第8話 新しい生活

「そんなことがあったなんて...」


 舞踏会が無事終わり、アレックスの執務室で私が事の顛末を説明すると、彼にしては珍しく難しい顔をして絶句してしまった。その隣でブレンダは青い顔をしている。


「えぇ、恐らくですが、ホスト国である我が国の王太子とその婚約者をあの場で貶めることで、何らかの利益を得ることが出来たのでしょうね。それが何なのか、私にはさっぱり分かりませんが」


「あぁ、それには心当たりがある。今は言えないが、その魂胆にディード王国が関わっているとなると、今後の付き合い方は考えなければならんな...」


「そうなのですね...そう言えば私の実家が今度ディード王国と取り引きするって言ってましたけど、大丈夫でしょうか...」


 あんなクズはどうなっても構わないが、養父母まで巻き添えを食ったりしたら堪らないので、思わずそう口にしていた。


「なんだと!? クレイトン伯爵家がか? 詳しく聞かせてくれ!」


「詳しくと言われましも...この間、実家に寄った時に義兄から、今度ディード王国と取り引きすることになったから、通訳としてただ働きしろと言われたぐらいなんですけど..」


「それでどうした? 受けたのか?」 


「いえ、断りました...というか、逃げ出しました」


「逃げた? どういうことだ?」


 そこで私はちょっと迷った。身内の恥を晒していいものかどうか。だが結局、アレックスの押しに負けて全て告白してしまった。


「あんのゲス野郎! 僕のアビーになんてことしやがる!」


「あぁ、なんて酷いことを! アビー! 大丈夫だった!?」


 いや私、お前のもんじゃねぇし。それとブレンダ、心配してくれるのは有難いけど、私に抱き付いて胸にグリグリ顔を押し付けるのは止めてくれ。

 

 ブレンダ、女にしては背がちっちゃいから、女の中では背が高い方の私に抱き付くと、ちょうど顔の辺りに私の胸が来るんだよね。くすぐったいし恥ずかしいから止めて欲しい。


 それとアレックス、いいなぁって顔しながら見るのも止めてくれ。


「いいなぁ...」


 おいっ! 言葉にもするんじゃねぇ!



◇◇◇

 


「ただいま~!」


「アビーお姉ちゃん、お帰り~!」


「アビー、お帰り~ お疲れ様~」


 今、私の家には義姉のクレアと姪のキャロルが一緒に住んでいる。現在、義姉はあのクズと離婚調停中で既に別居しているからだ。私に手を出そうとしたあのクズは、他に愛人を何人も囲っていることが判明し、愛想を尽かされたのだ。自業自得だ。ざまぁ!


 その後、実家に帰り辛いと言った義姉を、キャロルごと私が引き取ったのだ。


「でもアビー、本当にいいの? 私達お邪魔じゃない?」


「全然邪魔じゃないです! いつまでも居て下さって構いません! というか、ずっと居て下さい! 私、家族っていうものに昔から憧れていたんです! だから私、今とっても幸せなんです!」


「アビー、ありがとう!」


「アビーお姉ちゃん、ありがとう! 大好き♪」


 ありがとうはこっちのセリフだよ。お帰りって言って貰えるのが、どんなに暖かくて嬉しくて懐かしい気分になるのか、教えてくれたのはあなた達なんだから。

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