揺蕩う
「高野さん、お待たせしました」
「お忙しいところお呼び立てして申し訳ありません………滝口社長」
川本さんの愛あるお説教を受けた僕は今、滝口社長と駅前のバーに向かっている。少々流れに身を任せすぎたと思ってはいるが、後悔はしていない。
「それにしても驚きましたよ。まさか高野さんからお誘いいただけるとは」
「いやぁ、すみません…突然…」
流れというよりも、自分の暴走を止められなかっただけな気もしている。悩みすぎてて訳が分からなくなった僕は、もういっそのこと本人に聞くのが早いと思い至った。しかし、その本人に該当するのが雨里さんだという事実に耐えられず、雨里さんに一番近い存在である滝口社長にダメ元で連絡をしたのだ。
「事務所に直接お電話なんて、本当に非常識だとは思ったのですが、どうしてもお話したいことがありまして…」
「そんなに気を遣わないでください、大丈夫ですから。じゃあ、続きは中で話しましょうか」
僕が申し訳無さから下を向いて歩いているうちに、どうやら滝口社長行きつけのバーに到着したらしい。【お忍び】や【隠れ家】という言葉がよく似合いそうなそこに慣れた様子で入っていく滝口社長の後を、慌てて追いかける。
「それで。まぁ、雨里のこと、しかないですよね」
滝口社長が頼んでくれたオススメの料理に舌鼓を打ち、程よく酔いも回ってきた頃。それまで当たり障りのない話だけで静かに盛り上がっていた空間に、少しの緊張が戻った気がした。
「はい。すみません。正直な話、勢いだけで社長をお呼び立てしまったもので、自分でも何からどう話したら良いのか…お忙しいお時間を頂いていることは十分承知しているのですが…」
「そんなに堅くならないでくださいよ。私も高野さんと飲みたくてここに来てるだけですから」
「滝口社長…ありがとうございます。ご相談、してもよろしいでしょうか」
「もちろん。なんでも聞いてください。私で力になれることなら、なんだって答えますから」
「あの…僕…雨里さんのこと…」
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