少年編〈3〉

「お。また夫婦がきたぞー」


教室に到着するやいなや、クラスメートのワルガキがからかってきた。

 流石に毎度のことなので慣れてしまった。


とりあえず苦笑いしてランドセルを下ろし席につく。


「なぁお前らって付き合ってんの?」


なかなか止まないワルガキの絡みに少しムッとしたが、僕に怒る勇気なんてなかった。


「そんなことないよ。春ちゃんがいつも僕なんかに気を使ってくれてるんだ」


できる限りにこやかに返答してあげた。


「じゃあさ、デートしたらいいんじゃん?んで告白するんだよ。知ってるか?告白はお出かけした後、仲良くなってからするんだぜ」


なにかの漫画で読んだであろう知識を偉そうに語る彼だが、実は、確かに僕は彼女を遊びに誘いたいと思っている。


でも恥ずかしくて中々言い出せない。結局断られたらどうしようとかウジウジウジウジ考えるだけで行動できないのだ。


するとーー


「おーい春!航大がデートしたいって言ってるぜ!」


ーー!!

心臓がいきなり回転数を上げた。


なんてことをしてくれるんだ…。いつか自分からと思ってたけど、タイミングもクソもないじゃないか。


…でも正直、言ってもらえたことでホッとしている自分もいて複雑な気持ちだ。


 でも、断られたら…嫌がられたら…僕は恐る恐る顔を上げた。


「っ!」


春ちゃんがこっちを見ていた。もう笑いかけるしか僕のできることはなかった。

 今、自分はどんな顔をしているんだろう。気持ち悪い汗が背中を流れた。


「いいね!どこいこっか?」


「えっ?いいの!?」 


しまった。つい食い気味に…。


「ん?別にいいよ?それよりいつにする?」


なんてことだ。ワルガキ発信っていうのが気に食わないけど十分だ!

 ありがとうワルガキ。名前覚えてなくてごめんね。


 周囲から冷やかしの声と口笛が鳴っていたが、耳に届かないくらい僕の心臓は鼓動していた。


 詳しい話は放課後に。ということで、もどかしい終業式も終わり、僕たちは話をしながら一緒に帰っている。

 もちろん話題はデート…というか二人で街に出かけようという話だ。


「私ソフトクリーム食べたいなー。あとはお菓子!それとハンバーガー!」


「ハハッ。食べ物ばっかりだねー。そういえばソフトクリームは、前にお父さんと出かけたときに美味しいとこがあったよ。そこ、行ってみる?」


「いいねー!じゃあ目的地はそこにしようか。あとはーー」


あぁ嬉しいな。なるほど、浮足立つっていうのはこういうことなんだ。


「じゃあ8月1日ね!それまでに宿題は終わらせること!」


「オッケー。じゃあ今日から夜更ししてやらなきゃなー」


日付も決まったところで丁度僕の家についた。

 あぁ楽しい時間ってこんなに短いのか…。


「じゃあまた連絡するね。バイバイ!」


「うん。バイバイ!」


僕らはにっこり笑い合って手を振りお別れした。


僕はその日の夜から部屋に籠もって宿題を進めまくった。

 お父さんとの答え合わせを晩御飯の時にすることになっていたけど、まったく頭に入ってこない。


「航大。ちゃんと聞いてるのか?」


「え…うん、聞いてるよ聞いてる。」


 僕が上の空で話を聞いていたからお父さんは説明を諦めてしまった。


「なんか嬉しいことでもあったのか?ニヤニヤしやがって。まぁ、今度また機会があったら話そうな」


おっと、どうやら顔に出ていたみたいだ。


「うん、ごめんなさい。」


お父さんに悪いことしちゃったな。

 少し罪悪感を感じながら、それでも僕は春ちゃんとのおでかけが頭を埋め尽くしていた。

 

僕は結局、1週間で夏休みの宿題を終わらせるという快挙を成し遂げたのだった。

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