第5話 ふるさと

「それ、大体あってますよ」

「コミックで読んだ馬頭観音さまの事?」

「ええ。まあ、そんな理由でこの界隈の住人はみんな猫獣人なのです」


 完璧に心を読まれている。猫獣人もだけど不思議な話だ。なかなか納得できそうにないのだけど、納得するしかない。


「それでね、智昭君は未練を残して亡くなってしまった。だからそこをスッキリさせてからあの世に旅立ちたいという希望をね。叶えたい訳です」

「そっか。そうなんだ」


 私はそう言って智君を見つめる。

 彼は恥ずかしそうに懐から手紙を取り出した。それを私に手渡す。


「本当はこんな事はしちゃいけないんだけど」


 彼の毛並みはサバトラなんだけど、何故だか真っ赤になっているのが分かった。見た目の毛は銀色なんだけど。そして智君は立ち上がって向こうに歩いていく。庭の片隅にはグランドピアノが置いてあって、智君はそのそばに立つ。ピアノを弾くのはあの胸の大きな白猫獣人のお姉さんだった。


 ピアノ伴奏が始まり、彼が歌い始めた。曲はあの「ふるさと」だった。


 うさぎ追いしかの山

 小鮒こぶな釣りしかの川

 夢は今もめぐりて

 忘れがたき故郷ふるさと


 相変わらず美しい声。透き通るボーイソプラノは昔のままだった。

 歌っている彼の姿がだんだんと人の姿へと変わっていく。当時のまま、二年前のあの頃のままの姿になった。


 如何いかます父母

 つつがなしや友がき

 雨に風につけても

 思いずる故郷ふるさと

 

 間奏の間に、彼の姿が成長し始めた。背が伸びて体が二回りも大きくなった。そして歌声も太めのバリトンに、声変わりした大人の声になっていた。


 こころざしをはたして

 いつの日にか帰らん

 山は青き故郷ふるさと

 水は清き故郷ふるさと


 いつの間にか周囲には人だかり……と言ってもみんな猫獣人なんだけど……ができ、演奏が終わったと当時に拍手喝采が沸き起こった。私はというと、両目に涙が溢れて止まらなかったのだけど、思いっきり両手を叩いていた。

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