第3話 洋館のカフェ
音楽は「ロンドン橋落ちた」にかわった。これはアレだ。イギリスでマザーグースって言われてる童謡。へへへ。こないだ音楽の授業で習ったばかりだからちゃんと覚えてた。
「はーいどうぞ」
白猫のお姉さんがケーキと紅茶を持ってきてくれた。食事もできるって聞いてたけど、やっぱり甘い物が欲しかった。
大きないちごがのっかっているショートケーキ。生クリームもたっぷりだ。しかし、ふと気づいた。私、財布を持ってきていない。
「お金は不要ですよ」
察しの良い藤吉郎が質問する前に答えてくれた。
「さあ食べて。美味しかったって感謝してあげたらOKです」
「本当に?」
「ええ。ここではお金は不要。感謝の気持ちが大事なんですよ」
三毛の藤吉郎が頷いている。奥のカウンターの中で、黒猫獣人のマスターも笑顔で頷いていた。
私は遠慮なく目の前のショートケーキを平らげる事にした。藤吉郎はコーヒーの香りを楽しみながらゆっくり飲んでいた。猫だから猫舌なんじゃないかって少し心配したんだけど、問題ないみたいだった。
新鮮な甘酸っぱいイチゴと、甘くてふんわりした生クリームの絶妙なマッチングが素晴らしい。紅茶の方は……まあ、よくわかんないんだけどイイ感じの香りが漂ってる。私は容赦なくミルクと砂糖を入れて飲む。なんだか高級品っぽい味がした。詳しい人なら葉っぱの種類とかもわかるのだろうけど、私にはさっぱりだ。
「実はですね」
三毛の藤吉郎が話を切り出してきた。
「私の仕事は先ほどお話した通り、このアドリアーナに迷い込んで来た人を見つけて連れ帰る事です」
「はい」
「でも、今夜は違います。とある用件があって、明子さんに来ていただいたのです」
用件って何だろう。心当たりはなかった。
「何ですか? その用件って」
藤吉郎がパチンと指を鳴らした。すると、店の奥から一人の……いや一匹の……猫獣人が現れた。ちょっと小柄でサバトラ模様、シルバー系の縞模様が美しい猫獣人がこっちに向かって歩いてきた。彼はキチンと礼をして、椅子に腰かけた。
「僕の名前は智昭です。
その名前を聞いた時、私の心は激しく揺れ動いた。顔面も蒼白になっていたに違いない。
中学一年生の頃、同じクラスにいた男の子だった。ゴールデンウイーク明けの、今と同じ五月中旬に私の方から告白した。そして彼はOKしてくれた。その後、私と彼は付き合い始めたんだ。でも、彼は半年後に事故で亡くなった。それは思い出したくもない記憶だけど、心の奥にしっかりと刻み込まれていた。
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