高校生編〈1〉

「おーい航大ー!待てよ、一緒に帰ろうぜー!」


「んあ?なんだ…和也か」


「なんだって何だよ。また同じクラスになったんだから仲良くしようぜ」


「仲良くしてるよ。昨日も一緒に遊んだじゃん」


「オンラインゲームでな!お前、全然街までついて来ねえじゃん」


「興味ないんだよ。僕は学校と家の往復だけで十分さ」


「お前、高2にもなって引き籠もりってどうなんだよ。ハッピースクールライフが逃げちまうぞ」


「だからもう十分ハッピースクールライフしてるよ。お前がこうやってしつこく絡んできてくれるしな」


「お…おうとも。っておい、しつこくって…言い方!」



あれから7年。僕は高校生になった。

 家からは二駅ほど離れた、普通の公立高校に通っている。


メガネで小さい見た目とは裏腹に、アグレッシブに絡んでくるコイツは棚橋和也(たなはしかずや)。

 高校入学の時から同じクラスで、出席番号が1番違いというだけで親友だと言い張る謎の友人だ。



春ちゃんの事故のあと、僕はひどい有様だった。

 本当に色んな人に迷惑をかけてしまった。


警察の人たちには「僕のせいで…僕がやったから…」と供述してしまい、監視カメラが押さえられるまで現場を混乱させた。

 

クラスメートや担任の先生も春ちゃんが死んで悲しかったろうに、登校拒否していた僕の家に毎日プリントを届けに来たりしてもらった。


その中でも両親には特に申し訳なかったと感じている。


父と母は事故から卒業まで、まともに小学校に行けなかった僕にずっと声をかけ続けてくれた。

 にも関わらずその優しさを無視して部屋に籠もり続け、挙句、お父さんに八つ当たりまでしていた。

「選べない時はどうしたらよかったの?偉そうにお母さんの気持ちに応えろって言ってたじゃないか。春ちゃんの気持ちに応えるにはどっちを選べばよかったんだ…僕が死ねばよかったんだ…」と。

 それでも父は困った顔をしながら「航大には生きいてほしいよ」と抱きしめてくれた。

 

結局小学校には卒業式すら出ず、中学も地元から少し離れた私立の学校に入れさせてもらった。

 クラスメートに迷惑かけた罪悪感と、少しでもあの事故を思い出してしまわないように、父と母が配慮してくれたからだ。


それから、休みがちではあるもののなんとか落ち着いて、中学校を卒業するまで通うことができた。


 そして現在、高校に入学し、普通通り登校できるまでになっている。


まだ事故があった街には出向きたくないし、潮の匂いがする海産物はほとんど食べられなくなってしまった、なんてこともあるけど日常に幸せを感じられるようになった。


全て、周りの人たちのおかげだ。

 これからはしっかり生きていこう。そう思っていた。


なのにまた…海の匂いが鼻を突き、あの最悪な選択を迫られることになるなんて、考えてもいなかった。

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