第7話『その……目が少し怖いかも……』


「へっ――――っくしっ!」

翌朝、俺は自分のくしゃみの声で目を覚ました。俺の背が悲鳴を上げるようにずきずきと痛む。

(いてて、やっぱり床の上で直に寝るもんじゃないな……)

床の上で横たえた俺は背をさすりながら思わず顔をしかめる。

昨日の夜、話が終わってからエニスは自分のベッドで一緒に寝ようと言ってきたので当然俺はその素晴らしい提案に甘えさせてもらうことにした。

やわらかいエニスの肌を直接感じる事のできるまたとないチャンスだったので俺はうっひょー、と一昔前のリアクション芸人のようなテンションでベッドに入ったのだ。

だがしかし、エニスのいるベッドに入ってから数分した頃、俺はようやく気付く。

ベッドの中は決して天国などではなく、残酷なまでの生き地獄だったのだ。

目の前ではほぼ裸になったエニスが寝ているのに、手出しできない状況というのはあまりに辛く、俺の理性と本能を苦しめた。

――寝ている女に勝手に手を出すのはフェアプレー精神を貫く俺にとっては最大のタブーなのだ。俺は変態だがその上で紳士なのだ。

というわけで俺はそんな生き地獄に堪らず、エニスが寝静まった頃を見計らいベッドの傍の床に体を横たえ寝る事にしたのだった。おかげで体中が痛い。

窓から差す朝日に目をしばたたかせながら、床の上でのっそりと身を起こす。

目の前には大きな天蓋のついたベッドがあり、その上ではエニスがくぅくぅと天使のように可愛らしい寝顔を浮かべぐっすり眠っていた。本当に可愛い寝顔である。

「それにしてもすごいおっぱいだな。ホントに」

呼吸をするように目の保養を済ませると共に俺は早速、ガチガチになっていた体を整理体操をして揉みほぐしてゆく。

(しっかし、『黒百合』の他のメンバーの二人ってどんな奴なんだろう?)

とりあえず、女の子なのは確定でビジュアルとおっぱいには期待するとして、問題はその性格だ。

カナデみたいに小うるさくないといいのだが。そう考えていると後ろでもぞ、と動く音がした。

「あ……ショク。その、もう起きてたの? ごめんなさい。起こしてくれてもよかったのに……」

寝ぼけ眼をごしごし擦りながらベッドから起き上がるエニスも中々可愛いものだ。

主におっぱいが。

「別にいいって。俺も今起きたばっかりだ。しかし昨日の月といい、この朝日といい、こんなとこは俺の世界と全く一緒だな」

「……ねえ、ショク。今から私と街に行って朝ごはん食べに行く?」

「ああ、そうだな。実はかなり腹が減ってる。そして飯を喰ったら、すぐエニスの手伝いだな」

エニスの目がゆっくりと大きく開かれる。

「……覚えててくれたんだ」

「? 当たり前だろ? まさか昨日の俺の言葉が信じられないあまり、昨日の事は夢かなにかだと思ったのか?」

「うっ、ううん……! そんな事ない。ごめんねショク。本当は自分で何とかすべきなのに……」

「いいって、いいって。それより街に行って飯にしようぜ」



そして俺とエニスはアパートの階段を降り、城下町にあった飲食の出来る場所へ向かった。

そこはレンガ敷きの地面に四人用の幅広いテーブルと椅子を並べてあるような場所で、デパートの屋上にあるようなフードパークを連想させた。

「まず今日はエニスとカナデ以外にいるって言う『黒百合』のメンバーに会いたいな。幸い、期限はまだ一週間もあるんだ。時間は十分ある」

俺は言いながら、エニスの買ってきてくれた白いクレープのようなものを口に入れ、咀嚼する。

(ん……これは……ふむ、おいしいな。実に美味だ)

すると俺と同じクレープ風の食べ物を食べていたエニスがふと俺たちの間を挟むテーブルに目を落としながらぽつりと口を開く。

「まだ一週間も、なんて。ショクは前向きだね……すごいよ。私はそんな風に考えられない」

「俺と一緒にいればエニスもなにか変わるんじゃないか? そして、俺もエニスと一緒にいれば自分のナニかがすぐにでも変わりそうだ」

「……?」

「い、いや、何でもない。それより俺がまだ会ってない『黒百合』の二人について教えてくれよ」

「二人の名前はティミトとレニティア。歳は私やカナデと一緒で二人とも十六歳の女の子」

「じゃ、まずティミトについて聞かせてくれるか? エニスの知ってる事だけでいい」

「うん。解った。ティミトはえっとその……元気で……。それから、いつもニコニコしてて……」

「趣味とか特徴とかは?」

「趣味は洋服をいつも作ってて……あと体は私より小さくて、あと胸が大きくて――」

「よし、早速ティミトの所へ行くぞ」

俺は既に食事を終え、立ち上がっていた。

「……え? ちょっと、ショク待って。どこ行くの?」

「直接会ったほうが早いと思ってな。……ほら、エニスも食い終わったんなら早速そのロリ巨――いや、ティミトの所へ案内するんだ。さぁ、早くっ!」


そして、再びアパートに戻った俺達。

「たーのもー」

ドンドン。ドンドン。俺はティミトの部屋の前にたどり着くなり、その扉を叩いた。

「ショク……きっとまだ他の部屋で寝てる子達もいるから……その、あまり強く叩かないで」

「ロリ巨乳の美少女よー。噂は聞いている。早くでてこーい」

ドンドン。ドンドンドン。続けて扉を叩くものの返答はない。――仕方ない。こじ開けるか。

考えたその時、ようやく扉の向こうからくぐもった声がかすかに聞こえてきた。

「うみゅ~。はぁ~い。起きてまひゅ……あたひはおきてまひゅう~」

その小学生のような可愛い声の主――おそらくティミト本人だろう――は、どうやら扉の向こうの部屋で寝ぼけているようだ。

なんという声紋、なんという甘いロリ声だ。これで本当にエニスと同じ十六歳の声だというのか。

やがて近づいてきた足音と共に部屋の扉が開かれ一人の小さな女の子が姿を現した。

背はこころと同じくらいで小学生のように小さく、顔も小顔でとっても可愛く、決して期待を裏切らなかった。

そして大きな星のぬいぐるみの着いたカチューシャに加えて髪は茶のショートボブ。

しかしそんなものは当然ッ! 後回しにしておいて一番肝心のものはというと――

(おおっ、バスト八十は硬いな。すごいよホント、俺この世界に来てよかった……)

――それにしても……何でこの娘っ子は朝からものすごい色のハイレグを着ているんだろう?

ティミトは目をごしごしやると、すぐ前にいる俺では無く、エニスの方を見て目を大きく開く。

「あ、おはよぉ~えにえに。お洋服返しに来てくれたの?」

「え、えっとそれは後で洗って返しておこうと思ってて……その……」

「おほん。初めましてだな。俺の名前は大灰触(おおはいしょく)。今日からお前達『黒百合』のリーダー、エニスのサポートを――」

「きゃぁ――! すっごーい――――っ!!」

どーんっ!ティミトが俺を見た瞬間――突然のタックル。

「おべぅうう――――ッッ!!?」

「ショク!!?」

エニスのあげた声も遅く、すさまじい勢いで俺の視界が後ろへ流れてゆく。

やがて俺の体が後ろの壁にドキャ!!と、ぶち当たり、衝撃をモロに受けた背骨が悲鳴を上げる。

「すっごいっ! すっごいっ!! な、ななな何このオシャレお洋服!!? こんなデザイン見たことないよっ!! 生地も丈夫で、うわーすっごいっ! あはははっ、何このお洋服ー!?」

ティミトは動けない俺に馬乗りになって俺の昨日から着ていた学校の制服をそれはそれは楽しそうにつまんだりひっぱったりといじくり回していた。。

――そういえばエニスがコイツの趣味は服作りだとか言っていたな。

「……おい、ティミトとかいったか。もういいだろ? そろそろ俺の体からどいてくれ」

「え――――。あ、ああっ! ご、ごめんなさいっ!!」

ティミトは俺がいるのに初めて気がついたような表情を浮かべ、すぐ俺の体からどいてくれた。

――全く、見境の無くなった変態ほど怖いものはないな。

「さて――、お前が噂のティミトちゃんか」

「あれ? そういえば何であたしの名前知ってるの? エニスこの人……どちらさま?」

振られたエニスはえっと……、と俺の方をちらちら見ながらやがて口を開く。

「……この人はショク。私の友達で、『黒百合』の新しい仲間」

(――仲間で友達、か)

いきなりおっぱいを揉まれ、エニスに良い印象もたれていないと密かに思っていただけに今のエニスの言葉はかなり嬉しかったりした。

――その内、エニスに「私はご主人様専用のおっぱいメイドです」とか言って欲しい。

「ふ~んっ。ね? それにしても、ショクってすごくオシャレなお洋服着てるんだね? いいなぁ、あたしも欲しいなぁ~。ね、ショク。そのお洋服どこで買ったの?」

「……悪いが、本題に入らせてもらうぞ」

「へ? 本題?」

「ああ、そうだ。なぁティミト、お前『黒百合』のメンバーなんだよな?」

「う、うん」

急にティミトがさっきまでの笑顔ではなく、よそよそしい表情を浮かべる。

俺は構わず続けた。

「なら、どうして任務に参加しないんだ? エニスが言っても任務に参加しないそうじゃないか」

「わ、私だって……そりゃ……えにえにには悪いとは思ってるんだけど……でも、新しいお洋服のアイデアがそういうときに限って浮かぶんだから……!」

「それでも仲間だったら――――」

「もっ、もうっ! うるさいうるさーいっ!! だ、だってしょうがないでしょ!? あたしお洋服の事になると訳わかんなくなっちゃうんだからぁ!!」

「……そんなに服が好きか?」

「うんっ。それでもって、ショクの今着てる服が欲しい!」

「この服は俺の世界で着てきた一張羅だぞ? 今のところ俺はこの世界でこれしか服を持ってないんだ。ティミトには絶対やらん」

「え? 『俺の世界』? 何それ、どういうこと?」

俺の素性を知らないティミトにエニスが、ショクは異世界からきた人なの、と伝えた。

すると、それを聞いたティミトの顔がぱあっと嬉しそうな顔で輝く。

「ええ――!! うっそーっ!!? すごいすごいっ!! そのショクの着てる服って異世界の服なんだー!! 欲しい欲しい欲しすぎる~~!!」

地団太踏んでそう言うティミトを見ているうち、俺はある考えを思いつき口を開く。

「よし、解った。それじゃあ俺の服をお前にやろうじゃないか」

「え? いいの?」

「シ……ショク?」

エニスが不安げに俺を見つめてくる。

心配しているのか。だが俺もただで下着姿になるつもりは毛頭無かった。俺はティミトに言う。

「ただし、今から俺と勝負してティミトが勝ったらだ」

「――へ?」

「そして、もしお前が勝負に負けたら、今日から『黒百合』の任務に必ず参加する事。どうだ? 勝負を受けるか?」

「やるやるー!!」

上げた手をぶんぶん振り回しての即答。すると傍にいたエニスが俺の肩を指でつつく。

「あのショク? その……勝負って何するの?」

「決まってるだろ。自分の持ってる魔法で勝負するんだ。――それでいいよな? ティミト?」

「もっちろん!!」

「よし。それじゃエニス、ここの近くでどこか人の目に付かなくて広いところはあるか?」

「え、ええっと……」

エニスが先を言う前に、すかさずティミトが口を挟む。

「それだったら、ここのアパートの裏庭だよ。そこならほとんど誰も来ないから!」

「そうか。それじゃティミト、先にそこへ行って待っててくれ。俺は少し勝負の準備をする」

俺がそう言うとすぐティミトはわかったーっと明るい返事と共に部屋に戻り、ごそごそと律儀にもワンピース姿に着替えてから、ずだだだだだーっ!と駆けて行ってしまう。

「し、ショク……」

「ん?」

「ショク、どうして勝負なんか……? そんなの危ないよ……! 私の為にショクが危険な目にあうことなんかない……! 今からでも中止に――」

俺はティミトが走っていった階下へ向かおうとするエニスの肩を掴んだ。

「――エニス」

「……! なに……?」

振り向いたエニスの目は潤んでいた。俺はそんな弱弱しくも抱きしめたくなるようなエニスに一言。

「おっぱい揉まして下さい!」

「…………へ?」

「いやー実は昨日の女王に魔法を撃った時から、魔力がスッカラカンでさ……あれから何にも出ないんだよ。だから――お願いします!! エニスのおっぱいで魔力補給させて下さい!!」

ザッ!!と、土下座して俺はエニスにお願いする。

「え、えと…………その……私はいい、けど……?」

「いいぃぃよっしゃぁあああああっっ――――!!!」

早速許可が降りたので、俺はもろ手を上げ喜び、土下座から立ち上がると遠慮なく手を構え、エニスへ真っ直ぐ向かっては素晴らしい大玉メロン型のおっぱいを揉みしだく!

毎秒十七揉みの速度で! もみもみもみもみもみもみもみ!!

そして、エニスのおっきなおっぱいに埋もれた俺の手首から刻印が浮き出て、それは昨日と同じく青く輝く。

「あ、あの。ショク、その……目が少し怖いかも……」

もみもみもみもみもみもみもみ!!!!

「――ぁん……んんっ……。そ、その……シ、ショク? 聞いてる?」

もみもみもみもみもみもみもみ!!!!!!


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