第7話 もう一人の転生者

 ディード王国の特使だと名乗るその男は、とてもじゃないが友好的とは思えない顔でこう言い放ったのだ。


『これはこれは、さすがはアルファ王国。国が三流なら人間も三流なんですなぁ。こんなお子ちゃまに我々の相手をさせようなどとは...我が国を馬鹿にしてるのですかな? あぁいやいや、失敬失敬。馬鹿だから私が今何を話しているのかも分かりませんな。ハッハッハッ!』


 そして嫌らしく嗤ったのだ。


 アレックス王太子とブレンダ嬢がポカンとしているのも無理は無い。確かに男が言う通り、何を話しているのか分からなかったからだ。


 だがそれは彼らのせいじゃ無い。ブレンダはともかく、聡明で名高いアレックスならこの程度の言葉は理解できるはずだ。そして即座に言い返していたであろう。


 ディード王国の言葉であったなら...


 そう、この男が話しているのは大昔に滅んだ国、エクス国の言葉だったのだ。つまり、既に存在しない国の忘れ去られた言葉を流暢に話すことにより「お前らの誰も知らない言葉を俺は話せるんだぜ! 凄いだろう! お前ら低能とは頭の出来が違うんだ!」をアピールし、更に「どうせこいつら意味分かんねぇんだからついでにディスってやれ!」という下衆な魂胆なんだろう。


 つまり我が国を二重の意味で侮辱にした訳だ。とんだクズ野郎である。そう言えばあのクズ義兄が今度ディード王国と取り引きするとか言ってたな。クズはクズを呼ぶのかな?


 それはともかく、馬鹿にされて黙ってる訳にはいかない。だから、


『随分なご挨拶ですこと。一国の特使が発する言葉とはとても思えませんわね。我が国を三流と呼ぶなら、そちら様はさぞかし高級なんでしょうね? あら? でも変ですわね? このように正式な外交の場で、そのような品格の無い言葉使いをされるなんて、とても高級な方のなさる事とは思えませんわ。お里が知れましてよ? もしかしたら、そちら様は三流どころか四流なんじゃございませんこと? オーッホホホッ!』


 と言ってやった。もちろんエクス語で。


「ぬあっ!?」


 フフッ! 反論されると思ってなかったのと、エクス語を喋れる者が居るとは思わなかったのと、二重の意味でショックを受けてるね。ざまぁ!


『な、なるほど...あなたは中々やるようですね? でもこれはどうでしょうかな?』


 今度はやはり既に滅んだ国、ワイー国の言葉で来たか。なるほどなるほど、読めたぞ。こいつも言語マスターのスキル持ちなんだな。だったら、


『甘いですわね。そちら様の考えはお見通しですわよ』 


 私は先手を打って、やはり既に滅んだ国、ゼート国の言葉で答えた。この勝負、どちらの引き出しが多いかが勝負の分かれ目になる。すると、


「ハッハッハッ! 私に勝負を挑むとは愚かですねぇ。いくらあなたでも、この言葉は無理でしょう?」


 男は勝ち誇ったように笑いなからそう言った。ある意味私が一番馴染み深い言葉...


 そう、日本語で。


「驚いたわ...私の他にも転生者が居たなんて...」


 あんまり驚き過ぎて、思わず素で答えてしまった。


「な、なにぃ!? ま、まさかお前もか!? く、くそぅ! きょ、今日はこの辺にしといてやる! お、覚えていろよ!」


 そう日本語で言って男は去って行った。いやいやいや、何がこの辺なのか、何を覚えていればいいのかさっぱりなんだが...取り敢えず勝ったってことでいいのか? 何に勝ったのかも良く分からんが...


 その間、ポカンとしっ放しだった二人には「後で説明するから」と耳打ちして、やっと舞踏会がスタートした。

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