少年編〈7〉

サイレンが鳴り響いている。

アレは…救急車?パトカー?レスキュー車?

うるさいなぁ。


「こんにちは。君、名前は言えるかい?」


誰だろうこのおじさん。

 あ、おまわりさんだ。制服着てる。


「高平…航大…」


「ケータイ、持ってるかい?親御さんに連絡したいんだけど」


「ケータイ?あぁ…スマホ…あります」


「そうかそうか。電話、できる?」


「はい」


おじさんは僕の頭をポンっと叩いて隣に腰掛ける。


「ゆっくりでいいからね」


小さく頷き、スマホでお父さんに宛てて電話をかける。


 スマホを扱っていたのか、コールが鳴って間もなく電話に出てくれた。


「もしもし?航大か。どうだ、デートは順調か?」


僕は言葉が出なかった。それどころか、何も知らないお父さんに八つ当たりしてしまいそうになっている。


順調なわけないじゃないか。春ちゃんは車に轢かれて…。

 上手く呼吸ができない。手が震える。


「おーい。もしもーし!」


いつまでも喋れずにいると、そっと肩を叩かれた。


「おじさんに代わってもらえるかな?」


僕はお巡りさんにスマホを手渡した。


「もしもし、私、〇〇署の高光と申します。えぇ、はい。それでですねーー」


お巡りさんはあらかたお父さんに説明してくれたようで、その後すぐにお父さんが来た。


寝間着にサンダルという何ともおじさん臭いかっこうで現れたお父さんは、僕を見つけると全力で駆け寄り、思いっきり抱きしめてくれた。


少し安心したんだろう。事故の後、初めて僕の目から涙が出てきた。


「おと…さん…僕のせいで…春ちゃんが……僕が……選べなかった…僕がしねば……いい…はずだった…」


「バカタレ!んなわけあるか!悪いのは運転してたやつだ。お前を責めるやつなんていない」


「違うんだ!僕が…選べたんだ……選べたら…春ちゃんは……選べなかった…僕は…」


きっとお父さんは、僕が何を言っているのかよくわからなかっただろう。

 それでも強く抱きしめてくれた。「辛かったな、辛かったな」と言い続けてくれた。


「航大くんのお父さんですね。一応なんですが、後ほどお子さんと署の方まで来ていただけますでしょうか?お子さん、混乱してるみたいですし付き添っていただけると助かります」


さっきのお巡りさんがとても柔らかい口調で、申し訳無さそうに話しかけてきた。


「わかりました。少し落ち着いたら出向かせていただきます」


こうして、僕の初デートは幕を閉じた。


もう夕日は落ちかけ、闇がそこまで来ていた。

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