第9話 紹介
私が王宮から与えられた部屋は元々かなり広い。
寝室、リビング、客間、書斎、なんと四部屋もあるのだ。その上、キッチンにバス、トイレ付きときている。とてもじゃないが、一人で暮らすには持て余し過ぎるのが分かって貰えると思う。
私なんか書斎に簡易ベッド置いて、そこで寝泊まりしちゃってるからね。寝室の無駄にデカいキングサイズのベッドだとなんか落ち着かないんだよ。元が小市民だからね。
今はそこにクレアとキャロルの親子に寝て貰っている。彼女達の私物が伯爵家から届いたので、それぞれ客間やリビング、寝室などに飾っている。
私はそもそも私物が少ないからね。本と衣類と筆記具くらいしかない。今思えば、女の一人暮らしとは思えない寂しさだった。彼女達のお陰で大分華やかな感じになって逆に感謝している。
「とはいえ、私も働かないとね~ いつまでもアビーにおんぶにだっこって訳にもいかないわ~」
「お義姉さま、嫌らしい言い方になっちゃいますが、私って結構高給取りなんで、贅沢さえしなければ三人で暮らしていけると思うんです」
「あらそれはダメよ~ いくらなんでも申し訳ないわ~」
「いいんです。それにまだキャロルは小さいじゃないですか? キャロル一人置いて働くなんて無理ですよ。あのクズから慰謝料も入るだろうし、毎月の養育費も入るでしょう? 当面は生活する上で心配はないですって」
「う~ん...確かにそうなんだけど~...在宅で出来る仕事がなんかあれば~...あっ! そうだわ! アビー、あなた通訳やってるのよね~? エイナ王国にツテとかないかしら~?」
「お義姉さまの母国の? そりゃまあ、ありますけど?」
クレアは元々エイナ王国から嫁いで来た人だ。簡単には実家に帰れなかった理由もそこにある。国を跨ぐと手続きとか色々面倒なんだよね。
「私ね~ 国に居た頃はアルバイトで翻訳の仕事引き受けていたのよ~ もしツテがあるなら仕事回して貰えないかしら~? 翻訳なら在宅でも出来るでしょ~?」
「いいですねそれ! 早速アポを取ってみましょう!」
「お願いね~」
こうしてヘンリー様に連絡を取ることになった。
◇◇◇
三日後、王宮にヘンリー様をお迎えしてクレアを紹介する。
「ヘンリー様、本日はお忙しい所お時間を頂きましてありがとうございます。こちらが義姉のクレアです」
「クレアと申します~ よろしくお願い致します~」
「ヘンリーです。よろしくお願いします。お世話になっているアビーさんからの紹介なら、張り切ってお世話しますよ! 早速、翻訳の仕事を回しましょう!」
「「 ありがとうございます! 」」
「任せて下さい! あぁ、それと...その...代わりといってはなんですが...アビーさん、今度一緒に食事でも如何でしょうか?」
「喜んで!」
「そうですか! 良かったです! では後程ご連絡差し上げますね!」
「お待ちしております!」
うわお! ヘンリー様から誘われちゃったよ! 嬉しいな! うん? クレアが脇をつついて耳元に囁いて来た。
「隅におけないわね~」
ち、違っ! そ、そんなんじゃないし!
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