第11話 和解

 ニコールが更にシンディをバカにしたように続ける。


「知ったか振りして恥を掻いたようね~♪ キャハハハッ! 教えてあげるわ~♪ 正しくはね『私は素敵な恋をして幸せになりたい』なのよ~♪ イーノ語が分かるのはあなただけじないの~♪ 残念だったわね~♪ キャハハハッ!」


 既にシンディは悔し涙をポロポロと流している。ブレンダはどうしていいか分からずオロオロしている。仕方ない。ここは私が一肌脱ぎますか。


 シンディが紹介した詩はイーノ王国では有名な吟遊詩人によるものだ。私も知ってる。ニコールの翻訳は正しい。だがそれで全てじゃない。


「ニコール様、確かにおっしゃる通りですが、その先をご存知?」


「えっ!? 先!?」


「えぇ、この詩はそこで終わりじゃありません。続きがあるんです」

 

「ど、どんな!?」


『私は素敵な恋をして幸せになりたい。そして貞淑なる淑女として立派だと言われるような、そんな人になりたい』


「ニコール様、如何ですか? この詩をご存知だということは、作者の吟遊詩人の方がお好きだと言うことですよね? 他人の失敗を嘲笑うような行為は、とても貞淑な淑女とは思えないのですが、これを聞いたら吟遊詩人の方はどう思われますかね?」


「そ、それは...」


「確かにシンディ様のイーノ語はまだまだ拙いものでした。そのせいであんな間違った訳の仕方をしてしまったようですが、それでも私は「異国の言葉を学びたい」「自分の大好きな詩を本来の言葉で伝えたい」という気持ちをとても好ましく思います。皆さんは如何でしょうか?」


 会場はシーンと静まり返ってしまった。ダメか...私の言いたかったことは上手く伝わらなかったかな...と思っていた時だった。


「...あの...シンディ様、大変申し訳ございません...調子に乗り過ぎて失礼なことを...」


「そ、そんな! お顔をお上げ下さい、ニコール様! 元はと言えば私の知ったか振りが原因ですもの! 私の方こそお耳汚しで申し訳ございませんでした!」


 うんうん、良かった良かった。ちゃんと和解できたみたいだね。


「お二方とも分かり合えたようで、ようございました。では改めまして、私がこの詩を皆さんにご紹介したいと思います。是非ともお聞き下さいませ」


『今、私は恋をしている。この胸のトキメキをどうかあなたに分かって欲しい...』



◇◇◇



「アビー! ありがとう~!」


「ぐぽっ!」


 お茶会が無事? 終わり、控え室で私はブレンダから抱擁という名のタックルを食らっていた。だからダイレクトに頭から胸に突っ込んで来るなよ...呼吸止まったじゃねぇか...それとグリグリすんな! どんたけ私のおっぱい好きなんだお前は!


「アビーが居なかったらどうなっていたかと思うと私...」


「ブレンダ、いつまでも私が側に付いていてやれる訳じゃないんだから、もっとしっかりしなきゃダメよ?」


「うん.. 分かってる...私、もっと頑張るね...」


 まぁ分かってるならいいか。

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