第14話 黒幕

 演壇から降りる時、ホスト国であるエフノ王国の代表の後ろの方に、見覚えのある顔を見付けた。


 あれはもう1人の転生者、ディード王国の特使か。なるほど、黒幕が分かった。目が合うと物凄い顔で私を睨み付けて来た。


 どうしても我が国に恥を掻かせたいらしい。なんでだろう? 執念みたいなものを感じてなんか怖くなって来たんだけど...


 その辺のことを控え室に引っ込んだあと、アレックス王太子に聞いてみた。するとアレックスは渋い顔をして、


「またディード王国が絡んでいたのか...困ったもんだな...アビー、君には話しておく。他言無用だからそのつもりで聞いてくれ」


「分かりました」


 私は居住まいを正した。


「僕の足を引っ張ろうとしている勢力があることは知ってるね?」


「えぇ、王弟殿下ですよね?」


「あぁそうだ。未だに叔父上を次の王位へと推す連中は、常に僕が失敗するのを狙っている。歳が若過ぎる、外交の経験が無さ過ぎる、そういったことも批判して来る。だからこうした外交の場には積極的に出るようにしているんだが、ディード王国は連中と手を組んでいるんだよ。僕を王位から追い落とした後、叔父上に取り入ろうという魂胆なんだろう。だから僕に恥を掻かせようと躍起になっているんだ」


「そうだったんですね.. 」


「その企みをアビーは二回も阻止してくれた。本当に感謝している。ありがとう」 


「い、いえ、そんな...」


「だがこれで、アビーも奴らの恨みを買ったことになる。十分に気を付けてくれ」


「わ、分かりました...」


 なんだか怖くなって来た...当分おとなしくしていよう...



◇◇◇



「ヘンリー様! このお茶凄く美味しいです!」


「気に入って頂けて良かったです。このお茶は我が国の特産品なんですが、栽培が難しかったんです。ようやく量産の目処が立ったので、今後は輸出する予定なんですよ」


「私、絶対買います!」


「いえいえ、おっしゃって頂ければ私共でご用意させて頂きますよ?」


「そんな! それは申し訳ないですよ!」


「いいんです。これくらいさせて下さい。アビーさんにはお世話になりっ放しなんですから。鉱山の売却から始まって、この間のレストランの時といい国際会議の時といい、アビーさんが居なければどうなっていたことか。本当に素晴らしいご活躍です」


「お誉めに預かり光栄です...」


 今日はヘンリー様のお招きで、エイナ王国の大使館を訪れている。誉め殺しに合って恐縮している所だ。


「あの...アビーさん...よろしかったら私と...その...お、お付き合いして頂けないでしょうか?」


「えぇっ!? わ、私とですか!? で、でも私なんかではヘンリー様と釣り合わないかと...」


「なんかなんて言わないで下さい! アビーさんはとても魅力的で素敵な女性です!」


「...わ、私でよろしいのですか?」


「アビーさんがいいんです!」


「う、嬉しいです...その...よろしくお願いします...」


 私は憧れだったヘンリー様にまさかの告白をされて浮かれていた。だから忘れていたんだ。自分が狙われているってことを...


 夢見心地で大使館を出た私は、いきなり後ろから誰かに何か薬品の染み込んだ布を押し付けられ、そのまま意識を失った。

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