第13話 国際会議

 今日は年に一度の国際会議が開催される日だ。


 国際会議とは、周辺各国の間でホスト国を持ち回りで決め、各国の親睦を深めるために毎年開催されているとても重要な会議のことである。


 今年のホスト国はエフノ王国が務めることになっている。参加するのは我がアルファ王国、ヘンリー様の母国エイナ王国、ビイラ王国、シイノ王国、ディード王国、イーノ王国、の6ヶ国だ。ジーラ諸国連合は遠いからという理由で招待されていない。


 会議はホスト国であるエフノ王国の代表が挨拶して始まった。ちなみにこの世界、前世の時の英語ような所謂共通語というようなものは存在しない。


 なので各国の代表はそれぞれが自国の言葉を話し、それを各国の通訳が速記で翻訳するという形で会議は進む。


 まず最初にエイナ王国の代表ヘンリー様が演壇に立ちスピーチを開始する。各国の通訳が早速ペンを取る。我が国の代表であるアレックス王太子はエイナ語が堪能なので、私はペンを取ることなく各国の様子を眺めていた。

 

 そして違和感に気付いた。エイナ王国は通訳を6人連れて来ている。ホスト国含め6ヶ国あるんだから当然だ。だがその他の国は通訳の数が少ない。多くて2人だ。中には1人しか居ない国もある。


 言語マスターのスキルを持つ私なら1人でも問題ないが、他の国はそうはいかないだろう。首を傾げた私の疑問は、次のビイラ王国の代表が演壇に上がったことで判明した。


 ビイラ王国の代表はなぜかホスト国であるエフノ王国の言葉でスピーチしたのだ。 


 そしてそれはビイラ王国だけに留まらず、シイノ王国、ディード王国、イーノ王国、と同じようにエフノ語のスピーチは続いた。


 なるほどね、そういう訳か。どうやらハメられたらしい。我がアルファ王国と懇意にあるエイナ王国以外の各国が手を結んで、我々に恥を掻かせようという魂胆か。ホスト国もグルらしいな。それに気付いたヘンリー様が厳しい顔をしている。


 私はアレックス王太子にそっと耳打ちした。よろしい、そっちがその気なら言語マスターの真髄を見せ付けてやろうではないか!


 アレックス王太子が最後に演壇に上がる。私もその後ろにピッタリ寄り添う。各国代表が何事かと目を丸くする。スピーチが始まった。


「ご来場の皆さん、アルファ王国代表のアレックス・フォン・アルファと申します。本日はこのような会議の場に来られたことを光栄に思います」 


『ご来場の皆さん、アルファ王国代表のアレックス・フォン・アルファと申します。本日はこのような会議の場に来られたことを光栄に思います』


 アレックス王太子がアルファ語でスピーチするのを、私がすかさずエフノ語で通訳する。


 そう、前世でお馴染み同時通訳! これでどうだ! アレックス王太子との息もピッタリだ! 伊達に教育係はやっていない!


 スピーチが終わって私とアレックス王太子がハイタッチを交わす。ヘンリー様が立ち上がって拍手してくれた。各国代表は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 ざまぁ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る