高校生編〈2〉

春ちゃんが少し離れた場所から僕に笑いかけている。

 優しくて眩しい、あの笑顔で手招きしている。


なんだろう?何か忘れてる気がする。

 とりあえず彼女のところへ行ってみるか。

あぁそうだ、思い出した。そういえば今からデートだったね。ごめん、すぐそっちに行くよ。


僕は駆け足で向かう。

 なぜか分からないけど早く春ちゃんのところへ行かなきゃ!行かないと!


あれ?


なんで!?足が動かない!

まって…春ちゃん…


ドガッ!


あぁぁ!!ーー



朝か…。

「ハァ…まだ…出てくるんだな」


最悪の寝覚めに大きなため息が出る。


春とはいえまだ朝は冷えるのに汗びっしよりだ。


「少し早いけど学校に行く準備するか」


ん?美味しそうな匂いがする。


「母さん。起きてたんだね。おはよう」


「あら。早いわね。おはよう航大」


母さんは少しやつれてしまった。

 白髪も目立つようになった。今でこそ笑顔が出るようになったが、口数は減り、父さんとの軽口の言い合いは全くといっていいほど見ていない。


「航大もうすぐ夏休みでしょ?予定は決めたの?」


「いや、特には。1日に春ちゃんのお墓参りくらい」


「そう…。春ちゃんにヨロシク言っといてね」


コクッと頷いて僕は朝ごはんに手を付け始めた。



「お、航大もう行くのか」


丁度学校に行くタイミングで、寝間着の父さんが起きてきた。


「あぁ。おはよう父さん。早くに起きちゃってね。暇だから早めに学校に向かうよ」


「そうか。気をつけてな。いってらっしゃい」


「いってきます」


足が重い。朝から嫌な夢見ちゃったからなー。


「おいーっす」


駅で電車を待っていると声をかけられた。


「なんだ和也か」


「なんだとは何だ!…って毎回このやり取りしてんな俺ら」


いつもは煩わしい彼のおちゃらけだが、気分が落ち気味の今日は正直助かっている。


「和也も早起きか?」


「うん、っていうか起こされた。朝から客が来るらしくてさ。家掃除するからって母ちゃんに追い出されちまったよ。トホホ…」


「ドンマイ。まぁこんな早くから登校するやつなんて僕らだけだし、ゆっくり行こうか」


「あぁそうだな。んあ?どうやらあそこにも早起きさんがいるぜ。あれ俺らの高校の制服だな」


ん?確かにウチの制服だ。…っていうか同じクラスの子じゃないか。

 まさか和也は覚えてないのか?


「おい和也。あの子、ウチのクラスの女の子じゃないか?確か……新垣さん…だったかな」


「え?全然記憶にない。あんな子いたっけ?」


「いたよ!ひどいやつだな。…まぁ確かに大人しい子…というか地味な子ではあるな。いつも一人で本読んでるし」


確か図書委員してたかな。隅っこの席で、休み時間いつも一人で本を読んでる。

 そういえば声、聞いたことないかもな。


「あぁなんか…わかるような、わからないような。まぁいいや!一緒に学校行くか聞いてみるか?」


相変わらずアクティブな奴だ。


「やめとこう。独りが好きなのかもしれないし、男と一緒に登校してたら気まずい思いさせちゃうだろ」


「ん?そんなもんかね?お、電車来たな」


「そんなもんさ。ほら、乗るぞ」


乗車際、何気なく新垣さんに視線を移すと、横目でこちらを見ている彼女と目があった…気がした。


いや、気のせいだろう。きっと。

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