第4話 クレイトン伯爵家

 私を養子にしたクレイトン伯爵家には、私の義兄にあたる嫡男のブラドが居る。


 こいつがとにかく見下げ果てたクズ野郎なのである。私より5歳年上のこのクズは、10歳の初対面の時から私のことを「薄汚い平民が!」と罵って来た。


 今は引退して領地に引っ込んでいる養父母がどれだけ宥めても、その態度が一向に改まることはなかった。私は初めて触れた他人の悪意と敵意に怯えていた。


 その癖このクズは、私が成長するにつれ隙さえあれば私の体を狙うようになった。私が王宮勤めじゃなかったら、私の純潔はとっくにこのクズに奪われていたことだろう。そう思うと悪寒と吐き気が止まらなくなる。


 今日は久し振りにクレイトン伯爵家を訪れている。あのクズの顔は見たくないので、ちゃんと居ない時を狙って来ている。


「お義姉さま、ご無沙汰しております」


「アビー、久し振りね~ 元気だった~?」


「はい、お陰さまで。お義姉さまもお変わりありませんか?」


「えぇ、相変わらずよ~」


 このポヤポヤした女の人は私の義姉にあたるクレアだ。ホントになんであんなクズと結婚したのか未だに分からないくらい、とっても良い人だ。そして...


「アビーお姉ちゃん!」


「キャロル! 久し振り! 元気そうね? 良い子にしてた?」


「うん! ちゃんとママの言うこと聞いてるよ!」


「偉い偉い!」


 今年5歳になる姪のキャロルだ。私の癒し! 私の天使! この笑顔を見るために来ている! あぁ、本当になんでこんなに可愛いのかしら!


 ちなみに実際のところ私はキャロルの叔母にあたる訳だが、お姉ちゃんと呼ぶように教育している。こればっかりは誰になんと言われようと変えるつもりは無い!


 その後、義姉と可愛い姪と一緒にお茶しながら穏やかな時間を過ごしていた。それなのに...


「フンッ! 何やら臭い匂いがすると思ったら、薄汚い平民が我が家で何をしている!?」


 今日は家に居ないはずのクズがやって来た。

 

「あら? あなた、今日はお出掛けじゃなかたの~?」


「あぁ、気が変わったんだ。お前らが何やらコソコソやってるのが気になったんでな。案の定、薄汚いネズミを家に引き入れたって訳だな。姑息な真似をしおって!」


「お義兄さま、キャロルが怖がっておりますので、その辺りで勘弁してあげて下さいまし。私はすぐ帰りますので」


 そう言って席を立ったのだが、


「待て! 貴様に話がある! 俺の部屋に来い!」


「ちょっと、あなた!」


「いいんです、お義姉さま。分かりました、参りましょう」


 私は心配そうに見ている二人に「大丈夫、心配しないで」と安心させるように微笑みながら、クズの部屋に向かった。



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