高校生編〈8〉

「…おい!……おい!航大!聞いてるか!?」


「へ?なに?なに?」


昼休みの時間、和也が隣の席まで遊びに来ていた……までは覚えているのだが、何を話していたのか全くわからない。


「お前大丈夫か?目の下のクマ。ひどいことになってるぞ」


「あぁ…昨日寝れなくてさ…んで、何の話だったっけ?」


「だからトロッコ問題だよ。スゲー速度で走るトロッコに自分が乗ってて、先にはルートが2つある。1つは、大切な人が1人、線路に転がってるルート。もう1つは、知らない人が5人、転がってる。自分はレバーで切り替えができるからどちらかを選ぶしかない。お前はどっちを選ぶんだ?って話」


「大切な人か、5人の他人…か」


難しいな。寝不足のせいで頭も回らない。

 選ぶのは自分…つまりどちらかを殺すってこと…。


「う…」


春ちゃんの事故が昨日からずっと頭にこびりついている。

 度々、頭に鈍痛が走る。


「ったく。そこまでして来なくても良かったじゃん。きついんなら休めよなー」


「いや、今日は約束があってさ…」


「え?なになに?女か?デートか!?ときめきアドベンチャーか!?」


「近い近い!そういうのじゃないよ。新垣さんと放課後に待ち合わせてるんだよ」


「な、なんだと!この裏切り者め!おめでとう!」


「応援したいのか僻んでんのかわかんないよ。それに二人で調べものするだけだし」


「ふーん」


ピロン


「あ、新垣さんかラインだ。えー…」


〈今日はどこに行きますか?私の通っているお店に静かで落ち着ける場所があるので良ければ行ってみませんか?放課後、楽しみにしています〉


「おま…これ…え?いやデートじゃん」


「?違うよ。調べたいことがあるからってさっき言っただろ」


「マジかよお前は……正気か?このニブチンめ!」


そう吐き捨てて和也は去っていった。


「相変わらず変な奴だ。ファァ…」


ウルサイのが居なくなったし、残り時間は寝るかな。

 僕は軽く伸びをしてそのまま机に突っ伏した。


「僕はどっちを選ぶかな…」


眠りに落ちるまでの間、さっきのトロッコ問題が頭をぐるぐる回り続けていた。

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