高校生編〈10〉
キーンコーンカーンコーンーー
学校の終わりを告げる鐘が鳴る。
「新垣さんもう行ける?」
「うん。大丈夫」
僕らは、ここのところ毎日あの喫茶店に向かう。
もちろん調べ物のためなんだけど、きっと口実が無くても通っていただろう。
それ程にあの空間は心地が良い。
「もうすぐ夏休みだね。新垣さんは夏休み何かするの?」
「いや、特には。高平君は?」
「僕はお墓参りくらいかな」
「あぁ。この前言っていた子の…。良ければ今度どんな子だったのか聞かせてくれる?」
「もちろん。春ちゃんにも新垣さんの事話すつもりだしね」
フフッと笑う新垣さんはとてもキレイな横顔をしている。
新垣さんには喫茶店を紹介してもらった次の日に春ちゃんの事を話している。
「海の香りがして、時が止まって、春ちゃんに○と✕の記号が出てきて、無理矢理選ばされて、事故で死んだ」
とても簡潔に話したつもりだけど、話を聞いていた新垣さんは悲痛な表情をして、僕に「辛いかったね」と、そう言ってくれた。
それから僕は新垣さんにとても好感を持っている。
恋心かどうかはわからない。でも、話しているととても安心させてもらえる。
あの事故から、少しずつ前に進めているんだな…。おかげで今はそう実感できている。
「良かったら新垣さんもお墓参り行く?本人がいたほうが春ちゃんもわかりやすいだろうし」
「え?いいの?迷惑じゃないかしら?」
「大丈夫だよ。出来れば僕も一緒に来てほしいし」
「あ、それじゃあ…お供します…」
顔が真っ赤だ。
「アハッ。なんか用心棒みたいだ」
新垣さんの顔が更に真っ赤になった。
「もう!」
これからもこんな幸せが続けばいいのにな…。
幸せが崩れ去るのは一瞬だ。身に染みて理解している。
たからこれからもこの幸せを大切に過ごしていきたい。僕はそう思う。
澄み渡る青空を見て。
選択の薫る海 水切六六 @mizukirirock
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