決着
6話:対峙を前に
6話:対峙を前に
ノッペクサのアトリエでゲートを作り、表に戻ってきた。
確立しかけの技術なので、座標の調整を含めて一晩を使う。レーニにはちょうど眠る時間が必要だったので、ベッドを借り、遠慮なく眠っておいた。
水溜まりを使った縦方向の移動では、ゲートの先へ飛び降りる形になる。高さにして二階から垂直に飛び降りるのと同程度だ。レーニとイテュードは手袋を留めて、腕も使って衝撃を受け止める。
持ち出した武器を小脇に抱えている。レーニは長剣、イテュードは生体一体型の銃器だ。左手の前腕から肘の方向へ発射する。その際に、右肩を掴んで衝撃を受け止める。魔界技術の中でも、これは真似できなかろうと思った。
出た先は郊外の車道だった。まずは大急ぎで道の端まで寄る。朝焼けの下では交通量こそ少ないが、この時刻に走るような車両と曲がりくねる道の組み合わせだ。減速にはとても期待できない。
レーニはこの道を見たことがある。魔界へ迷い込む直前の、トルーエンとの交戦をした街に向かうとき、直前に通過した街が目の前に見える。
植物の色が馴染みある緑だ。灰色ではない。都市部を眺めると送電線が見える。屋根は三角形と四角形だ。レーニはこれまでの、どの戦場から戻った時よりも安堵した。
「この匂い、雨が降ったね」
レーニが見つけた匂いとイテュードの魔界知識を合わせる。
「量は? トルーエンが雨で膨れあがったら」
続きよりも先に、答えが遠くに見えた。市街地にある大きめの建物の奥で、トルーエンの姿が蠢いた。
レーニは腕を伸ばし、目とトルーエンの中間でいくつかの印を結んだ。並んでいる三階建の建物を高さ一〇メートルとし、およそ五ミルと一致した。距離を二キロメートル前後と想定する。歩けば三〇分程度だ。まずはイテュードに共有して、歩きながら最後の作戦会議をする。
「レーニ、その手は?」
「建物の大きさ、指で角度。その二つを合わせたら、目標までの距離を割り出せる」
「すごい技。後で教えてよ」
「もちろん。で、まずトルーエンの大きさは私の四倍強。打つ手は?」
「レーニが引きつけて、私が撃つ。その剣を刺したらあの体が萎むまで七〇秒ってとこだな」
「長すぎる。裏技は?」
「推測した大きさなら、二箇所くらい刺せるかもね。四〇秒だ」
「三箇所なら」
「深くまでだぞ。やめときなよ」
作戦はもう、どれだけ話しても同じだ。打てる手が限られている以上、これ以上の改善は見込めない。レーニとイテュードは到着までを雑談に使った。声の聴き取りやすさを音ごとに調整する。言葉の選び方を把握する。行動の基準を伝えたう。どれも連携のために役立つ内容だ。親睦はそのまま部隊の性能になる。両者ともによく理解している。
話の中で、トルーエンが妊婦を狙う理由の推理も話した。レーニが考えた通り、重要なのは胎児だ。ただし、繁殖に必要かどうかは未確認で、単に味がよいからとも言われている。レーニが鉙治を用意した方法に関し、精子を提供した人物、キマも話題に上がる。イテュードは魔界で見かけていた。この頃、たまに見かけるようになった男と特徴が一致している。ゲート以外で魔界と接触する方法を知るチャンスとして、レーニは話の仲介を請けた。
街に近づく道を警備員が立ち塞がる。イテュードに彼らの役目と自分たちの立場を伝えた。会話はすべてレーニが受け持ち、堂々と振る舞う。
「お二方。危険だから、通せないよ」
「雨宮令。江坂博士から名前ぐらい聞いてるでしょ。あの怪物の退治を任されてる。通るよ」
警備員たちは相談をする。誰かが来るとは聞いていない。しかし、江坂博士を知っているし、怪物も知っている。本当なのか、何者なのか。自分たちはどう行動するか。若手の言葉が答えになった。
「雨宮さん? 自分は去年、六番部隊で世話になりました」
「どうも。私は、顔と名前を覚えてないのだけど」
「そうでしょうね」
警備員はフェンスを持ち上げた。
「この方は信用に足ります。詳しくは後にして、まずは江坂博士に連絡を」
二人は唯一の障害物を突破したので、街はすぐそこだ。建物の間からトルーエンの姿が再び見えた。膨れ上がった体の側面めがけてレーニは小石を蹴る。
トルーエンと正面から向き合った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます