第2話 アビーの過去
私は転生者だ。
転生する前の私は日本中どこにでも居る極普通の独身アラサーOLだった。私は転生者に良くありがちな乙女ゲーム好きでも転生物の小説やマンガが好きでもなかったので、ここがそういった物語の世界かどうかなんて分からないが、正直どうでもいいと思ってる。
そんなことを気にするよりも、せっかく掴んだこの第二の人生を心行くまで楽しもうと思っている。なにせ前世の私は、大雪が降った日に会社に遅刻しそうになって、慌てて行った駅の階段から足を滑らせて落ちた所で記憶が途切れているから、恐らくそこで死んだんだろう。人生半ばで。
だから第二の人生では今度こそ天寿を全うしようとも思っている。さて、転生者にありがちだというチートだが、ちゃんと私にも備わっていたようだ。
この言語マスターという能力を神から授かった訳だが、なぜ数多ある中からこの能力になったのかに関しては、何となくだが私には心当たりがある。
それは私の前世における拘りというか価値観が多分に影響してるのではないかと思っている。前世の私はヒットしている映画やマンガ、小説なんかを見たりする度に良くこう思っていた。
なんで通訳無しに普通に会話できるんだろう? と。
考えてみて欲しい。地球だったら例え地続きの国であっても使用する言語が違うのだ。海を挟んだ国と国なら尚更だ。
ニュースを見たって分かるだろう。各国の首脳が会談する場には必ず通訳が側に居る。同時通訳のお陰で外国人の言ってる意味が分かって、お世話になったと感じたのは私だけじゃないはずだ。
私は洋画や海外ドラマを字幕で楽しむ派だったので、ここでも通訳してくれる人には感謝していた。
翻って創作物を見てみると、通訳が活躍するようなヒット作品をすぐには思い付かない。
私はクリエイターじゃなく単なるリスナーだったから偉そうなことは言えないが、恐らく「通訳なんて介していたら世界観が壊れる」とか「会話のテンポが崩れる」とか、そんな理由なんだと思うけど、何となく釈然としない気持ちを抱えていたのは確かだ。だったらお前が書いてみろ! と言われそうだが、文才が無いので勘弁して欲しい。
そんな風に思っていたからだろうか? 言語マスターという能力を授かった私は、それを普通に受け止めることが出来た。この能力を活かして生きて行こうとすんなり思えたのだ。
◇◇◇
「ほら、殿下! いつまでも笑ってないで! 菓子折り持って謝りに行きますよ! ブレンダ嬢もいつまでも泣いてないで! ほら、さっさと立つ!」
「大丈夫だって~♪ ヘンリーはちゃんと分かってくれてるから、そんなに慌てなさんな♪」
ちなみにヘンリーとは隣国エイナの大使で、先程無礼を働いてしまった人だ。
「何を呑気な! 外交問題に発展したらどう責任取るつもりですか!」
「アビー、そんなにカリカリしない♪ 皺が増えちゃうよん♪」
「誰のせいですかぁ!」
それと私はまだ18歳だ! 皺が寄って堪るか!
15歳の殿下に振り回される日々がこれからも続くようなら分かんないけど...
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