託す

「雨里さんのこと…尊敬しているんです!」


「尊敬…ですか」


最初は少し拍子抜けした様子だった滝口社長だが、つい早口になってしまった僕の熱弁を真剣な表情で聞いてくれていた。


「はい。お店に通ってくれている雨里さんのことを見てきて、雨里さんのことをたくさん知って。お芝居に対する気持ちとか、周りの人を笑顔にする魅力とか。上手くは言えないですけど、人として本当に尊敬していて。だから雨里さんのことを、雨里さんの人生を、本気で応援しているんです」


「雨里をそんな風に応援してくださっているのは、社長として、単純にものすごく嬉しいです」


「僕は喫茶店の店長です。お客様が安らげる空間と、美味しいドリンクとお食事を提供することが、僕の仕事なんです。僕は、雨里さんが僕のお店を大切に思ってくれているなら、その場所を奪いたくないと思っています」


「…厳しい言い方をすれば、あの子は世間一般から見たら売れていないのかもしれない。だけど、応援してくださる方がいて、なにより雨里自身が楽しくお芝居が出来ている。それで十分だと思うんです。それに気付かせてくれたのは、他でもない、高野さんです」


「僕、ですか」


「はい。私は、テレビに出なきゃって、どこから持ち出してきたのかもわからないゴールを目指して、タレント達を育ててきた。それを当然、みんなが望んでいると思っていたから。だけど違ったんですよ。一人一人に目指しているゴールはあって、やりたいことはあって。それに気付くのに、ずいぶんと時間がかかってしまいました」


支離滅裂な僕の話も、滝口社長にはちゃんと伝わった様子だった。


「雨里は確かに高野さんのお店を大切に思っていますし、その存在に何度も救われてきました。それは、雨里を見ていればわかります」


「それならやっぱり…」


「高野さん。お店は、高野さんの存在があって、初めて完成するんですよね。それなら、変な一般常識みたいなものに囚われなくていいんじゃないですか。高野さんあってのお店なんですから、堅く考えず、好きにすればいいんですよ」


「好きに…」


「そうです。店長がお客さんのことを好きになって、何が悪いんですか?」


「えっ」


「雨里には高野さんのいる、高野さんのお店が必要なんですよ。他の何にも変えられない、高野さんが必要なんです。雨里をお願いしますね」


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