げたのは、川本さんだった。


「社長からGOサインも出た。あとは行くだけや」


「そんな簡単な話じゃ」


「…じゃあ、今から真面目な話するわ。今回は本当におふざけなしや。よく聞き。あんな、人が人を好きになるって素晴らしいことなんよ。奇跡みたいなもんや。好きやと思える、大切にしたいと思える相手って、そうそう出会えるもんやないで。自分が軽い気持ちなら、ここまで真剣に話しとらん。真剣な気持ちが伝わっとるから、こっちも真剣になるんよ。その気持ちが深ければ深いほど、奇跡なんよ。だから、伝えるべきやと、俺は思う。それで相手が自分のことを想ってくれてたら、奇跡の上乗せや。ラッキーくらいに思っておけばええんよ。まず、好きになれただけで奇跡なんやから、その奇跡をないことにしちゃあかんと思うで」


川本さんの言葉が、スッと心に入ってきた。僕が雨里さんのことを好きになったことは、この地球上で奇跡のようなことで、今はそれだけで十分だと思えた。僕の勝手な感情で距離を置こうとすることの方が間違っていると思った。雨里さんは、僕が好きになった人は、そんな風に考える人じゃない。


「川本さん。僕、覚悟決めました」


「ん。頑張り」


「奇跡の上乗せはできないかもしれないけど、この奇跡を認めます。なかったことになんてしない」


「それでこそマスターや」

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