肝っ玉母ちゃん?!

「よくぞ来た。【勇者】ミウ、【聖母】セナ、【剣聖】カイトよ」


 一段高い所にある玉座に座る国王が嬉しそうににこにこと笑いながら、ミウを抱っこしている【剣聖】カイトと、その横に立つサナの三人を見ている。その姿はまるで孫を連れて帰省してきた息子夫婦を見ている様である。


「はい、国王陛下。ミウのステータスを見れるようになったと伺いました」


「おっと……そうじゃそうじゃ。コッティがようやく、【勇者】ミウのステータスのモザイクを取り除く術をみつけたのじゃ」


 国王がそう言うと、隣の椅子に座っていたコッティが三人の元へと歩んできた。そして、【勇者】ミウの頭の上に手を翳す。そのコッティの行為に少しびくりと反応するミウ。そんなミウを安心させるかの様に、サナの掌がミウの身体に触れると、ミウはサナの方へと振り返り、ほやっと微笑んだ。


「ほうほう……数日の間、一緒に暮らしていたせいか、随分と打ち解けたようじゃなぁ……良い良い」


「いやだぁ…………とてもお似合いの若夫婦とかぁ……本当に結婚してミウを養子にしてしまえとかぁ……もうっ、国王陛下ったらぁ……」


「い、いや……誰もそんな事など言うとらんがのぉ……」


 熟れた鬼灯の様に顔を真紅に染め、くねくねと身悶えている【聖母】サナを困った様子で見ていた国王が、こほんと一つ咳をした。その咳が合図となり、これまたサナを呆れた顔をして見ていたコッティが口を開いた。


「ステータスオープン」


 その言葉が終わると同時に、ミウの頭上に文字列が浮かび上がってきた。


 名 前:ミウ

 性 別:女

 資 格:勇者

 レベル:1

 スキル:

 加 護:

 特 技:


 やはり最初の頃と変わらず、基本情報以外のスキル、加護、特技等の欄にモザイクがかかり、見る事ができなかった。すると、コッティがそのスキルに手を添え、何やらまじないを唱えだした。皆がそれを静かに見守っている。


 しばらくするとステータスに添えていた手から、それらを包み込む様に光りが溢れ、その光りの眩さに誰もが目を細めた。


「だぁだぁ……」


 ミウだけが、その光りに動じず、もみじの様な掌を光りに向かい伸ばしている。


 そして、光りがおさまった。


 名 前:ミウ

 性 別:女

 資 格:勇者

 レベル:1

 HP999 MP999

 攻撃力999 守備力999 素早さ999 魔力999

 魔法属性:全属性

 スキル:【天使の笑顔】【無慈悲な一撃】【泣き落とし】【駄々をこねる】【無我夢中】

 加 護:【両親の慈愛】【両親の庇護】

 特 技:【高速はいはい】【寝落ち】【下唇ぷるん】


 光りがおさまると、そこには先程までは見る事の出来なかったステータスの部分がはっきりと浮かび上がっていた。


 その【勇者】ミウのステータスの異常な高さに驚いた。そして、スキルの内容に。何故なら、そのスキルは誰も見た事も聞いた事もないものばかりであったからだ。


 だが、コッティだけは納得した様な表情をしていた。


 しかし、その中の一つであるスキル【泣き落とし】、また特技の【下唇ぷるん】には少しだけ想像がつくのと、身に覚えがある国王達であった。


 多分……あれだろう……


 国王も女王もサナもカイトもキラも、あのミウの姿を思い出したが、敢えて誰も口にしない。あれが生まれ持ったスキルだなんて……


「ごほんごほん……それはさておき、この赤ちゃんにしては高い能力値。皆さん、いくら勇者といえ高すぎると思いませんか?」


 気を取り直したコッティが皆の顔を見回しながら話しだした。Lvは1。これは、召喚されて数日しかたっていない事と、まだ魔物を一匹も倒していない事から当然である。しかし、それなのにHPから何から数値が異常な程に高い。


「これには理由があります。この加護のせいです」


 そう言うとステータスの加護のところを指さす。


「この加護の【両親の慈愛】と【両親の庇護】に理由があります。まず【両親の慈愛】。これはママである【聖母】サナとパパの【剣聖】カイトと一緒にいるだけで発動し全ての状態異常を無効化してしまう。そして、もう一つの加護【両親の庇護】これがミウの数値を高めている原因の一つです。この【両親の庇護】は、【両親の慈愛】と同じくママとパパの傍にいるだけでHPから魔力までの数値が倍になります」


「私とカイトと一緒にいるだけで……でも……どうしてコッティ姫は、このスキルをご存知で?アカデミーでもこんなスキルは聞いた事はありませんでしたが……」


 スキルの内容もそうだが、コッティがそのスキルの内容を知っていた事に対しても驚きを隠せないサナ。否、サナだけではない。コッティの両親である国王と女王も同じであった。


「あぁ、言ってなかったわね?私はステータスを見たり、浮かび上がらせるだけじゃなくて、そのスキルや加護の注釈みたいな物も見る事ができるの。だから、私にスキルや加護を隠し通す事なんて出来ないのよ?……まぁ、あんなモザイクなんてかけられてたら時間がかかっちゃうけどね」


 コッティはまたミウのステータスに目を戻すと、スキル欄なあるスキルを指差しながら、一つ一つの説明を続けた。そして、スキル【泣き落とし】のところでは、そのスキル内容を聞いた皆は何故か深く頷いているのであった。


「な、何か凄いわね……赤ちゃんでも、さすが【勇者】ってところね。でも……コッティ姫、いくら加護の力があったとしても、さすがにステータス値が高すぎませんか?全て数値が999……加護のない状態でも……450以上……」


「そうよ、よく気がついたわね?ところで【聖母】サナ、あなたは【聖女】から【聖母】にジョブチェンジして自分のスキルを確認したかしら?」


 突然、自分のスキルの事を問われたサナ。そう言えば、ここ最近、特にレベル上げをしていた訳でも無いことから、全くステータスを覗いていない事に気がついた。


「全く確認していませんでした……」


「まぁ、特にレベル上げとかしてなかったなら、普段は確認なんてしないからね。このミウの異常な程に高い数値にはミウの持っている加護の力だけじゃなくて、ママである【聖母】サナのスキルと、パパである【剣聖】カイトのスキルのせいもあるのよ」


 すっかりミウのママ扱いされているサナは、もうその扱いに突っ込むのも疲れるので、敢えてスルーしている。だが、サナとカイトのスキルが関係しているという言葉は気になった。最近は確認していないが、それでも何度も開いたステータス。そこのスキル欄にその様なスキルはなかったはずなのだ。


 ちらりとカイトの方へと視線をやると、カイトも身に覚えがないという表情をしている。そんな二人を見てくすりとコッティが笑った。


「まぁ……騙されたと思ってステータスを開いてご覧なさい?まずは【聖母】サナから」


 コッティに促され、ステータスを開示する。名前も性別も資格も、ステータス数値にも変わりはない。しかし、サナはスキル欄のところに視線を移すと、驚きを隠せずにあわあわと震えた。


 スキル:【肝っ玉母ちゃん】【慈しみの心】【怒髪天】【夫への愛】【やりくり】


 それもそうなのである。今まで持っていたスキルが一つもなく、これまた見た事のないスキルになっていたのだ。


「えぇ……なにこの【肝っ玉母ちゃん】って……」


 五つあるスキルの中で、【肝っ玉母ちゃん】と言う名のスキルが一番ショックだったのか、サナは力の抜けた表情でそのスキルを指差し震えていた。



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