雑誌
「なんや、えらい元気なお嬢さんやなぁ」
マシンガントークの川本さんでさえ驚いている。僕も驚いた。お店に来てから、きっと1番大きな声を聞いた。もしかして、僕はまた踏み込みすぎたのではないか。またやってしまったのか。血の気が引いていくのを感じた。
…それから、川本さんに珈琲をお出しして、いつも通りに業務をこなし、今日も一日が終わった。
お店の掃除中、僕は競馬雑誌を手に取る。川本さんのものだ。
川本さんは、いつも競馬の雑誌を置いて帰る。
「どうせ来るから置いといてや!寄付や!」と言う川本さんのお言葉に甘えて、お客さまが読む雑誌コーナーにそれは並べられる。雑誌の種類が増えるため、有難い。
いつもは見たりしないけど、なんだか今日は見たくなった。疲れているんだろうな。可愛い馬たちに癒されたいのかも。ペラペラとページをめくる…その手は24ページ目で止まった。
「"ウマジョのススメ"…」
最近は"ウマジョ"と呼ばれる、競馬が好きな女性が多いらしい。競馬に疎い僕でさえ知っている。
そのページには、女性ならではの視点で、競馬を楽しむポイントが書かれていた。
誰でも行ったことのない場所に行くのは緊張する。暗黙のルールとか、そこでの常識とか、流れとか。その場所での空気感は初めてでは分からないし、恐怖に感じることもあるだろう。
そういう人に優しい、教科書のような特集だ。
…でも、僕はそんな内容どうでもよかった。文章と一緒に載っていた、写真に目を奪われたから。
「これって…」
雑誌の中、ポニーテールで笑顔を浮かべていたのは、間違いなく、茗花さんだった。
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