第4話 声楽と童謡と死後の世界

 音楽は「10人のインディアン」から「ふるさと」にかわった。西洋のマザーグースから日本の童謡になったわけだ。私はこの曲には思い入れがある。


 私と智君は音楽部に所属していた。名称は音楽部だったのだけど、実際やっていたのは混声合唱だ。秋に開催される文化祭には何曲も披露するんだけど、優秀な生徒数名は独唱で参加する。智昭はまだ一年生なのにその独唱メンバーに選ばれた。彼が選んだ曲がこの「ふるさと」だった。

 声変わり前だった智昭のボーイソプラノは、この曲と非常に相性が良かった。こんな美しい声には到底かなわないと、当時の私は率直に感じていた。


 でも、文化祭の直前に彼は交通事故で亡くなった。「ふるさと」はみんなで合唱したんだけど、殆どの子が途中で泣いちゃって歌えなくなって、最後は先生のピアノ伴奏だけになった。


「明子ちゃん。ごめん」

「謝ることないよ。智君」

「でも、明子ちゃん今にも泣きそうだから」

「ごめん。ちょっとびっくりしただけだから」


 これは強がりだ。本当は胸が張り裂けそうで、今にも泣きだしたかった。でも、疑問だらけで泣くどころじゃなった。亡くなったはずの智君が何でここにいるの? 何で猫獣人になっているの? わからないことだらけだ。


「明子さん。混乱させて申し訳ない。私の方から説明しましょう」


 私は藤吉郎の申し出に頷いた。


「先ほども説明しましたが、ここは瀬在意識の世界であり、間の世界なのです」

「はい」

「死後の世界に赴けない人が一時的に滞在することができる場所でもあります」


 藤吉郎の説明は続く。

 天国と地獄は実際にあって、通常は死後しばらくするとそのどちらかに赴く事になる。善人は天国へ行き、悪人は地獄に落ちる。でも、どちらにも行けない人もいる。それは、この世に未練を残している人、強い執着を持っている人なのだそうだ。


「幽霊とか地縛霊とか、そんな風に言われる人たちですね」


 そういう話は聞いたことがある。


「え? じゃあ、智君は幽霊なの? 藤吉郎さんは地縛霊?」

「違います」


 私の疑問は即否定された。


「そういう幽霊とか地縛霊とかにならない為に、ここで保護しているのです。長く人間界に居座ると、妖怪化しますからね」

「え? 妖怪って、元々は人間だったの?」

「そうですよ。長い年月を重ねて動物霊と一体化したり、自然の霊気と一体化したりするんです。人の怨念を取り込んだり、形態はさまざまですが」

「じゃあ、藤吉郎さん達も妖怪なんですか?」

「そうですね。神仏や悪魔とは別の霊的存在という意味では同類なのですが、私たちは一応、神仏のお手伝いをする立場なのです」

「じゃあ天使って事?」

「そういう言い方もできますね」


 藤吉郎さんは笑顔で頷いている。

 うーん。猫獣人と天使って、似ても似つかない気がするのだけど。でも、仏教では馬の頭の観音様もいて畜生道に堕ちた人を救済してるって話も聞いたことがある……って言うか、これコミックで得た知識だから合ってるのかどうか自信がなかった。

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