第10話 お茶会

 今日はブレンダ主宰のお茶会が開かれる日だ。


 将来の王妃様ともなれば、お茶会くらい仕切れるようでなければならない。そのための試練という訳だ。ちなみに参加するのは、全員が伯爵家以上の高位貴族令嬢ばかりだ。


「うぅ...ちゃんとやれるかなぁ...」


 緊張気味のブレンダを励ます。


「大丈夫よ。今日のメインは詩の朗読会でしょ? 始まってしまえば後は聞いてりゃいいんだから。聞き終わった後にそれらしい感想を述べてそれで終わりよ。楽勝楽勝!」


「そ、そうよね! が、頑張る!」


 そしてお茶会は和やかな雰囲気のまま始まった。



◇◇◇



 参加者がそれぞれお気に入りの詩を朗読し、順調にお茶会は進んで行った。最初は緊張していたブレンダも、次第に慣れて来たのかそれなりに良い感想を述べるようになっていった。


 このまま何事もなく終わるかと思っていた時だった。最後の一人、侯爵令嬢のシンディがこんなことを言い出した。


「私、イーノ王国の詩が大好きですの! 山と森と湖に囲まれ美しい大自然が広がるかの地は、有名な吟遊詩人を何人も輩出しておりますわ! その中で一番好きな詩を、今日はイーノ語で披露しようと思いますの!」


 そう言ってシンディはイーノ語で詩の朗読を始めたのだが...


『今、わだじは恋をしてるだ。ごの胸のドギメギをどうがわがってけろ...』


 ブッ! 私は危うく吹き出すところだった。そのくらい訛りが酷かったのだ。もはや元の言葉が何なのか分からなくなる程だ。


 まぁそれも無理はない。日本だって地方に行けば行く程、同じ日本語とは思えないくらい変わる訳だし。訛りだけじゃなく方言もあるしね。


 だからこの辺は許容範囲と言えなくもない。それよりも慣れない他国の言葉で表現しようと思う気持ちが大事だ。そのことを評価してやりたい...と思ってたんだけど...


『わだじはスケベでビッチな娼婦になりだい』


「ブハァッ!」


 さすがにこれには吹き出してしまった...参加者の中にイーノ語が分かる人いないといいんだけど...


「キャハハハッ! あ、あなた、い、今、自分がなんて言ったか分かってる? キャハハハッ! あ~♪ おかしい♪」


 甘かったようだ...指摘したのは、こちらも侯爵令嬢のニコールだ。


「えっ!? えっ!?」


 指摘された方のシンディは気付いていないようだ。


「あなたは今ねぇ『私はスケベでビッチな娼婦になりたい』って言ったのよ~♪ キャハハハッ!」


 あぁ、シンディが真っ青になって俯いちゃったよ...そしてそのシンディの気持ちがこの中で一番良く分かるであろうブレンダも、やっぱり真っ青な顔してプルプル震えてしまった...


 これどうしようか...




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