高校生編〈7〉

「イタタ!」


僕は今、新垣さんに包帯を巻いてもらっている。


さっきの選択の結果、人混みを無理に進んだため左手の甲を深く切ってしまった。


「多分どこかに引っ掛けちゃったんだと思います」


「そうみたいだね…ッテテ!」


ほぼ被害はないみたいに言ってたくせに、立派に怪我してしまってるじゃないか。

 

「新垣さんは怪我してない?大丈夫?」


「大丈夫。高平君が道を開けてくれてたから」


うん。本当に無事みたいでよかった。

 いや、それよりも…


「…新垣さん。どうして僕に手を出してたはずなのにあそこにいたの?あの人混みの中、あのタイミングで死のうとしてるおじさんに気が付くなんて……その…普通は有り得ないよ」


自分でおかしなことを言っているのはわかっている。でもそれくらいおかしな状況だった。

 それこそ名探偵並みの観察眼を持っているか、事前に知っていたか。

もしくは……。


「……私、人が死にそうな時がわかるの」


新垣さんは包帯を巻く手を止めて、ゆっくり話し始めた。


「誰か…他人でも知人でも、死にそうな人がいるとわかるの。分かる…というか…教えられるというか、無理矢理そうさせられるの。多分、自分に」


開いた口が塞がらない。

 自分と同じ事が起きてるのか?彼女にも?もしかしたら意外と多くの人が、僕と同じ経験をしてるのかも知れない…。


「詳しく教えてほしいんだけど……もう今日は遅いからさ。とりあえず時間があるとき話せない?」


「も、もちろん!」


こうして僕らは連絡先を交換し、帰路についた。

 帰ってすぐに新垣さんにメールを送り、翌日の放課後に話をする約束をした。

 どうやら新垣さんも知りたがっていたみたいで、積極的に協力してくれるみたいだ。


「春ちゃん…」


その夜、僕はなかなか寝付けないでいた。


色々なことが頭を駆け巡っている。

 知りたいことがいっぱいある。


何故自分なのか。何故海の匂いがするのか。新垣さんとの共通点は何なのか。回避する方法はないのか。声は結局自分なのか。ならば選ぶように促しているのは自分自身ということなのか。


「はぁ…全くわからない…」


忘れようとしていた事故が鮮明に脳裏に蘇る。


「僕は、選択することの意味を知って何がしたいんだろう…過去が戻るわけじゃないのに…」


その日、僕は、久しぶりに一睡もできず朝を迎えることになった。

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