第4話『ぜっ……絶ッ対に勘違いしないでよねっ!!』


厳しい雰囲気の城門をくぐり、城の中に入った俺たちを迎えたのは長い赤絨毯の敷かれたまっすぐな一本道だった。

その赤絨毯の両側にはごつい男の衛兵が等間隔に立ち並んでおり、体育教師にパジャマを着せたようなそいつらは皆、西洋の儀仗兵が持つような槍に斧がついたようなやつ――確かハルバードとかいったか――を体の前で構えていた。

(何だぁ、この国は女だけの国じゃなかったのか。……ま、そりゃそうかイブとイブじゃ百合好きの輩が大挙して喜ぶだけだもんな)

そしてその奥には女王とおぼしき、いかにもな格好をした人物が玉座に座っていた。

――おお、ついに出たか女王様。

「おかえりなさい。女士団(ラウンズ)『黒百合(くろゆり)』のリーダー、エニス。そしてそのメンバー、カナデ。とにかくお二人が元気そうで安心しました」

その女王の声は想像していたものより若く、凛とした声で俺たちからかなり遠くにいるはずなのに、部屋全体に響いた。

……しかし、『くろゆり』とはなんのことだろうか。

えらく中二くさい名前だがエニス達の所属する部隊名か? 名づけたやつの顔を拝みたいものだ。そして、何十年もたった後でそいつにその名前を顔真っ赤にして泣くまで連呼してやる。

女王の声に答えるように、俺の傍にいたエニスとカナデがそろって片膝を折って腰をおろす。

俺は二人のそれを見ながら、よほど女王というのはえらい人物なのだと小学生並みに実感し、俺もそれにあわせ、ぎこちなく腰をおろした。

「話は門兵を通して聞きました。……残念ながら逃げ出したシルフ確保の任務は失敗してしまったようですね」

「……申し訳ありません」

女王の言葉に代表してかエニスが力ない声で答える。

「シルフは我々が保有していた召喚獣の中でも四大精霊であり、強力な存在です。しかしそれを逃がしたとなると……非常に困った事になりましたね。やはり四人のメンバーが揃いきっていない中であなた達に行かせたのは間違っていました。――ところで……一人、見慣れない男の方がいますね。随分と不思議な格好をしていらっしゃいますが」

遠くからでほとんど見えないが、女王の目がどうやら俺のほうに向いたらしい。

俺は男として異世界の女王とやらにガツンと言ってやる事にした。

「俺の名前は大灰蝕(おおはいしょく)! 異世界から来たイケメンの魔法使いです!!」

ガツン! 俺の後頭部が土塊で叩かれる。

「ばっ――――!! あっ、アンタは!! さっき私の許可なしに余計な事喋るなって言ったばかりでしょ!!」

「カ、カナデ、別にいいのですよ。落ち着いて下さい。……そうですか異世界から来たのならその格好も納得がいきました」

「いっててて……い、いやぁー、女王様も納得がいったみたいでよかったッスよー」

明るく言う俺の傍でエニスが「……たっす?」と膝をついたまま小動物の様に首を傾げる。

「うーん。しかし、魔法使いというのは信じられませんね。魔法使いはこの国で私を除き、滅びたものと言われていましたから……ちょっとショクさんの傍まで行きますね」

女王はそう言ってゆっくりとした動きで立ち上がると、つかつかと赤い絨毯を歩いて俺たちのいるところまで向かってきた。

近づいてくるその女王の姿に俺は、彼女の全身からあふれ出る高貴なオーラに圧倒されてしまって二の句を告げなくなってしまっていた。

絹糸のような乳白色の長く伸ばした綺麗な髪。

そして、身につけているのは聖職者のような女王の髪の色と同じ、真っ白な法衣。

さらに穢れ無い、白く陶器のようにきめ細やかな肌。

大きな法衣から除く、推定三十歳程の小じわ一つ無い彼女の微笑みの表情は、まさに聖母そのもので、気品に満ちていた。

俺が女性を見て、おっぱい以外に目がいったのはこれが最初で最後かもしれない。

ちなみに女王のおっぱいは控えめだった。ロイヤルおっぱいに期待したがこれではがっくしである。

「ショクさん。あなたの腕を見せてくれませんか?」

悔しがっているおれのすぐ傍で、女王の声が俺の近くで聞こえる。

いつの間にか女王は俺の目の前に来ていた。

目元までかかった女王の白い髪の中で、銀色に輝く瞳が俺を見つめている。

「えっ、あ、ああ……」

気付けば俺は礼儀すらも忘れて上の空で答え、女王に自分の両腕を見せるようにそっと突き出した。

「……呪文の刻印が浮き出ていませんね」

「呪文の刻印?」

「ええ、魔法使いや召喚女士(ミストレス)が魔法を使うためには、『魔力』と呼ばれる大元の力。そしてそれらの力をどのように使うか用途を細かく指定する『魔法陣』、もしくは『刻印』。この二つが必要になるのですが……うーん」

やがてうーん、うーんと繰り返し、やがて女王はためらうように口を開き、言った。

「私が見るに今のショクさんには何の力も感じません」

「ええっ!!? そ、そんな筈ありません女王様!!」

驚きの声を上げたのはカナデだった。カナデは女王の前に詰め寄って、声を荒げた。

「女王様! 私はこの目で見たんです! このド変――いや、この男の右腕の刻印から青い光があふれているのを! 今は魔力が切れていて刻印が無いだけなんです!!」

「青い光? エニス、あなたも見たのですか?」

エニスは動じず、片膝をついたままでコクリと頷いた。

「……はい。確かにカナデの言うとおり、彼は一度だけではありましたが私達の前で魔法を使って見せました」

「そうですか。しかし、今は何の光も放っていませんね。――では、ショクさん魔法を今ここでもう一度使ってみてくれませんか?」

さぁ来たぞ。……はてさて、何と説明したものだろうか。

「いやぁ、それが何でか知らないんですけど、俺は今絶賛、魔法を使えない感じで……」

「そうなのですか? ……あ、それでは魔法を使ったときの事を詳しく教えてくれませんか?」

「使ったときの事? 別にいいですけど……」

俺が女王に説明した事はこうである。

まず俺はこの世界のどことも知れない部屋で一人目覚めた。

そして部屋の前に現れたエニスのおっぱいを揉んで、

次に現れたカナデの少し足りないおっぱいを揉もうとしたら何でかキレられて、

カナデの出した巨大な土塊(つちくれ)の拳に俺が殴られそうになった瞬間。魔法が発動した。

以上説明終わり。主に思い出す事といえばこれくらいか。

「これくらいか、――じゃないわよっ!! この童貞変態ッッ!!」

「いってぇっ!!  おいカナデ、お前また土の塊で人の後頭部殴るなよ!! 二度目だったんでもうすこしで意識がトぶとこだったぞ!! しかも、女王様の前で童貞って言いやがったか!?」

「あはは、そういえばショクさんって見るからに甲斐性なさそうな顔してますもんね」

「――――え」

何だろう。今、女王が俺に、ものすごく、心が、張り裂けそうな事を、言った、ような、気が。

やがて明るく笑う女王は笑っているのが自分だけだと気付いたようだった。

「あ、あら? ご、ごご、ごめんなさいっ、ショクさんっ!! あ、あはははは。わ、悪気はないので、そそそその……ショクさん? ど、どうか気になさらないでくださいね?」

お願いですからお願いですからと、言いながら必死で女王は俺にぺこぺこして謝ってくる。

辺りにいた皆が俺をかわいそうなものを見るような目で見つめている。

――はて。俺は今、どんな顔をしているのだろうか……。

「そ、そうそうっ。今の話を聞いて私解ったんです。ショクさんがどうしてその時に魔法を使えて、今使えないのか」

「え……。本当ですか?」

女王はエニスにええ、と頷き言い、女王は俺の前で人差し指をピンと立て明るく言った。


「ショクさん。今からエニスの胸を揉みなさい」


「「「――――は?」」」

その突然の言葉にエニス、カナデ、そして俺までもがそろって呆気にとられた。

「じょっ――女王様!!? どういうことですか! それは!!」

そして、まずその女王の提案に異を唱えたのはカナデだった。

「言った通りですよ? カナデ。ショクさんがエニスのおっぱいを手でもみもみするんです」

その女王の解りやすくもえっちな言い回しにカナデは赤面しながら、またも異を唱える。

「――いっ、いやっ、だ、だからっ!! 何でそうなるんですかっ!!?」

「……私もそれを聞きたいです」

激情したカナデとはあくまで別の意味合いの声でエニスは女王に尋ねている。

女王は意を決したように口を開く。

「あなた達、召喚魔法使いである召喚女史(ミストレス)はその身に膨大な魔力を持って生まれています。知っていますね」

「……はい」

カナデはどこか納得いかない表情のまま頷いた。

「そして今、ショクさんの体の中には魔力が全くないんです。しかし、その前、カナデが召喚魔法でショクさんを攻撃したとき、魔法は発動しました。そして、それはショクさんがエニスのおっぱいをもみもみした直後で発動したのです」

女王の話を聞く最中、カナデはぶるぶる震えていた。

「つ、つまり……」

カナデの震える言葉に女王は今までで一番明るい笑顔を見せ、再び凛とした声で言う。

「そうです! 恐らくショクさんは膨大な魔力を持つエニスの体、つまり、そのおっぱいをもみもみする事でその体から魔力を吸収していたのです。ですから私はショクさんにもう一度エニスのおっぱいを――きゃひんっ!!」

何とカナデは突然鬼の形相を浮かべるや、女王の頭をバスケットボールほどの大きな土塊で思い切りズッぱぁーんっと殴りつけた!

「「「「ああっー!!!!」」」」

その場にいた俺も含め、全員が驚きに叫んだ。

俺自身、露出癖を除いては真面目と思っていたカナデがそんな行動に出るとは思っても見なかったのだ。

カナデの暴挙を見た衛兵達が慌てて、カナデとそして女王の周りをとりかこむ。

衛兵の目は今や敵意を持ってカナデを見つめていた。一方、殴られた女王は涙目だ。

「か、カナデ……ひ……ひどいっ……」

床にくずおれるその女王の姿は恐ろしいまでに見るものの哀れみを誘う。

しかし、カナデは全くお構いなしと、いじめっ子のように女王の前で崩れた土塊のついた腕をぶんぶん振り回しては叫ぶ。

「ふ、ふふふふざけんじゃないですよ女王様ッッ!! 何でそんな理由でエニスがおっぱいをこんなド変態に捧げなきゃいけないんですか!!」

「だ……だってぇ……」

「大・体ッ!! 魔力を持ったおっぱいだったら、別にエニスでなくとも女王様ご自身がおっぱいを差し出しゃスッパリ解決でしょーが!!」

「なっ、なんて事をっ!! こんな嫁入り前のかよわい女の子に向かって今日知り合ったばかりの男性におっぱいを差し出せなんて……!! 破廉恥(はれんち)な!!」

「何が破廉恥ですか、このダメ女王!! エニスを自分の身代わりにするなんて恥ずかしくないんですか!!?」

突如勃発したカナデと女王との言い争いは益々過激になる。堪りかねて俺は声をかける。

「あ、あの~……お二人さん?」

「「黙ってッッ!!」」

「はい」

二人の鋭い眼光にあっさりと気圧され、結局何も出来ず俺はすごすごとその不毛な話し合いの場から退散した。

そして、戻ってきた俺の前には、俺と同じように何も出来ずにいるエニスがいた。

「エニス……あの二人、どうしたらいいの?」

「えっと、その……私は……その……」

珍しくエニスの言葉は何かを言いよどむように途切れ途切れでまるで要領を得ない。

「ん? どうしたんだよ」

「――わ、私は、別に……その、ショクにおっぱいをもみもみされても大丈夫、なんだけど……」

「「「ええっ!!?」」」

エニスの衝撃的な言葉に俺、カナデ、そして女王までもが一斉に驚いた。

そしてその瞬間、自らを取り囲んでいた衛兵を手でぐぐっと掻き分け、カナデが飛び出して来てエニスの両肩をガシッと掴んだ。

「ちょっと!! エニス!! アンタ自分がどれだけおかしい事を言ってるのか解ってんの!!? アンタはいいかも知れないけど、でもそれはまだ男がどんなか知らないだけで――きゃあっ!」

女王がぼーんっ!と見事なまでのヒップアタックでカナデを強引に押しのけ、エニスの前で満面の笑みで迫る。

「いやぁエニス、いやエニスさん!! 私あなたのその自己犠牲の精神には深く感動しましたっ!」

「じ、女王様!! アンタ、エニスに何言っちゃってくれてんですか!!?」

「だってー。エニスは別にいいって言ってるしー。ね?」

「……え、ええ。私は構いませんが」

「ほらぁー」

「で、でもっ。わ、私はっ……!!」

そのカナデの憤りを察したように、女王はあぁそっかあ、とわざとらしくポンと手を叩いて言う。

「カナデ? どーしてもエニスのおっぱいをもみもみされたくなかったら、自分がショクさんにおっぱいもましてあげればいいんじゃないですかー?」

「ええっ!?」

「だってそーでしょー? 誰でもいいって言ったのはカナデじゃないですかー」

「――うっ、ぐ、ぐぐぐぐぐっ……!!」

やがて緊張に満ちた沈黙の中、カナデは顔を真っ赤に染めて俯き――

「…………………………………………………………………………………わ、解ったわよ」

「え? なにか言いました?」

「ショクに私の……お、おっぱいをもませてあげるって言ってんのよ!! ショクッッ!!!!」

今や羞恥のあまり耳まで真っ赤にしたカナデは腕を体の前で組んで、俺を睨み付けていた。

「こ、こここ……こっちに、こっちに来なさいっ!! 早く!!」

「……お、おう」

言われるまま俺は感情の無い声で答える。

お、おかしいな。俺は今、カナデのおっきなおっぱいを自由に揉めるという最高のシチュエーションの中にいるはずなのに俺の心は思ったほどときめかない。

「はっ……早く、きき、来なさいよっ!!」

今、寒さに震えるように内股の足で、さらにおっぱいを守るように腕で抱くカナデの姿はまるで――青少年には見えちゃいけない乳首(ぶぶん)こそ手足で隠れているものの、おっぱいが見事なまでに肌色一色。

つまり、今のカナデの上半身は全裸にしか見えないのだ……!

「お……お前……その姿は色々やばいぞ。その……ビデ倫(りん)的に」

「なな、何訳わかんない事言ってんのよ!! は、早くもみもみしなさいよっ、ほらぁっ!!」

湯気が出そうなほど顔に血をのぼらせ、目をぎゅうっと瞑って、男に警戒心の強いはずのカナデが今やほぼ全裸の姿勢で一生懸命、俺におっぱいを差し出してくるのだ。

(うっ……。か、可愛い)

エニスに勝るとも劣らないカナデの大きなおっぱいの上で怒ったカナデの顔がふんっ!とそっぽを向いて言う。

「ぜっ……ぜぜぜぜぜ、絶ッッッ対ッッに勘違いしないでよねっ!! アンタがおっぱいもみもみしていいのは、こッ、ここ今回だけなんだからっ……!!」

「……は、はい」

俺とカナデの周りには今、エニスと女王、そして数十人もの衛兵たちの衆目を集めている。

そんな衆人環視の中、女のおっぱいをもめと言うのは、揉む方にも中々レベルの高い行為だ。

やがて観念して、俺は腕からはみ出たカナデの下乳にそっーと震える手を伸ばす。

そ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ……ぽぽよんっ。

「ひっ! い、いいい、いやぁぁぁあああああああああああ――――――――っっっ!!!!」

「もみぶぐふふふぅうううッッッッ――――――!!??」

同時! 俺はカナデに顔面を土塊で思いっきりばしこーん!!クリーンヒットされてしまう。意識がトビかけている俺をまったく他所に、女王が何かに気付いたような声を張り上げる。

「おっぱいを揉んだ今、ショクさんから魔法の力を感じます! ほらぁー! 私の推測は正しかったんですよ! んぁぁっんっ! 感じるぅぅ……感じちゃいますぅぅぅぅ!」

女王の多方面から誤解を招きそうなギリギリ発禁(アウト)な言葉の後、すぐさま別の声。

「え、エニズゥゥゥ~~!! も、もう大丈夫だからぁ~っ!! もう誰にもおっぱい触られないからねぇぇ!! う、う……うぇぇぇぇ――――んっ!!」

「……あ、あのカナデ? だ、大丈夫? ほら、もう泣かないで。お願い……」

「ひぐっ、えぐっ。……エニズぅ、エニズぅ……、ひぐっ、ひぐっ」

ようやく意識混濁を乗り切り、俺は立ち上がる。

すると既に俺の目の前にいた女王が何やら興奮した様子で俺の手をガシッ!と掴む。

「さぁ! ショクさん! 今のあなたには魔力があります。今からそれを試してみましょう!」

「た、試すってどうやって?」

――っていうかさっきから女王様、随分キャラ変わってない?

「それは簡単。ただショクさんが私に魔法をぶつければいいんです」

女王が身につけた白い法衣ごしに粗ま――控えめな自分の胸を叩いて、自信満々に言う。

「え、マジですか。いいんですか? そんなことして」

「ええ。私はあえて、このわが身を犠牲にしてショクさんの魔法の実験台になりましょう……」

すると女王の周りにいた衛兵達がどよっと、皆一様に落ち着かない表情を浮かべる。

それを見たのか、女王は微笑を浮かべ、ここにきて初めて女王らしくゆっくりと手を上げる。

「皆、落ち着きなさい。私は自分の意思で言っているのです。誰かが犠牲にならねばいけないのなら、私は喜んでこの身を――」

「あ……ショク、心配しないで。女王様は強い魔導防壁があるから平気なの」

「あ、そうなの?」

エニスの言葉に俺は頷き、納得すると前にいた女王がチッ、と舌打ちをしたような気がした。

やがて、すぐに女王が俺の前で両腕を開いて声高に言う。

「さぁッ、ショクさん。遠慮は要りません! どうぞ私に魔法を撃ってきて下さい!!」

「えー……っと。じ、じゃあいきますよ? ……はぁっ!!」

声と共に、俺の右手首の刻印が強く濃い青色に輝きだした。初めに見た魔法の輝きだ。

そしてその輝きとほぼ同時に――――、

俺の右手から突如、視界を覆うほど巨大な『高温に燃えさかる火球』が飛び出したのだ。

「「――――へ?」」

巨大な火球を目の前に驚く俺と女王が揃って間抜けな声を出す。

そして俺は女王へ真っ直ぐ進むそれを止めることはできず――二秒もしないうちに巨大な火球が女王に直撃した!

「み、みぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッッ!!?」

その火球の威力は女王にとっては予想外だったらしい。

女王はおよそ人間とは思えないような奇怪な叫び声をあげながら、魔導防壁のおかげか直撃のダメージこそ無いものの高速で進む火球の勢いにあっさり負けて勢いに押されながら、ズザザザザザザザ!!と玉座のある後ろへと押し出されてしまう。

「――ぎゃうっ!!」

やがて俺の目の前十メートルほど先でゴン!!という鈍い音と女王の短い叫び声が一瞬響き、それに合わせて叫び声がピタッと止む。

「え……え~っと……?」

突き進んでいた火球は勢いを失い、やがて煙と共にシュゥゥ、と跡形もなく消えてしまう――そして、その煙の中からは目をぐるぐるさせ気絶した女王が現れた。

「「「「じょっ……女王ッッ――――!!!!??」」」」

周りにいた数十人の衛兵たちは発狂したように野太いコーラスで叫び、半数は玉座で気絶した女王の元へ向かい、もう半数は俺に武器を構え、険しい目つきで取り囲んでいた。

俺の前で激昂し武器を構える衛兵の一人が叫ぶ。

「きっ、貴様ぁ!! 女王によくもおおおぉぉぉぉぉっ!! こっ、このまま生きて帰れると思うなよおおおおおおおおおおぉぉぉッッ!!」

――――俺は二転三転するこの状況の変化に頭がおかしくなりそうになった。

「……も、もうなにがなんだか」


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