第47話・離れていた十三年分の想いをきみに
(なんだかハロルドのお嫁さんになる方って大変そう。そういえばローランも独り身だったわよね)
美青年で愛想がよく好青年で、女性受けしそうなハロルドには特定の女性がいないのを不思議に思っていたが、それは仕事柄、女性とめぐり合う機会が少ないせいではなくて、色々と事情がありそうだ。
ハロルドに同情の目を向けかけたアデリアーナを、トリアムが呼びに来た。
「王女殿下。仕立て屋が参りました。ドレスの仮縫いがありますので、お部屋にお戻りください」
「えっ。もう? そんな時間。もっとゆっくりできるかと思ったのに」
トリアムにそう返事をしておいてから、アデリアーナはソラルダットを振り返った。ここの所、結婚準備に追われていて、せっかくソラルダットが政務で忙しいなか、時間をつくって会いに来てくれても、ゆっくりと二人で過ごせないのが不満だ。
「余のことは気にせず行っておいで。アデル」
「でも……」
(もう少しソールと一緒に居たかったのに)
留まるアデリアーナを見かねて、リリーが促す。
「さあ。姫さま。皆さまお待たせしてしまいます。参りましょう」
(だって。ソールはいま来たばかりなのに)
うな垂れたアデリアーナの頭を、ソラルダットが胸元に引き寄せ、耳元に小声で囁く。
「今晩会いに行く。ベランダの鍵を開けておいて欲しい」
皆の目を盗んで会いに来ると、ソラルダットに告げられて、アデリアーナは黙ってこくりと肯いた。
「さあさ。陛下。お名残惜しいお気持ちはわかりますが、殿下をそろそろお放し下されないと、支度が終わりませんので、もう宜しいでしょうか?」
「トリアム。無粋だぞ。少しは気を利かせないか? 余はアデルと離れていた十三年分の想いを伝えるのに余念がないというのに」
密着していた二人の間に割り込むようにして、入ってきたトリアムに、ソラルダットが反論する。トリアムは怯まなかった。
「お言葉ではありますが、過ぎ去った十三年の月日よりも、この後、何十年と添い遂げられる事の方に、比重を置かれてはいかがですか?」
「うむむむ」
トリアムの言葉にソラルダットが唸っていると、ハロルドが止めとばかりに言った。
「これは陛下の負けのようですね。侍従長にはさすがの黒豹王も適わないようで」
「黙れ。ハロルド」
負け惜しみのように睨むソラルダットも何のその。といった態度で、トリアムは二人のやり取りを笑って見ていたアデルを急かす。
「さあ。殿下。お急ぎください。本日は仮縫いが五着ほどありますので」
「ごっ。五着も?」
(一着でさえ辛いのに。拷問だわ~)
「時間が押すとその分だけ遅くなりますよ。大好きな陛下にお逢いする時間が減るのでは?」
侍従長のトリアムが顔を寄せてきて、囁く。どうもソラルダットとの、今晩の逢瀬の約束を聞かれていたようだ。アデリアーナは頬をぴくりと反応させた。
ドレスの仮縫いには長い時間が取られる。三着分あるので今からだと夕食の時間までかかりそうだ。
結婚式は三日三晩続くので、花嫁は何度も着替えることになる。今日の仮縫いのドレスは初日の分にしかならず、今週はドレスの仮縫いに時間を要することになりそうで、仮縫いの間、じっとしていなければならないアデリアーナには、身動きできないのが苦痛でならない。今からそれを思うと憂鬱になりそうなのだが、躊躇っている場合ではなかった。
(もし遅くなったら、陛下には会わせてもらえなくなるわ)
侍従長は仕事に実直なので、時間に支障が出ればあっさりと切り捨てる部分があった。
「行きます。今すぐ行きますね。侍従長」
その先を言わせない様に、アデリアーナはさっさとソラルダットから離れた。時間に煩い気真面目な侍従長には逆らえない。
「アデル~」
「また後でね。ソール」
名残惜しそうに見つめて来るソラルダットに後ろ髪を引かれながら、トリアムの後に従った。
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