第13話『それは深く、そして甘~い大人の事情があるんですの』
◆
場所は再び女王の玉座の前。
『黒百合』メンバーのエニス達四人と俺はリーダー・エニスの提案のもとで女王から任務を受けにやってきていた。カナデに殴られたせいで、まだ俺の顔面はヒリヒリと痛い。
今『黒百合』メンバーが女王の前で横一列に全員揃い、そしてその端に俺がいる。
女王はエニスといくつか言葉を交わした後、やがて静かに威厳のある声で言った。
「それでは、エニス。今、あなたたち『黒百合』はそのメンバー全員で任務を受けられるのですね?」
「はい。女王様」
「では、私が『黒百合』メンバー皆の意思を今ここで確認しましょう。――カナデ」
「はい」
「あなたは、エニスがリーダーの下で任務に参加しますか?」
「今はその気持ちに偽りはありません。女王様。私は友の為、そしてリーダーの為に喜んで任務に参加します。もう、その気持ちに偽りはありません」
「そうですか。本当に……良かったですね。カナデ」
「ありがとうございます……」
「それでは次にティミト。あなたはエニスが――」
「はいはーいっ! あたし絶対、任務に参加しまーすっ!! それでもって、この服を見せまーす!」
「は、はぁ……その、ず、随分何というか動きやすくて涼しそうな服ですね――その……ま、まるで服を着ていないみたいに。えっと……ど、どうかお体に気をつけてくださいね」
「はーいっ! わかりましたー女王様っ!」
「コ、コホン。それでは次に――レニティア」
「……はい」
「レニティア……もう、自分の気持ちの整理は出来ましたか?」
「女王様」
「はい?」
「わたくしはエニスを……これからずっと守っていきます。わたくしはエニスの味方となって、メンバーの一人として、これから支えていくつもりですわ」
「……もう、今のあなたに任務に出るかと問うことはもはや不要のようですね。それでは――大灰触(おおはいしょく)」
「え……!?」
思わず名前を呼ばれ俺は戸惑ってしまう。
動揺した俺は再び何かを言おうとする女王にすかさず口を挟み、尋ねる。
「ちょっとちょっと。女王様?」
「はい。何でしょう?」
「はい。何でしょう? ――ってアンタ何のんびりした顔で答えてるんですか? 女王様はそれなりに歳を召した事でとうとう頭までボケはじめたんですか?」
時間にして一秒後、玉座にいたはずの女王の顔がいつの間にか俺の目の前にあった――ガシッ。
「――って痛たたたたたぁーっ!! ぎゃっ、逆エビ固めは止めてーッ!! 背筋がすっごく後ろに反ってるからぁーッ!!」
「ショクさん。私の年齢の事はもう言いませんか? ――ふんっ」
「ぎゃうおーっう!? い、いいい言いません! 絶対に言いませんから!! それ以上俺の背中を反らさないで!! エっ……エビに、エビになっちゃうぅぅぅぅぅっ!!」
「あらあら。うーん……エビになっちゃうなら仕方ありませんね。では今日はこれくらいにしておいてあげましょう」
女王はそう言って、俺をようやく解放してくれた。良かった。甲殻類にならずにすんだぞ。
俺はエビ反った腰をバキバキ!!と言わせながら戻し、女王に振り返り、改めて問う。
「女王様。どういうことですか? 俺が『黒百合』のメンバーって言いましたか?」
「ショクさんはもう、自覚はなくとも『黒百合』の立派なメンバーです。リーダーのエニスを一人で支え、そして応援し、また怪我をしたエニスの命を救ったという、立派過ぎるほどのエニスのサポート役なんです」
「命を……?」
エニスが俺を見つめる。無事に済んだ今、俺がエニスにアパートでの一件を言わなくともいいだろう。
「ショクさん。私はここのラウンズヒルの女王として、たった今貴方を『黒百合』の五人目の正式なメンバーとして認めます」
「……」
「そして、改めて貴方に尋ねます。――大灰触(おおはいしょく)。あなたは、エニスがリーダーの下で任務に参加しますか?」
「……こ、こんな状況で俺が断れると思います?」
「ふふ……例えどんな状況であっても、あなたの答えは決まっていると思いますよ」
女王は俺の言葉に一切表情を崩さず、微笑を絶やさないまま答えた。――全く、俺がこんな風に言っても怯みもしないか。流石、この国の女王だな。
俺はただ、自分の気持ちに正直に答えるつもりだった。
「俺はエニスに全力でサポートをしてやるって約束したんですからね。俺も任務に参加しますよ」
「ショク……!」
俺はそんなエニスに頷き、やがて女王へ言う。
「女王様。俺達『黒百合』の五人は無事に任務を果たして、そして絶対帰ってきてやります」
「……ありがとう。期待しています」
女王は最後に安堵した笑みを見せ、嬉しそうにそう言った。
◆
それから――俺達新生『黒百合』のメンバー五人は今現在、女王との謁見を終え、城の城下町へ入っていた。
女王の言葉では、『黒百合』には今日の夜にその任務の概要を各自手紙にて伝えるとの事で、とりあえず今日は任務に備え、各々で休むようにとのお達しだった。
というわけで、俺達五人は皆、横一列になってアパートへ続く広い街道をゆっくり歩いていた。
「いや~。いや~……いいなぁ……」その中、今の状況に俺の表情は思わず綻ぶ。
「何このド変態。ちょっと、アンタ何ニヤニヤしてんのよ。割と本気で気持ち悪いんだけど」
「……街に入ってから、ショク何だかうれしそうだね」
「ショク様? 何をそんなに喜んでいるんですの?」
「ねーねー。ショクーどうしたの? あっ、また何かいいアイデアでも浮かんだの?」
ふふふん。俺が何を喜んでいるのか君達女の子には理解できないだろうよ。
「うふふ。いや~こんなにおっぱいの大きな女の子と肩を並べて街を歩くなんて……ホント夢見たいでさ~……。あはは、うふふふふ……」
俺は夢見心地でつぶやく。
そう、道を歩く横一列の真ん中にいる俺の両側には、今おっぱいの大きな女の子が二人づついる。
左に心優しい黒髪ショートでおでこの超爆乳のエニスに、
暴力系巨乳のツンデレ紫おかっぱツインテっ娘のカナデ、
そして右にはロリ巨乳で、さらに可愛らしい動物の絵が塗られた裸体、茶のショートボブの髪に星のぬいぐるみの着いたカチューシャをつけたティミトと、
エロくて褐色金髪全裸の尽くしてくれる系のですわ口調のレニティアがいる。
今のこの状況は俺にとってまさしく『両手に花』――いや『両手に花束』だった。
「ほら、回りを見てみろよ? 皆、俺達をうらやましそうに見てるぞ?」
辺りの町の人々は、通り過ぎる人、立ち並ぶ店の店員、皆が俺たちを珍しそうに見ていた。
「違うわよ、ド変態。皆はどうしてショクみたいな男が私達召喚女士(ミストレス)と一緒にいるのかを不思議がってるのよ。普通じゃありえないわ」
カナデが冷たく言うが、すかさずレニティアが口を挟む。
「いえカナデさん、ショク様の言うとおりですわ。――そして……いつかショク様と二人きりで……同じ視線を浴びたいですわね? ショク様」
「え!? あ、あー……うー……、そ、そう、かな?」
「レニティア。そういえばアンタなんでショクの事を様付けで呼んでるのよ?」
「うん……私もそれ気になってた。どうして?」
ティミトを除いた二人がレニティアに詰め寄った。
それにレニティアは――、
「ええ……それは深く、そして甘~い大人の事情があるんですの。……ねえ、ショク様?」
「あ、えと……その……ま、色々とな」
俺は言い終わるときにレニティアの目を細めて、人差し指を咥えて俺を見つめてくる。
――ああ、どうしよう。何だかすっごい惚れられてしまったよ……困ったな。
「ま、コイツのいやらしさなんか嫌でも見えるだろうし。レニティアが幻滅するのも時間の問題だからあえて私もこれ以上は言わないけど」
「カナデはホント、今になってもいつもどおりだな。――あ、そういえばレニティア。カナデは実は露出癖があるって知ってたか?」
「あら、そうだったんですの? カナデさん、それなら早く言ってくれればよかったですのに……」
カナデはブゴフゥッ!と腹に砲丸でも喰らったかのように口から何かを噴き出した。
「ち、違うって!! し、シシショクも何変な事言ってんのよ!!」
「ずるーい。かにゃで、あたしには服着ろって、うるさく言ったくせに自分は露出したいんだー!」
「……ねえカナデ。私、カナデにそういうところがあっても別に気にしないよ?」
「だから違うって言ってるの!! もう信じらんない、皆なんでこんな奴の言う事信じるのよ!!」
恐らく真実をつかれた怒りなのか、キレまくったカナデが髪を振り乱しすごい勢いで叫ぶ。
一方、問われたエニスとレニティア、ティミトの三人は互いに目を合わせ首をかしげ、やがてその六つの目が一斉にカナデを向く。
「私はショクのこと信じてるから……――でも、カナデの事も信じてるよ」
「わたくしもエニスの言葉に同じく、ショク様を信じていますわ」
「あたしも同じくーっ!」
「う、嘘でしょう……?」 カナデは三人の答えに呆然とした表情を浮かべる。
俺はその三人に深い感謝と感動とものすごい一体感を感じながら、カナデに詰め寄ってゆく。
「……ふっふっふ。カナデ――お前のいない間に俺はこんなにも皆に慕われるようになったのだよ。だからお前も遠慮なく俺を好きになってもいいんだぞ?」
「……なんで私がショクを好きになんないといけないのよ……はぁ。――でも」
「ん?」
「ショクがエニスを助けてくれたんだもんね。それは私、本当に感謝しないといけないわ。――ごめんなさいショク。私、あなたの事を少し誤解していたみたい」
「あ、あれ? ……そ、そう素直に言われると返事に困るな。でも、エニスを助けようとしたのは俺だけじゃないぞ」
「え……?」
俺は女王の部屋でティミトと共に入ってきたカナデがエニスとかわした会話の一部を思い出す。
「お前は俺よりもずっとエニスを思っているのにそれでもエニスをリーダーと思い出させるためにあえて酷い事を言って厳しい態度をとった。お前は俺におっぱいを触られた時といい本当にエニスの事を大事に思っているんだな」
「ショク……聞いてたの?」
「お前に顔面ぶん殴られて倒れてた時でも、しっかり聞こえてたさ。エニスもいい友達を持ったよ」
すると何故かカナデの頬がほんの少し朱に染まって、やがて俺から視線を反らす。
「う、うん……えっとその……あ、ありがと」
「ああ、お互いにな。……さて、ちょっと皆聞いてくれるか?」
俺はそう言って立ち止まって、皆に向き合った。
「こうして『黒百合』のメンバー全員がこの俺という新メンバーを加えて今日、ようやく結束を新たにしたんだ。そこで、より皆の結束を深める為にサポート役として一つ提案させて欲しい。俺は『ある場所』へ行くことでより皆が仲良くなると考えている」
「……『ある場所』?」
エニスが首をかしげる。
「ああ、そうだ。俺もそうだが、皆まだお互いの事をよく知らない。だから、今から行く『ある場所』で互いの事をよく知ることで明日の任務にも気持ちよく挑めると思う」
「? ずいぶんもったいぶるわね……いったいどこなのよ?」
「ふふふ……。それは――」
俺は待っていましたとばかりに後ろに振り返って、その背後に聳え立つ大きな建物を指差す。そこは――
「『温・泉』だッ!!」
「「「「へ?」」」」
「これまでの俺の調査の結果、何とこの国には混浴できる露天風呂があったんだ! さぁ! 今からみんなで裸になって俺と一緒にお風r――ボ・ボピィィィィ――――ッッ!!!!」
カナデは先ほどの可愛らしい恥じらいも嘘のように、俺の顔面に右ストレートを喰らわした!!
「あっ、ああっ、アンタ何言ってるのよッ!! なっ、ななっ何でアンタに私の裸を見せなきゃいけないのよ!!?」
「し、ショク様ッ――!!?」
奇声をあげ、ぶっ飛ばされた俺はレニティアの手を借りながらやっとこさ立ち上がる。
「――いや、カナデ聞いてくれ。真面目な話、これは仲間同士にとって重要な事なんだ」
「……重要な事?」
「ああ、そうだ」
俺はあくまで真剣にカナデを真っ直ぐ見つめ、諭してあげることにした。
「仲間という関係の中で一番重要なのは何か、それは互いの心の壁をなくすことだ」
するとティミトが首をかしげて口を挟んでくる。
「ねーショクー。心の壁ってなーに?」
「心の壁、それは人と人の間にある意識、考えの違いだ。その壁が厚い――つまり自分と相手の考えがあまりに違ったりすると、その人は疎外感を感じてしまい、結果として相手との仲間意識を失ってしまうんだ」
そして、その傍で聞いていたエニスがポツリと口を開く。
「……つまり、ショクが言いたいのは互いの考えの違いを受け入れることで互いの心の壁を無くそうって言いたいの?」
「そうそう。驚いたなエニス。そんな上手な説明が出来るなんて大したものだ」
「さすがわたくし達のリーダーですわっ」
「あ……ありがとう」
「……そ、それは解ったわよ。でも、それがどうして温泉に皆でいっしょに入る事につながるのよ」
「俺の世界には『裸の付き合い』という言葉がある」
すると同じく傍にいたレニティアとティミトが急に顔を赤らめ、それぞれ色めきだす。
「はっ……『裸の突き合い』!!? そっ、そんなショク様、わたくし達まだ早すぎますわっ!」
「ええーっ!? ショクってあたし達にえっちなことしようとしてるのー!?」
二人のエロジジイのような解釈の仕方に俺は、がっくりきてしまった。慌てて顔の前で手を振る。
「……いやいや、そういう事じゃない。人と『お付き合い』する方の『付きあい』……解る?」
二人は口を揃えて「ああ、そっちの……」と言って納得した。俺、実はまだ信用無いのか……?
俺は気を取り直し、ゴホンと咳をついてエニス達に大きな声で淀みなく言う。
「『裸の付き合い』――それすなわち、互いが精神、そして肉体で全ての壁、そして衣服をも取り払い、同じ姿――裸と裸になる事で真に心と心を通い合わせ、友情を育む事なり」
皆の目が俺を一点に見つめて話を聞いている。
そこにはそれまであった疑惑は見て取れない。チャンスだ。こっ、このまま一気に畳み掛けるぞ!
「つまり、俺が何を言いたいのかというとだな――皆が裸になって温泉に入る事は、効率的且つ気持ちよく友情を高める事ができるという訳だ。理解したか?」
俺は言い終わって皆を見渡す。すると、レニティアが――
「わたくしは賛成ですわ! 皆さんといっしょにお風呂なんて……すっごく素敵ですわ!」
そして、ティミトは、
「さんせーいっ! さっき、ちょーど新しい『お洋服』のアイデアが浮かんだから、今の『お洋服』も洗い流せて丁度いい! あたしも温泉に入る入るーっ♪」
次にエニスが、
「私も賛成する。ねえ、ショク……私、ショクを信じてるからね?」
「お……おうっ……!」 何だろう今の純粋なエニスの目に見つめられた時、凄く良心が痛んだ。
「さて、後はカナデだな。どうする?」
「……………………………………こっ、効率よく仲良く出来るのならいいかもしれないわね」
「――へ?」
「あなた達と『裸の付き合い』をしようって言ってるの。言わせないでよ。もう、恥ずかしい……」
数分後。
「ふんふんふーん♪ 皆と一緒におふろ、おふろー」
温泉の前に設けられた脱衣所の中で、俺の鼻歌もどんどん冴えてくる。
そう、この世界に来たとき俺は城からアパートに戻るまでの道のりで、この温泉があるのを初めに見つけて、目をつけていたのだ。
そして昨日、朝食の果物を買いに行くときにその温泉の『調査』をしたのだ。
この異世界には温泉に入るという素晴らしい文化が存在していたのだ。
「そ、それより……」 ――そう、俺は今更ながらとんでもない事実に気付いてしまったのだ。
「おっ、俺はどうしよう……!」
温泉に入ろうとするこの場に来て、俺はようやく自分の迂闊さに気付かされた。
そう。エニス達が裸になる事ばかり考えるあまりに、自分の事を全く考えていなかったのだ。
「俺にだってそりゃ人並みの羞恥心はあるんだぞ……。お、女の子に裸を見られるのか?」
さて、どうするか。俺はこれから浴場に行くときの自分のスタイルを考える事にした。
バサァッ! ――やがて俺は全ての衣服を解き放ち、決断する事にした。
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