第17話『俺が手伝ってやる』


女王を先頭にアパートの階段を降りる間、女王は後ろの俺達に向けて静かに言葉を発した。

「……今から三日前。この国で一つの事件が起きました。それはシルフという、わが国で捕らえていた非常に危険な力を持ち、人に仇名す凶悪な召喚獣が逃げ出したという事です」

「…………召喚獣、シルフ」

確かエニスの話では召喚獣は人を襲う者もいれば、反対に無害な味方もいる存在だという。

「そして、その日シルフはとある廃屋へ逃げ込み、一人の人間の体を奪ったのです。それが……ショクさん、あなたの妹のこころさんなんです」

その言葉を聞いた途端、俺は足元の階段を踏み外しそうになった。

「な……何だって……!? 体を奪った……!?」

「その日、廃屋へ向かわせた衛兵の報告ではショクさんが現れた部屋の天井には、明らかに自然に出来たものではない巨大な穴が空いていたといいます。こころさんの肉体を得たシルフがそこから破り出た事には疑いの余地は無いでしょう」

「――」

俺は自分が三日前、この世界で目を覚ましたときを思い出した。

突如、幾つもの木が弾ける激しい音。

それに目を覚まし、起きた俺の頭上には巨大な穴が空いていた。

――それは、シルフに体を奪われたこころが飛んでいった音だったのか。

(――――嘘、だ……)

俺は全身が恐怖に囚われていくのを感じた

「で、でもッこころの体を奪ったって女王様は言いますけど、女王様はその光景を見てないんでしょう!!」

俺は女王の言葉が嘘であると信じたかった。

俺の妹が訳もわからないこんな世界で、また訳のわからないものに体を奪われているなんて――、俺は考えたくも無かった。

頭のどこかでは女王の言葉を正しいと思いながらも、俺の自身は今、女王の言葉を否定したくてしょうがなかったのだ。

しかし、女王は地面に目を伏せ沈鬱な表情で首を横に振った。

「私も……私も今までそう思いたかったです。――しかし……」

女王がアパートの両扉の前に立ち、そしてそのドアを開けた。

ドアを開けたその先の光景――それは俺がうなされ、起きたときに窓から見た地獄のような空とは比べ物にならないほど信じられないものがあった。

俺達のはるか数キロという場所に聳え立つ塔と思わせるほどの――巨大な竜巻があったのだ。

その巨大な竜巻は停滞し、この国の正面にじっと待機するようにあった。

冗談のようなその光景に、カナデ、ティミト、レニティアの三人が驚きの声を漏らす。

「う、うそでしょう……? あんな竜巻……どうやって……!!」

「あっ、あんなおっきな竜巻……どんな強力な召喚魔法だって絶対出せないよおっ……!」

「信じられません……竜巻の中、感じた事が無いほどの膨大な力が渦巻いていますわ……!」

しかし俺は竜巻全体ではなく、その一部――竜巻の中心に浮かぶようにして、風の影響を受けずにいる豆粒程の人影があるのを見つけていた。

「あ、あれは……」

黒くなびくものがちらと見える。俺の中で恐ろしい想像が膨らんでゆく。そんなありえない。

「……ショクさん。私の魔法であの竜巻の中の映像を出します」

女王は何も持っていない両手を体の前に出し、丁度バスケットボールを持つような形を作る――すると、そのなにも持っていない手と手の間の空間に突然、光の球体が表れてその中にある映像が映し出される。そこには腰まである長い黒髪のポニーテールに真っ赤なリボン、小学生のような体をした――俺の見覚えのある人物。

「こ……こころっ…………!?」

ラウンズヒルに来てから行方が解らなかった、俺の妹――愛忠こころの姿があった。

「そしてもうひとつ、ショクさん。……これを見てください」

続けて女王はそう言って、女王は広げた両手の指を幾度か動かす。

すると、その映像がこころの周囲を移動し、やがてそれはこころの左腕をアップにして映す。

そこには一際、青く輝くものがあった。

青い輝きをよく見れば、それはある『文字』で同時にそれは俺がよく知っているものだった。

「これは『魔法四属性』の刻印!? な……なんでこころの左腕に俺の右腕と同じものが……」

「それは、ショクさんと同じ異世界の魔法使いである事を現す刻印です。言う必要も無いと思い言わなかったのですが本来、刻印は片腕だけではなく、私のように両方の腕にあるものなのです」

見れば女王の薄い法衣の袖――その法衣を纏った両腕から白い光が表れていた。

「ですが、ショクさんとこころさん、あなた達二人はこの世界に来たとき刻印をそれぞれ片腕に持って現れたのです。偶然にもシルフはその刻印の力を持って現れたこころさんの体を奪い、国の外へ逃げてしまいました。そしてシルフは自身の持つ強大な魔力で刻印の風の魔法を使用し、その猛威を振るったのです」

「猛威……?」

「私はこの数日、国外へ逃がしてしまったシルフを遠くへ逃げないうちに何としても捕獲する為に女士団(ラウンズ)の召喚女士(ミストレス)を総動員し捜索に向かわせました。ですが……その中に戻ってきたものは一人もいなかったのです」

「そ、それって……」

「この国の『黒百合』を除く六十四人の召喚女士(ミストレス)が、恐らくシルフにやられてしまったのです。誰一人、報告すら来ないと言うのは、つまりそういう事です」

「そ……そん、な」

女王の前で俺は言葉を失った。

シルフ――俺達の遥か前にあるあの巨大な竜巻はこの国の国防を担う召喚女士(ミストレス)全てよりも強いと言うのか。

女王の言葉はこれ以上なく明確に、その竜巻の中にいるシルフという存在がいかに強力かを俺に示していた。

「私すら予想していませんでした。シルフは意識体でのみ行動でき、雌性の生物にとりつきシルフ本来の力を発揮するのですが……」

「雌性の生物……? ――って事はこころは女だから……た、たったそれだけの理由でシルフに体を奪われたって言うんですか!?」

「……ええ。私もあまりに迂闊でした。ショクさんの腕の刻印がなぜ片方だけだったのか、その理由をもっと早く考えていれば、肉体を完全に乗っ取りきる前にシルフを叩けたのに……!」

女王の悔しさをにじませる呟かれる肯定が俺の心を大きく揺さぶった。

「く……クソッ!!」

俺は気付けば膝をついて地面に拳を叩きつけていた。

妹(こころ)が体を奪われたときも、そして今でさえ、妹に対して何も出来ずにいる。

俺は自分の不甲斐無さに激しく嫌悪した。

シルフに対してのどうしようもない怒りや、俺自身の後悔が頭の中で駆け巡り思考を乱す。

――だから、俺はすぐ後ろで起こっていた『その騒動』に気付くのが遅れてしまったのだ。

俺の耳に突如、背後から悲痛な叫び声が飛び込んでくる。

「――!?」

俺はその背後からの叫び声が誰のものか解らず、咄嗟に後ろを振り返っていた。

そこには絶叫し、全身から白い炎を溢れ出させているエニスがいた。

「あああああああ――――ッ!!」

「どうしたの!? エニス!!」

「お、おい!? エニス!!?」

「エニス……あなた、自分の体に召喚魔法を――やめなさいッ! エニス!!」

「私の……私のせいなの……!」

「エニスの……?」

「……三日前、私がシルフを逃がしたから……ッ! そ、そのせいでこの国の召喚女士(サモンミストレス)の皆が……それにショクの妹が……ッ!! 全部……全部、私のせいだ……ッ!!」

「リーダー! とにかく今は冷静になって下さい!!」

レニティアがエニスの召喚魔法、『火蜥蜴(サラマンダー)』の燃え上がる白い火を放つエニスにこわごわ駆け寄っては叫ぶ。

するとその後ろでいたティミトとカナデが目配せして同じように駆け寄り、叫ぶ。

「そっ! そうだよ!! それに、えにえにだけのせいじゃないんだよ!!」

「エニス!! お願い! 落ち着いて!!」

「――いや……いや! いやぁ!! 私はもうッ、い、生きている資格なんか無いの!! お願い!! 死なせて!! 死なせてよぉッ!!」

「……止むをえません。ショクさん私が魔法でエニスを気絶させ――」

「――――」

……もう、俺は女王の言葉も聞くつもりは無かった。

俺は気付けば立ち上がり、手を空へ向けて掲げ、そして右腕の魔法を使った。

その瞬間。赤黒い空から突如、幾筋の雷が煌き、それらは俺達の周囲の地面へ落ち、何れも周囲の声や竜巻の凄まじい風の音すらかき消すほどの轟音を響かせた。

俺の魔力の無い右手から放たれた雷の轟音は、その周囲の人間の動きを止めるには充分すぎるほどの音量だった。――そしてエニスも同じく、体から炎を発するのをやめていた。

俺は音が静まり、一瞬の静寂が訪れた瞬間――放心し、俺を虚ろな目で見つめてくるエニスへずかずかと駆け寄り――

そのエニスの無防備な頬へ、思い切り俺の右拳を叩きつけた。

「あ――――」

掠れた声。拳を受けたエニスはそのままドシャアッ!と地面に体を投げ出してしまう。

――俺は何の躊躇もなく、そんな目の前でくずおれたエニスへ口を開く。

「エニス……お前は自分が死んで……それでどうするつもりなんだよ?」

「シ……ショク……?」

「お前は昨日、温泉の後で俺に言ったよな? 自分は『黒百合』の強いリーダーになるって。リーダーのお前が死ねば、カナデや皆はどうなるんだ?」

「……わ、私がシルフを逃がしたせいで……ショクの妹や他の召喚女士(ミストレス)皆を苦しめて……私がここに生きていても――」

「だからどうしたッ!!?」

「……ッ」

「皆に迷惑をかけたから自分が死んで終わらせる!!? お前は自分自身の負うべき責任を俺達全員へ丸投げして逃げるつもりなのか!!? 自分ひとりで大丈夫だってお前言っただろうが!!」

「でも……わ、私がシルフを逃がしたせいで、ショクのい、妹が……ッ! 私のせいで……」

「俺が手伝ってやる」

「……え」

「俺は別にこころの事でエニスを責めたりなんかしない。俺がエニスをサポートしてやる」

「ど、どうして……!? どうして私にそんな言葉をかけてくれるの!!? 私にはショクが解らない……!! 解らないよ!!」

「……」

「どうしてなの!!? どうしてショクはこんな私に声をかけてくれるの!!? 私自身ですら嫌になるような……こんな私に……ッ!! どうしてショクは……――え……?」

エニスが俺の顔を見て、不意に息を呑む。

「し……ショク……口から……血……血が……」

蒼白になったエニスは俺の口元を見つめている。

血の味――。それは魔法を使ったときから俺自身感じていてそれは、俺の口の中で嫌なほど舌に絡みついていた。

その理由は俺が召喚女士(ミストレス)や魔法使いの胸から魔力を補給せず、解っていながら自分の生命力である血液を犠牲にして魔法を使ったせいだ。俺が魔力無しで魔法を使おうとすれば昨日のレニティアの部屋での事ように血を吐き出してしまう。

しかし、エニスの前で俺はすぐにでも吐き出したい血の塊を無理やり飲み込み、エニスに見られてしまった口の端から垂れだしていた血を腕で拭う。

俺の魔法の音でエニスは驚き、自分を傷つけるのを止めてくれた。俺にはそれで充分だった。

――俺は今ここで血を吐いてエニスを不安にさせたくない。

「……なぁエニス。お前は自分のおっぱいを鏡で見たことがあるか?」

俺の言葉にエニスは目を僅かに見開いた。

「……え?」

俺はそんなエニスに続けて言ってやった。

「――なら約束だ。あのシルフとの戦いが終わった後に皆でまた温泉に行くぞ。あそこの脱衣所には姿見があるからな。そうだ、今度はこころも連れて行ってやろう」

「ショク……何を言っているの?」

「俺達と温泉に行くまで、絶対に死ぬなって事だ。今ならもれなく、この異世界の魔法使い大灰触(おおはいしょく)様がサポートしてやるって言ってるんだ。――……だからエニス、そんなに自分を責めないでくれ。頼む」

「…………し……ショク」

俺はそんな泣いているエニスに頷いて言う。

「俺はお前の味方だ。安心しろ」

「ショク様だけ抜け駆けはさせませんわよ。――エニス、わたくしもお手伝いしますわ」

そう言って、レニティアは微笑を浮かべて俺とエニスとの間へゆっくりと入ってくる。

「レニティア……」

「昨日、お城で言ったでしょう? わたくしは『黒百合』のメンバーとして、どんな時もエニスの味方でいる、と。その言葉に嘘はありませんわ。わたくしは喜んでエニスのお手伝いをさせてもらいますの」

レニティアはウインクして、やがてエニスの背後に立ちその肩を優しく抱く。

そしてレニティアの顔がすぐ横を向いて、その黄褐色の目は先にいる、ある人物を見つめる。

「カナデはどうするんですの?」

その言葉に俺とエニスも、その方向を見つめた。

少し離れた場所で、土塊の鎧を纏ったカナデは腕を組み、地面に目を落としていた。

「冗談みたいな話よね。召喚獣が奪った体がまさかショクの妹なんてね……」

カナデの言葉には既に諦めのような雰囲気が感じられた。

そしてカナデは腕を組んだまま、ゆっくりと視線を地面から俺達へと上げて――

「ショク、私もエニスに協力するわよ」

「……!」

カナデの緑の目は、意思を持ち俺達を見つめていた。エニスがカナデの前へ詰め寄ってゆく。

「カナデ……? どうして……?」

「――私は国外追放の手紙を受け取ったエニスを助けようとしなかった……だからお願いエニス。私は今度こそ……自分の大事な友達を助けてあげたいの……」

「で、でも――これは私の……」

「エニス。あなたは強い心を持った、私達『黒百合』のリーダーよ。だから自信を持って……。エニス、私もレニティアと同じよ。私はあなたにこの命を預けたいの」

「カナデ……ごめんね。私……」

「なぁ、ティミト。お前はどうする?」

俺が振り向いて言うと、ティミトは一瞬体を震わせる。

「あっ、あたし……!? あ……あたしはその……や、やっぱり、こ、怖いけど……」

「ティミト。わたくしは友人であるあなたに無理に、とは言いませんわ。今回は危険すぎます」

「ちっ! 違うの! あたしは……その……しょ……ショクに色々その、この服のこととか……その……教えてくれたり……その、あたしの服を褒めてくれたこととか……嬉しかったし……ショクがいないと……」

「……はい? 悪いティミト、もう一回言ってくれないか? 竜巻の風のせいでよく聞こえ――」

「なッ……! 何でもないよっ! あたしも皆に協力するに決まってんじゃん!! あたしだって、ここまできて逃げれないよ!! 皆が行かないって言っても行くかんねーだっ!! ふんっ!!」

「はぁ……あなた達の結束には驚かされますね」

すると、いつの間にか女王が俺達の近くへ来ていた。

「女王様……」

「私もあなた達のような人を女士団(ラウンズ)に持てて、誇りに思います」

そこで女王は気品のある柔らかな笑顔を見せた。

しかし、女王は途端に笑顔を失い、重い口調で言う。

「……ですが、残念な事にあの竜巻――シルフはこころさんの刻印の魔法を使って自身を強化して、多くの召喚女士(ミストレス)を葬っています。今のシルフはもう……今の貴方達、そして私の魔法の力をもってしても敵わない、別格の存在なのです」

「……女王様でさえも敵わないのですか?」

そう聞いたのは傍のエニスだった。

女王はコクリと頷く。

「ええ。基本的に私やショクさんの魔法は召喚獣と比べて、用途は多いものの力では劣るのです」

「……」

「幸いな事に今、シルフの竜巻は街の前で止まっています。私がここに来たのは、すぐにでも貴方達を結界の張ってある私の城へ避難させたかったからです。既にこの国の住人達も兵達が城へ避難させています。ですから――」

「女王様」 俺は気付けば前にいる女王へ口を開いていた。

「は……はい」

「エニスの火傷した体を女王様の魔法で治してやって下さい。……エニス、いいな」

「……うんッ」

「てっ……手当てもしたいところですが、しかし今は城へ避難しないといつシルフがこの国を――」

「女王様。ここは私……いえ、私達『黒百合』に任せて下さい」

「な、何を言ってるんですかエニス!? あのシルフは――」

エニスは女王の戸惑いを無視し、そのまま静かに口を開く。

「……女王様。あのシルフの竜巻の中には私の恩人であるショクの大事な妹がいるんです。私は今ここで何もせず諦めるつもりはありません」

「――!!」

「はは。エニスも中々言うようになったな」

俺はエニスの肩をぽんぽんと叩いてやる。

隣でエニスは俺に肩を叩かれながら半目で少し頬を染めていた。

「私は……ただショクに恩返しがしたいから……」

俺はそんなエニスに頷いてやり、やがて目の前で驚きに目を開く女王を向いて、静かに言う。

「女王様。俺は女王様が言うようにシルフがメチャクチャ強いって聞いたところで決心は変わりませんよ」

「ショクさん……で、ですが、それでは貴方までも――!」

「それにね女王様。俺達『黒百合』はあのシルフに立ち向かう事をついさっき決めたトコなんです。今更、尻尾巻いて引き返せると思ってるんですか? 勝てないとしても、俺はやれるだけの事をやりますよ。あそこにはこころが、俺の妹がいるんです」

俺が言って、周りにいた『黒百合』の他のメンバー達の表情を見渡す。

皆、表情には迷いは無い。皆がそれぞれに挑む理由を持っている。

エニス、カナデそれにレニティア、ティミトが皆、俺の言葉に頷いていた。

「ショク様、女王様に向かって少し言いすぎです。でも、頼もしいお言葉ですわ……。さすがわたくしが惚れたお人…………ぽっ」

「もう……大事な戦いの前にデレデレしないでよレニティア。あたしまで調子狂っちゃいそうだわ。……ショクってばド変態なくせに時々カッコいいんだから……」

「あたしは……別に……ショクがあたしのお洋服を初めて褒めてくれた人だから守りたいとか、ほっとけない、とか別にそんなんじゃなくて……その……あたしの意思で行くんだもん……!」

「女王様。ここは私達『黒百合』に任せて早く城へ――」

「かっ……帰れる訳無いじゃないですかっ……!!」

「女王様……」

「私はもうっ……貴方達にびっくりしました……! 心配してきてみれば私の方が貴方達に心配されるなんて……悔しいですよ……本当に……!! 何で娘のように思ってきた貴方達に、そんな事を言われなければいけないんですかっ!!」

女王が言ったその言葉には何の落ち着きも、飾りも、論理的ですらなく、ただ女王の怒りを表すままに吐かれていた。

俺やおそらく他の皆もその突然の口調の変化の理由を理解しただろう。

その言葉は嘘偽りのない、女王の本心からの言葉なのだと。

女王は俺達の前で肩を震わせ歯を食いしばって、身の内の怒りをかみ締めているように見えた。

やがて――

「もうっ……知りません!!!!」

「……え?」

俺の声も無視して、女王は長く綺麗な乳白色の髪をばさばさと振り乱し、叫ぶ。

「もう、女王の立場なんて知りませんッ!! 戦いへ挑む自分の娘すら心配せずして何が女王ですか!! あの宰相のジジイなんてクソ喰らえですよ、こうなれば付き合います! 私も!!」

その髪の間にある女王の銀色の目は気品や落ち着きは欠片も無く、必死さを現すように開かれ、意志の強い目には今や狂気すら感じさせた。

俺はそんな女王の急な豹変振りにたじろぎながら――

「そ、それじゃ女王様も……」

俺が言い切るより早く、既に女王は頷いていた。

「ええ! もちろんじゃないですか!! 私も光の魔法使いプレウィックとして『黒百合』に力添えします!! 全力で!!」

こうして俺達『黒百合』五人とラウンズヒル女王プレウィックを含む六人はいまや一丸となり強敵、召喚獣シルフへ立ち向かう事になった。

俺は未だその場を動かずに街の前で塔のように聳える大きな竜巻へ目を向ける。

――こころ。待ってろ。必ず俺が助け出してやる。


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