珈琲
「はぁぁぁ負けた!負けてもうたわ!」
盛大なため息とともにお店にやって来たのは、常連さんのひとり、川本さん。
大好きな競馬でまた負けてしまったらしい。
「あ、珈琲で!もちろんブレンドや!くっそぉ!」
川本さんは、競馬で負けると"ブレンド珈琲"。勝つと"ハワイコナ"を頼む。
確か、好きな馬の名前が、………そう、"ハワイアンコーナー"というらしい。
初めてうちのお店に来てくれた時、"ハワイコナ"を見つけてから、他よりお高いこの珈琲を勝利のご褒美にしている。
願掛けとか、そういう部類の効果は狙わないらしい。聞いてみると「負けたらもったいないやん!」とのこと。なんとも川本さんらしい理由だ。
「あ、あの、高野さん…」
川本さんの珈琲を淹れている時、話しかけてきたのは、こちらも常連さんのひとり、茗花さん。カウンター席に座っていた彼女は、何故か小声で、何故か隠れるようにしていた。
「どうかされましたか?」
「あー、えっと、あの、そちらの窓際の席に座っていらっしゃる方…は…」
「えーっと、常連さんですが、もしかしてお知り合い…ですか?」
「いや、違くて、その、競馬、お好きなんでしょうか」
「そう、ですね。…あ!もしかして茗花さんも競馬お好きなんですか!川本さん、あ、あの方、川本さんって方なんですけど、きっと仲良くなれます!もしだったら僕が話を…」
「あー、…あ!高野さん!ごめんなさい!こ、珈琲!私のせいで冷たくなっちゃいますよね!すみません!急用思い出したので帰ります!お釣り、大丈夫です!」
突然、今度は大声で早口で。逃げるようにそう言い放ち、茗花さんはお店を出て行った。
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